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48歳からの大人バレエ ~うちのママに天才バレリーナが憑依しちゃいました~  作者: 明けの明星


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11/27

発表会への道

本番当日の長い一日

それでは、4人の皆さんは一曲増えるので頑張って振り覚えてね」

といずみ先生が言った。


真理たち、大人クラスの生徒の中から、数名が「選ばれて」中学生クラスの生徒がメインで踊る演目に出演する。

真理は、そのメンバーには入っていなかった。


「晴美さん、がんばって」

と幸子が晴美に向かってほほ笑みながら言っていた。


真理も、同様に笑顔で晴美に語り掛けた。


「すごいね」

と。


「それから、今回は背の高さを揃えたかったので、あの4人の方々になりました」

メインの中学生より少し身長が高い人って指定があったのよ」

といずみ先生が補足するように言った。

確かに、選ばれた4人は皆同じくらいの背丈だ。


それでも、バレエ経験者ののあを除けは他の3人はみな素人同然。

真理の心は少しずつ曇っていった。


その日の夕食で。


「ねえ、ママ、どうしたの?スランプ?」

と舞香が話しかけてきた。

いつも通りにしているつもりが、心の中の憂鬱を見抜かれたようだ。


「舞香はバレエやってた頃悔しい思いとかしたことはある?」

と真理が聞いた。


「あるに決まってるじゃん」

しばらく考えた後、舞香は言った。


「陰口言われたり、稽古の邪魔されたり、そんなことは山のようにあったよ。

どれも悔しかった。

でも、私、あんたたちより上手くなるんだって思ってお稽古頑張ったら気分も晴れたかな」

と舞香。


それから、

「ママも悔しい思いしたの?」

と聞いた。


「うまく踊れなくてね」

と真理。


「それは練習あるのみ、でしょ。ママが自分で言ったんだよ。忘れたの?」

と舞香が言う。

確かに、それはかつて真理が舞香に言った言葉だ。


「それに、バレエは毎日のお稽古の積み重ねが本当に大切。とにかくお稽古、お稽古、お稽古。

長年ずっとこつこつお稽古重ねてやっと少しだけ花開くの。

自信になるのは、積み重ねてきたもの、だけよ。

ママは始めて何か月?そんなにすぐに結果を出そうなんて思わないでよ。

わかってるとは思うけど」

と笑う舞香。


「それにねママ、子供の頃にやっていた、っていうのは少し忘れたほうがいいよ。

今じゃ、身体だって違うんだし、今の自分にあった体の使い方をしないと」

とくわえて言う舞香。


まるで何かを悟っているかのような言い方だ。

少なくとも、10年以上、バレエと共に育ってきた彼女。

それなりの思いもあるのだ。


「じゃ、私は宿題でもやるね」

そう言うと、舞香は自室に戻っていた。


食卓に一人残された真理。

舞香の言葉は身に染みたが、今日の事が頭から離れない。


選ばれなかった自分、

悔しさが募る。


いくら、身長を同じくらいにそろえた、とかいわれても心は晴れずにいた。


そして舞香に、

「役に選ばれなかった」

と正直に言うことも出来ない。


大人のバレエクラスに通い始めて、初めて憂鬱な気分を味わった真理。

それでも、稽古を休むこともなく毎回通い、発表会の練習に全力を投入した。

踊りたい気持ちの方がはるかに強いのだ。


「いよいよ来週だね」

と舞香が言う。


発表会本番は来週の週末に迫っていた。

その日は遠方に住む長男も帰省しており、舞香と共に観に来てくれることになっている。

夫の祥太は、赴任先から帰国することが出来ないため、舞香たちに動画を送ってほしいと頼んでいた。

もちろん、真理には内緒でだ。


「メイクは、教室でやってもらえるけど、自分でも用意したほうがいいよ」

と舞香は先輩としてあれこれ真理に教えてくれる。


しかし、真理だって舞香の出演した発表会を何度も経験済みだ。

準備の方は万端だ。


衣装も届いた。

チュールスカートのドレスのような華やかな衣装。

こんなものを着るなんて、謝恩会か結婚式以来だ。


衣装はレンタルだから、体型に合わせて微調整が必要だ。

背中の「ムシ」を自分のサイズに付け直す。


かつては、舞香のために何度もやったことだ。

それを今は自分のために、自分でやる。


それから髪飾りに、小道具である花輪。

それらを丹念にチェックする。


花輪を持って踊る、「ワルツ」

持ち手にしるしを付けて、本番前薄暗い舞台袖でもわかりやすくしておいた。


そして、ついに発表会当日がやってきた。

開演時間は夕方だが、出演者たちは朝早くから集合する。


そこで、メイクを済ませ衣装を着け本番の舞台での最後のリハーサルを行う。

本番さながらの照明は眩しいくらい、まだ数名の関係者しかいない客席はとてつもなく広く見える。


今回の発表会、

あすかバレエスタジオの生徒と、いずみ先生率いる大人クラスの生徒の合同で行われる。

まあ、大人生徒の出番はごくわずかだが。


あすかバレエスタジオには、3歳から、大学生まで、大勢の生徒がいる。

前回の発表会では、その中心にいた舞香。


生徒たちの保護者、ほとんどが母親だが、も、同じく朝から会場入りをして

出演する子供の世話や、舞台の進行の手伝い、ゲストとして出演するプロダンサーの世話などを一手に取り仕切る。

真理もかつては、お揃いのTシャツを着て、忙しく劇場内を動き回ったものだった。


そんな親たちの、我が子の舞台リハーサルは、客席で見守ることが出来た。

先生の配慮だ。


子どもの生徒の演目ではリハーサルとはいえ、客席から拍手がわきおこる。

動画撮影にも余念のない保護者達。


真理たち大人クラスの演目、「眠れる森の美女」第1幕よりワルツ。

さすがに保護者はいないが、子供クラスの親たちがそのまま客席に残っていた。


踊り終えた真理たちに、チラリホラリと拍手が聞こえた。

まるでついでの声援のようだ。


そして、舞台からいったん楽屋に戻る真理たち生徒と、さきほどまで客席にいた保護者達が細い通路で鉢合わせした。

保護者の中には真理の事を知る者も多い。


「舞香ちゃんママ、今回は出演者なのね」


「本番、がんばってね」


「すごいね」


と声をかけてくれるかつてのバレエママ仲間。

曖昧な笑顔を返す真理。


そして。

少し遠ざかったところで、


「娘が辞めちゃったら、自分で踊るんだ」


「よくやるわよね」


「尊敬しちゃうわ」


「私には無理だけどね」


と保護者達がひそひそとささやき合っていた。

その声は小さいけれどその声は、しっかりと真理の心に突き刺さっていた。

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