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48歳からの大人バレエ ~うちのママに天才バレリーナが憑依しちゃいました~  作者: 明けの明星


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13/21

輝く舞台で

いよいよ本番の舞台が始まりました

真理たち、大人クラスの生徒による眠れる森の美女より「ワルツ」

が始まった。


舞台を照らすまばゆいばかりのスポットライト。

そんな舞台はその上に立つ者を、ただただ輝かせてくれる。

それが、まだまだ素人同然の「大人バレエ」の生徒たちであったとしてもだ。


みんな、舞台袖では不安げに身を縮めていたが、

音楽がかかり、出番となると背筋を伸ばし、晴れやかな笑顔で舞台へと駆け出した。


真理も、震える足をしゃんとさせ、肩を落とし首を伸ばし、手に花輪をもって、

舞台へと進み出た。


決まっている立ち位置に着きポーズをとると、客席をちらりと見る。

薄暗い中に大勢のお客さんの顔がぼんやりと見えている。


隣りに並んでいる幸子が一瞬たじろぐようにふらついたのが分かった。

しかし、もうここは舞台の上。

ためらっている暇などない。


舞台の上の全員が音楽に合わせて、何度も何度も練習してきたステップを踏む。

いつもの稽古場と本番の舞台とではその大きさがかなり違うので、立ち位置の最終確認をしたのは、

つい先ほどのゲネと言われる本番前のリハーサルだった。


間違えやしないか、皆口々に不安を漏らしていたけれど、それは余計な心配だったようだ。

難しいステップも大ジャンプや何回転もするような高難度の振りもない。

それでも、この場にいる生徒たちはみなで動きを合わせ、綺麗なフォーメーションを取り、

ワルツを踊る。


そして。

気が付けば舞台の前方で皆一列に並んでいた。

踊り終わったのだ。


全員で「お辞儀」をする。

踊り終わりの挨拶だ。


会場内からは大きな拍手が沸き起こった。

息を切らせながら、舞台の上の全員が感極まったように客席を見つめていた。


夢の時間、それはあっという間に終わっていた。

踊り終えお辞儀を済ませたら、いつまでも舞台の上に留まっているわけにはいかない。


一番右側から順次舞台袖へと入っていく。

小走りだが、つま先を伸ばし右手を前方に掲げる、バレリーナの歩き方での退場だ。


いずみ先生は

「舞台の上では皆さん本物のバレリーナですからね。最後まで気を抜かずに歩き方も気を付けて」

といつも言っていた。


「家に帰るまでが遠足みたい」

と生徒たちは笑ったが、身体の一部でも客席から見えている限りバレリーナの仕草を忘れてはならないのだ。


舞台から袖にに入る。

そこは薄暗い空間だ。


真理たちが退場したのは「下手」と呼ばれる舞台から見て右側だ。

バレエや演劇など舞台での公演は、上手と呼ばれる袖から出演者が出ることが多い。

そのためか、下手側にはその舞台で使用される道具類を置いてあることが多い。

ガランとした広い空間だ。


全員が舞台袖に引き上げると、誰からともなく皆手を取り合っていた。

そして、半分涙の混ざった笑顔でお互い顔を見合わせた。


舞台の上では、もう次の演目が始まっている。

舞台袖での声は意外と客席まで聞こえてしまうから、口から飛び出しそうな歓声をあえてのみ込んでいた。


バタバタと楽屋に戻り、そこで。

歓声と歓喜のおたけびが響き渡った。


手を取りながら、大黄な生徒たちがまるで幼児のようにぴょんぴょんはねながら、

言葉にならない何か、を発している。

皆同様に興奮状態だ。


そこに、いずみ先生がやってきた。

手を叩きながら、出演した大人クラスの生徒全員をねぎらういずみ先生。

その眼も薄っすらと潤んでいる。

それからしばらく、楽屋の中では熱気があふれ、生徒たちは歓喜溢れながらお互いをたたえ合った。


「ママ、お疲れ様」

と劇場の裏口で舞香が声をかけた。


出番を終え、それから。

真理は、その後の記憶がほぼない状態だった。


出番が終わると、第三部後の終演まで衣装とメイクはそのままで過ごし、

舞台上で出演者全員で記念写真を撮った。

その後、帰り支度をして楽屋を出た。


それが、まるで記憶が飛んでいる。

ワルツが終わって、楽屋に戻って、気が付けば大きに荷物を抱えて舞香の待つ裏口に来ていた。


「あっという間だったでしょ?」

と舞香が言う。

なんだかぼーっとしている真理の様子を見て、何か察したようだ。


「まだまだだね」

と笑いながら。


その日は久しぶりに帰省した長男と共に、近くのファミレスで遅い夕食を摂った。

身体はくたくたに疲れていたが、どうも頭がさえていて心を落ち着かせたかったのだ。


真理と舞香は今日の舞台について色々と語り合う。

舞香のダメ出しは、

「もう少し、笑顔だったらよかったのに」

と容赦ない。


「笑ってるつもりだったんだけどな」

と真理。


「だってさ、下手くそが怖い顔して踊ってたら、観てる方も怖いわよ。

間違えたら、倒れちゃうんじゃないかって」

と舞香。


「たしかにな。踊りはそれなりに鍛錬しないと上達しないかもしれないけど、それ以外に出来ることはたくさんあるもんな」

と息子も和人。


和人はバレエとは全く無関係だが、真理の発表会は毎回欠かさず観に来ていた。

それなりに目は肥えている。


「じゃ、それ次回の目標で」

と舞香。


「え、まだ続けていいの?」

と真理が言うと、


「だって好きなんでしょ?だったらやればいいじゃん」

と舞香がさらりと言った。


今回の発表会のために、帰りが遅かったり家で衣装の手直しにかかりっきりだったり、

色々と時間を取られた。

今までなら舞香の発表会、言い訳もできたが今回は自分の都合、自分のため、だ。

それを家族に納得してもらうのは難しいと思っていたのだ。


「おやじがいなくてよかったな」

と和人。


実際、夫祥太が家に居たら、どんな反応だっただろうか。

遠い地での単身赴任中、電話やメールでの報告には好意的だが、色々と生活に支障が出るとなると、

心から応援するわけにもいかないだろう。


ファミレスを出て、自宅に戻ると戸棚から取り出した花瓶に花を飾った。

舞香と和人からの贈り物だ。


真理の発表会を見に来たのは舞香と和人だけだ。

他の大人クラスの生徒たちもそれぞれだった。

終演後、家族や友人に囲まれている者もいれば、一人で黙々と帰り支度をしている者もいた。


「私は、誰も来てないの」

そう言いながら、メイクを落としていた田代あかりの顔がは少しだけ寂しそうだった。


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