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48歳からの大人バレエ ~うちのママに天才バレリーナが憑依しちゃいました~  作者: 明けの明星


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闇の中の根回し

配役交代?

「これは、どういうこと?」

と舞香。

置かれていた康太先生のファイルに入っていた「あすかバレエスタジオ発表会」の配役の書かれた一枚の紙。


白鳥の湖、第一幕、パドトロワ。

そこに書かれていたのは、舞香(自分)と大河、そして真理、まりのはずなのに。

その名は消されており、

「真由子」と書き直してあるではないか。


「真由子さんって」

真由子とは一緒にオープンクラスのレッスンを受けたことがる。

話が面白く、いつまでもお喋りしていたいと思わせるような「大人」だ。

まあバレエの方はまだまだ初心者のレベルだが。


「真由子さんじゃ」

トロワは踊れない。


そう思う舞香。

パドトロワ、白鳥の湖の第一幕での、王子の友人たちの踊り。

大抵は、女性二人、男性一人の組み合わせだ。


主役の踊りではないとはいえ、第一幕の見せ場となるこの演目。

プロローグがあり、それぞれのバリエーションそしてコーダとういう構成だ。

「王子の友達」らしい優雅さも必要で、技術的にもそれなりの難易度だ。


「無理だよね」

と舞香は思うが、それ母、真理であっても同じことだ。


舞香は母の中にいるエリゼという存在があるがゆえ、母でも踊れると思い込んでいるが、

真理本来のバレエの実力、経験値を考えると、母も真由子も同じ条件だ。

いや、真由子の方が見栄え的に母より勝る。


「あれ、見ちゃった?」

と背後で声がした。

ファイルを凝視している舞香を見た康太先生だ。


「あの、これ」

と舞香が言う。


「うーん。いずみちゃんから少し意見があってね。僕的には母娘共演っていいなって思ってるんだけどね。でも僕の主催の発表会じゃないし」

と康太先生。


「もしも、母が出ないなら私もトロワは踊りません」

と言ったらどうなるだろうか。

そんなことが頭をよぎる舞香。


しかし、生徒が配役に意見することなどできない。

「先生の決めたこと」には従うのみだ。


「じゃあ、母は何を踊るんですか?」

と舞香。

トロワじゃないなら、どんな配役になるのだろうか。


「いずみちゃんの大人の生徒は、チャルとナポリ、それから花嫁候補あたりかな」

と康太先生が言う。


ソロで踊る演目ではない。

舞台の真ん中で踊れる可能性は極めて低い。


「舞香がママとトロワを演らないなら、相手を大人の生徒にする必要もないんだけどな」

と康太線が続ける。


その通りだ。

母とレベル的には大差のない真由子がトロワに入るのは何故だろう。

「母娘共演」という肩書があるわけでもないのに。


「なんでも、いずみちゃんに頼み込んでるらしいんだよね」

と康太先生がポツリと言う。


「私、次はこれがいいです」

舞香もそう先生に直訴したことがある。

それはそれで、生徒の希望として先生の記憶の中に留められたらそれでいい、それくらいの気持ちで。


大人の生徒となると、そのあたりは水面下でも駆け引きをするらしい。

康太先生の話によると、真由子は以前からいずみ先生とは仲が良く、プライベートでもお酒を呑みに行くそうだ。

そんな時、さりげなくそして有無を言わせぬ圧のある言い方で、トロワを希望したのだそうだ。


「闇の中の根回しじゃん」

と舞香は思う。

やり方が卑劣だを感じたのだ。


「真理ちゃんだと背丈がね」

と康太先生。


「それを言われちゃうとねえ」

と続ける康太先生。


真理は舞香よりも10センチほど背が低い。

トロワで踊る二人の女性、出来れば背格好は同じくらいの方がいい。


「エリゼのテクニックならそれくらいなんとかできるのに」

と舞香は思う。


エリゼならば、全身を使って大きく踊ることが出来る。

自分と並んで踊ったとしても、背の高さの違いなど気にならないほどの「魅せる」テクニックを持っているからだ。


「もう決まりなんですか?」

と舞香が康太先生に聞いた。


「うーん、まだ決定ではないと思うんだけどねえ」

と何とも歯切れの悪い返事をする康太先生。


これ以上、舞香が何かを言う事は出来なかった。

ただ一言、


「母と踊りたかった」

と独り言のようにつぶやいで、康太先生のスタジオを後にした。


ートロワ、ママが出られずに、真由子さんになったー


この事を知ったら、母がどれほどがっかりするだろう。

バレエに関して、いや自分が踊ることに関して、どこか消極的だった母が、

あれほどのやる気を見せたというのに。

母と一緒に頑張ろうと、盛り上がったのが随分前の事な気がする。


それに、エリゼ。


「エリゼはどうなるんだろう。ママが夢を叶えなければエリゼの未来もなくなるのに」

と思わず声に出す舞香。


「エリゼ?エリゼだって?」

とその舞香の独り言を聞いていた人物が驚きながらつぶやいた。


「エリゼ・リデル、まさか本当にキミだったなんて」

と瞳を輝かせて言っていたのは、小西大河だった。


稽古は休んだが、康太先生に呼ばれてスタジオにやって来たのだ。

そこですれ違った舞香のこの言葉を聞いた大河。


舞香の後姿をいつまでも見つめていた。

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