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48歳からの大人バレエ ~うちのママに天才バレリーナが憑依しちゃいました~  作者: 明けの明星


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急な飲み会

急に飲み会?

「おい、どうした?大河!」

と康太が慌てた様子で声をかける。

鏡に映ったその姿を見たからだ。


鏡から目を離し、大河を見る康太。

そこにはいつもの大河がいる。

少しばかり目がうつろで、焦点が定まらない様子ではあるが。


「おまえ、ずいぶん疲れてるんだな。いや俺もだ。今日の稽古は止めておこう」

と康太が言う。

康太はまだ、目の前の大河と鏡に映っている彼の姿を見比べていた。


「え?康太さん?」

と大河。

驚いた表情だ。

もう、うつろな目つきもしていない。


「うん、お前顔色も悪いな」

と康太はまくしたてるように言う。


「いや、康太さんこそなんだか顔が青白いですよ」

と大河が言う。


「そうか?なんか俺も具合悪くなってきた」

と康太は頭を押さえている。


「だから、僕はどこも悪くないですよ。でも、康太さんだってそんなんじゃ稽古したら倒れちゃいますね。だから今日の稽古はお休みなのは賛成です」

と大河。


このまま二人で食事に行くことにした康太と大河。

まずは栄養を採りスタミナをつけようということで一致したのだ。

スタジオを出て駅前に向かうが、その道すがら鏡や窓ガラスに大河の姿が映るたびにその顔を確認するように覗き込む康太。


「どうしたんですか?」

といぶかし気に尋ねる大河。


「いや、まあ」

と康太は口ごもるしかない。

まさか、


「おまえの顔が、まるで外人だった」

とは言えるはずがない。


あの一瞬、鏡に映っていたのは金髪で、青い瞳の少年の顔だったのだ。


「おまえ、霊感とあったりする?」

と康太がさりげなく聞くが、


「あるわけないじゃないですか」

とキッパリと答える大河。


「だよな」

と康太。


その時、康太のスマホからメールの着信音がした。

画面には、


「いずみさんからメッセージが届いています」

と表示されている。


「なんだ?」

そう言いながら、メールを読む康太。


「いずみちゃん、近くにいるらしい。誘ってもいいかな」

と康太が大河に聞く。


どういうわけか、ちょうど康太のスタジオのある駅の近くにいるらしいいずみ先生。

これはいいチャンスだ。

酒でも飲んでじっくり話せば、事の真相を聞き出せるではないだろうか。

康太と大河はそう言う目論のもと、いずみと駅前の居酒屋で落ち合うことにした。


康太と大河が店に着くと、いずみはすでに到着していた。

居酒屋ではあるが、落ち着いた雰囲気の静かな店だ

暖簾で区切られた、個室に通された二人。


「急にごめんね」

そう言いながらいずみが出迎えた。


それから、まずはビールで乾杯をして3人での宴が始まった。

ここはいずみのお勧めの店で、酒の種類も豊富で料理も美味いと評判だ。


「で、聞きたいんでしょ」

といずみが言う。

今日、こんな呑みの席で問い詰められないわけがない。

いずみだって覚悟の上だ。


「だな、どうした?あの配役はいずみちゃんも賛成していたじゃないか」

と康太。


「舞香と真理ちゃんと大河君でのトロワのことでしょ?」

といずみ。


確かに、白鳥の湖、第一幕の花形でもあるパドトロワ。

単体で踊られることも多いが、どんな場面であろうとかなりの見せ場だ。


「でもさ、舞香はもうそっちの生徒じゃないでしょ」

と康太。

確かに、今の舞香は「康太先生の生徒」だ。

その舞香が「あすかバレエスタジオ」の発表会で大きな役を踊る。


「舞香はね、あすかの希望なのよ。

急に辞めちゃったじゃない。あすか、気にしてたんだよね。

プレッシャーかけてたかな、って」


あすかは舞香がバレエを辞めたことをとても残念がっていた。

舞香の才能に期待をしていた、それが負担になったのではないだろうか、あすかはそう思い気を揉んでいたのだ。


舞香が自分の元でではないとはいえ、再び踊り始めた。

そう聞いた時、ぜひまた舞台で踊る姿が見たい、そう思っていたあすか。

それが自分主催の発表会で叶うのだ。


今回の発表会では、いつもなら中心となって活躍する生徒たちの多くが受験生だ。

残念ながら出演を見送る生徒も多数いる。

そう言う事情もあり、舞香の参加はかえってありがたいのだ。


というわけで、舞香がトロワを踊ることは何の問題もない。

そのペアとなるもう一人の女性ダンサー。


それが、「大人のバレエクラスで地道に頑張る母親」となれば話題にもなるではないか。

発表会ならではの粋な配役というやつだ。


それなのに。

何故、真由子に。


「真由子ちゃんに泣いて頼まれたのよね」

といずみがポツリと言う。


なんでも、真由子の母親が娘の晴れ姿を楽しみにしているのだとか。

余命いくばくもないという真由子の母。

真由子が子供の頃、懇願されても家庭の事情で習わせてあげられなかったバレエ。

そのバレエの発表会で、娘が大役を踊る。

それだけを生きがいにして日々を過ごしているのだそうだ。


「そう言われたらさ」

といずみ。


「最初は6人の妖精を考えていたんだけど」

と続ける。

バレエコンサートで、「眠れる森の美女」の6人の妖精を大人の生徒選抜で踊らせようと、

その主役ともいえるリラの精を真由子に、と考えていたのだが、今回の発表会は白鳥の湖、全幕となりバレエコンサートは大幅に演目が縮小となる。

そうなると、初舞台の子供たちや有望な若手が踊るのが優先だ。


「情にほだされやがって」

と康太。


「それに、そうじゃなきゃ辞めるって言われちゃったし」

といずみが増々小さな声で言う。

真由子は次の発表会、自分の希望する配役でなければ教室を代わることを匂わせているという。


「それって、いいのか」

と康太がため息をつく。

講師と生徒の間に、そんなことがあってはいけない。


「でも、真由子ちゃん、生徒というよりもいい友達なのよね」

といずみが言う。


「大人の生徒さんたちで唯一、普通に話ができるのよ。他はみんな」

そういながらいずみは視線を落としていた。

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