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48歳からの大人バレエ ~うちのママに天才バレリーナが憑依しちゃいました~  作者: 明けの明星


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エリゼとの会話

一人悩む舞香は

いつもより、かなり遅い時間に舞香は帰宅した。

もちろん、母には連絡済みだ。

「稽古が長引いた」と。


しかし実際には真由子を呼び出していたのだ。

それを真由子自身が真理に伝えたと言う。


「なんて言い訳するかな」

と駅からの帰り道で悶々と悩む舞香。

遅くなった理由(わけ)だけではない、トロワの事を母に言うべきか。


「エリゼとだけ話せないかな」

と舞香。

自分が熱望して、母とエリゼの同居ということになったのに、今はエリゼと二人で話がしたい。

タイミングの悪い事だ。


「ただいま」

小さな声で言い、そっと玄関を開けた。

足音を立てないように家に入るが、さっそく台所から母の声がした。


「あら、おかえりなさい」

と。

台所をちらりと見ると、いつも通りの真理が洗い物をしていた。


「あの、遅くなって」

と舞香が言いかけると、


「真由子さんと会ってたんだって?」

と真理。


そんな真理に何と答えたらよいのか。

自分から呼び出した、とは言いたくないが既に真由子がそう伝えているかもしれない。

なんと母にメールをしたのかもっと詳しく聞いておけばよかった。


「そう」

と曖昧に返事をして足早に自室へと向かう舞香。

母の顔をまともに見ることができない。


「真由子さんも康太先生のレッスン受けてるのね」

と舞香の背後から声をかける真理。


「そうなのよ、だから帰りにちょっと話をしてたの」

と舞香が慌てて答えた。


自分の部屋に戻った舞香。

ドキドキしながら、ついさっきの短い会話を思い出す。

あんな返事でよかったのだろうか、つじつまは合っていたのだろうか。


しかし、真理からそれ以上何か言われることもなく、真理も台所での仕事を終えると自室へと戻ったようだ。

舞香の部屋の反対側にあるかつては兄の部屋だった母の自室。

兄が修学旅行の土産で買ってきた、大きな鈴がドアにかかっている。

開け閉めするたびに、ガランガランと鈍い音を立てるのだ。

その音が聞こえてきて、真理が部屋に戻ったのを確信する舞香。


「何の進展もなかったか」

と舞香はつぶやいた。


真由子にトロワを辞退してほしい、それくらいの事を言うつもりで呼び出したのに。

何も言えなかった。

それどころか、真由子の話術にはまり楽しくおしゃべりをしてしまった。


真由子と会って、心躍る時間を過ごした。

そう思うことに後ろめたさを感じる。


悶々とした気持ちのまま、風呂に入り明日の準備を整える舞香。

廊下の先の母の部屋からは何の物音もしない。


「言った方がいいのかな」

と何度も自分に問いかける。


普段ならもう寝る時間になっていた。

舞香は自室を出ると母の部屋に向かった。


「ママ?」

小さな声でそう問いかけながら、部屋の中を覗く。


真理は既にベッドの中にいた。

小さな寝息が聞こえておりすっかり眠ってしまっているようだ。


仕方なく戻ろう、としたその瞬間、


「マイカ?」

と寝ているはずの真理から声がした。


驚いて母、真理の顔を覗き込む舞香。

しかし、真理は眠ったままだ。


「私だよ、エリゼ」

とまた声がした。


「真理はもう爆睡してるけど、私はまだ起きているの」

と。


真理の身体に、真理と同居しているエリゼ。

真理が眠っていても、エリゼは起きている、そう言うこともあるようだ。

もちろん、その逆も。


「起きてるのね、エリゼ。少し話せる?」

と舞香。


「大丈夫よ」

そう言うエリゼに、


「ママには聞かれないのよね?ここで話していること」

と舞香が念を押すように言う。


エリゼと話がしたかった、エリゼと二人で。

これから話す事を母には聞かれたくない。


「爆睡してる限りはその心配はないわ」

とエリゼ。


それから、舞香はエリゼにのパドトロワの配役の事を事細かに話した。

母から、真由子へと変更になりそうなこと、真理にはその代わりに「6人の妖精の誰か」が割り当てられそうなこと。


「横取りされたってわけね」

舞香の話を聞いたエリゼが言う。


「なんだか冷静ね、腹立たないの?」

とエリゼに言う舞香。


「そりゃさ、腑に落ちないけど。あんまりエキサイトすると真理が起きちゃうじゃない」

とエリゼ。


そして、

「真由子がどんな手を使ったのかはわかってるの?」

と舞香に聞くエリゼ。


理由、それは知らない。

「夢を叶えてくれた」聞かされたのはそれだけだ。


「夢を叶えるのなら私たちも同じよね」

とエリゼが言う。


「それなら、いい考えがあるわ」

とエリゼ。


「だって、夢を叶える、それなら私たちだってそうじゃない。

もうトロワで娘と踊ることをプラスして、天国の門の審査官に提出しちゃったもの。それで承認されてるし今更変えられないわよ」

と。


「いい考え?」

と舞香が聞くが、


「まあ見てなさいって」

とエリゼは自信ありげに言う。


「まあ任せてって。でも、真理と同居している以上、隠しておくことはできないわよ。

全てを知らせたうえで、計画を進めるわ」


それから、舞香とエリゼでいかに真理に知らせるかを考えた。

母を傷つけたくない舞香、はっきりと伝えた方がいいと言い張るエリゼ。

しばらく意見が対立した。


「エリゼはそんな思いをしたことがないんでしょう?」

と舞香が言う。


ずっとエリートダンサーだったエリゼ、配役には恵まれていたはずだ。

誰かに役を取られる、そんな思いなどしたことはないだろう、そう思ったのだ。


「そんなわけないじゃない。そりゃあ、良い役をもらえたわよ入団間もないころから。でもねそう言う重要な役には必ず代役が付くの。もしも怪我したり病気したりした時に代りを踊る控えのダンサーよ。

その代役に常に、プレッシャーかけられてたわよ。代役の方が上手いと判断されたら交代だってあるしね」

とエリゼ。


舞香はそのことを聞いて、トップダンサーの苦悩を初めて知った気がした。

自分はと言うと。

小さなバレエ教室の発表会とはいえ、物心つくころからそれなりの大役をもらえた。

そして決まった役を交代させられることはなかった。

代役もいなかった。


これが「お金を払って」舞台に出る者と、舞台に出て「お金をもらっている」者のとの違いなのだ。

そう感じた。

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