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48歳からの大人バレエ ~うちのママに天才バレリーナが憑依しちゃいました~  作者: 明けの明星


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18/21

「その他大勢」のモチベーション

発表会の練習が始まったものの、憂鬱な気分に

次の合同発表会に向けての練習が始まった。


まずはアントレーと呼ばれるオープニングだ。

これだけで、前のワルツの半分くらいの長さになる。


「じゃ、6人はここに並んで」

といずみ先生が言う。


6人、それはバリエーション2を踊る6人のことだ。

一列に6人が並び、その前を二人ずつ、ステップを踏みながら交差してゆく。


振付が進んでゆくにつれ、このアントレーでのそれぞれの役割が明確になってきた。

ゲストの康太先生としのぶが主役。

準主役に、バリエーションを二人で踊る2組。

そして、6人組は、いわば脇役、その他大勢だ。


前回のワルツでは、センターと言う立ち位置で踊るのあはいたものの、他は全員同じステップをフォーメーションを変えながら踊った。

しかし、今回は少し違う。


真理はその差にいち早く気付いた。

ずっと舞香の振り付けを見てきた。

その他大勢と主役がいるのは仕方がないこともわかっている。


今回の真理の役回り。

それは今の彼女にとって、順当な「評価」なのだ。

それもわかっている。


今回、「主役」の扱いとなるしのぶ。

そのしのぶの言葉がどこかで引っかかっている真理。


自分が、皆さんを差し置いて主役だなんて、申し訳ない。

と、しのぶ。

それをどうしても、黒い気持ちで包んでしまう真理。


同時に昔の事がよみがえる。

子供の頃、習っていてバレエ教室で。


同じように発表会があった。

その時も、「黒い気持ち」が支配した。


自分より後に始めた子が、自分より「いい役」に選ばれる。

自分より、年下の子がセンターを務め自分は脇で立っているだけ。


そして。

一緒にレッスンをしてきた子たちが、トゥシューズで発表会に出るのに、

「真理ちゃんはまだね」

と自分だけ許可されなかったこと。


そんな子供の頃のほろ苦い思い出。

バレエは好きだった。

踊るのは楽しかった。

と同時に同じくらい、切なくて悲しい思い出が詰まっている。


大人になって、もういい歳になって、またバレエを始めて。

今度こそ楽しい事ばかりだと思っていたのに。

あの頃の胸がぎゅっとなる思いにまたしても襲われている。


それでも。

バレエを辞めたい、ここから逃げ出したい、とは思わない。


「やっぱり好きなんだ」

と真理はしみじみと思う。

「好き」この気持ちでモチベーションが保ててしまう。

不思議なことだ。


次の合同発表会、舞香も興味津々で真理の振り付けの進み具合を知りたがった。

舞香も何度かこの演目を踊っている。

もちろんセンターとしてだ。


「でさ、パキータだと衣装は」

と言いながらくすくす笑う舞香。


「そう、チュチュ」

と真理が言う。


チュチュ、それはバレエには欠かせない衣装の代表格だ。

上半身はぴったりと体に沿い、腰のあたりから、薄いチュールを何枚も重ねたスカートが花びらのように広がる。

そのスカートから、すらりと伸びた脚がなんとも美しい、はずの衣装だ。


「わ、ママ、その歳でチュチュを着るんだ」

と舞香。


「バレエを始めたからには一度は着てみたいでしょ」

と真理が照れながら言う。


「子供の頃は?」

と舞香が聞くと。


「チュチュは着たことがないの」

と真理が言う。


子供の頃、3回ほど発表会を経験したが、その時の衣装はどれもワンピースのようなスカートだった。

いや、一度はアラビアの衣装でズボンだった。

他の子たちがきらびやかなチュチュを着ていたのを羨ましく見ていたのだ。


「じゃ、少しはダイエットでもしたら」

そう言い残すと舞香は自室に引き上げていった。


「そうよね」

と真理はつぶやく。


その日、入浴の折に脱衣所で自分の姿を鏡に映してみた。

脱衣所の洗面台には、大きな鏡があり全身が映るのだが、自分の身体なんぞまじまじと見つめたことなどない。


鏡の中、そこには。

二の腕、ふともも、腹にだらしなく肉が付き、全体的にぼてっとしたうえ、肩をすぼめた、覇気のない「おばちゃん」の身体が映っていた。


「これが、私かあ」

と思わずため息が漏れる。


「運動ならしてるんだけどな」

と漏らす真理。

バレエの稽古はかなり運動量だ。

カロリー消費もしているはず、贅肉が落ち、筋肉も「きれいに」付いてきているはず。

しかし、その効果は今のところ確認することが出来ないようだ。


ずっと昔、パレロワイヤルバレエ学校の公演を観に行ったとき、

劇場を出てくる生徒たちに遭遇した。


長い手足、長い首、長い指、長いまつげ。

背筋を伸ばし立っているだけでも圧倒的に他者とは違うその姿。

ただ歩いているだけなのに、優雅で流れるようなその歩。


今の自分とは、同じ星の生物とも思えないほどだ。

あんた身体を持っていたら、人生もちがっただろうに。

と思わ想像を巡らせる真理。


その時だった、真理の脳裏で声が聞こえた。


ーだからさあ、あの体型を維持するために、どれだけ苦労しているか、努力しているか、

知ってて言ってる?-


周囲を見渡すが誰もいない。


ーまあ、あんたじゃ駄目ね。他を探すわー

とまた声がした。


テレビがつけっぱなしなのか、スマホから聞こえてきたのか、隅々まで探すがわからない。

しかし、しばらくするとそんな声の事も忘れて、湯船につかりながら発表会の稽古の事を考えていた。


「やっぱ、またその他大勢か」

とつぶやく真理。


それでも、トゥシューズで踊れる。

これだけでも、真理にとっては夢が叶ったのと同じだ。


「私なんかが、こんないい役で」

としのぶの声と姿がこだました。


そりゃ、しのぶちゃんは綺麗だし、上手だし。

なんとか納得させようと、しのぶの「良いところ」を並べ立ててみる。


「私は私、出来る範囲で精一杯、頑張りますよ」

と心の黒い霧を払拭させるように、自分に言い聞か奮い立たせる真理だった。

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