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48歳からの大人バレエ ~うちのママに天才バレリーナが憑依しちゃいました~  作者: 明けの明星


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三人のこれから

パドトロワ、始動する?

真理が久しぶりに、真理に戻ったその翌日。

自分の部屋の自分のベッドで目を覚ました。


自分の身体のなかに、エリゼというもう一人の人物もいる。

それは納得している。

自分が望んだことでもある。


「この歳になって、こんな経験をするとはね」

と真理は思う。


まさか、自分の身体が憑依されたり、他の人格と同居することになったり、まるでアニメの世界のようなことが起きるとは。


加えて、バレエ。

舞香が辞めてしまって、自分の意思で自ら踊り始めた。

大した夢も希望もなく。


ただ身体を動かして楽しければそれでいい、それだけのはずだったのに、ずっとくすぶり続けていたかつての記憶がそれを許さなかった。


皆の後ろじゃなくて、一番前の真ん中にいたい。

他の出演者の後姿越しに客席を見るんじゃない。


それもエリゼのお陰で叶えられる。

ずっと抱えてきたトラウマからもようやく解き放たれる。


それを思うと、心が躍る真理。

エリゼはまだ眠っているのか、そんな真理の心の高揚感に何の反応もない。


真理の身体に同居するエリゼ。

これからは、基本二人で真理の身体を「使う」のだが、実際に眠るのは真理が主導となる。

エリゼは真理が起きていても、休息をとることが出来るのだ。


真理はエリゼを起こさないように静かに台所へ向かい、朝食の支度を始めた。

その合間にスマホを覗くと、夫祥太からメールが届いていた。


「ママへ、お誕生日のプレゼント」

という題名で、人気のカフェのデジタルチケットが添付されていた。


プレゼントならもうもらったのに。

と、真理がつぶやく。

先日の帰国の際、綺麗な真珠のネックレスを贈られたばかりだ。


「ありがとう、あのカフェ行ってみたかったの。楽しみだわ」

と返信する真理。


「あーあ、なんで旦那に気を遣うのかしらね。そもそも本当の誕生日過ぎてるし、このチケット平日の限られた時間しか使えないじゃん。不便だよ」

といつの間にか目を覚ましていたエリゼが言う。


「ここではね、夫婦とはいえお互いに気を使い思いやるのよ」

と真理。


「まあ、思いやりはいいことだけど、気を遣うのは違うと思うよ」

とエリゼは引かない。


「ここではね、こんな感じなの。郷に入っては郷に従え、よ」

と真理に言われて渋々納得したフリをするエリゼだった。


「おはよう」

そう言いながら舞香が起きてきた。

さすがにまだ眠そうだ。


「今日は居眠りしないといいけどね」

と真理(エリゼ)から言われる始末だ。


食卓に座り、出された朝食を食べ始める舞香。

まだ目を擦っている。


「ねえ、トロワの事なんだけど」

と舞香がぼそぼそと言った。


「引き受けていいんだよね?」

と続ける舞香。


「もちろん、康太先生によろしくお願いいたします、ってちゃんと言うのよ」

と真理が言う。


「真理の夢だものね」

とエリゼ。


夢が叶う、その始まりだ。

そう思うと嬉しくてたまらない、心がどこまでも軽く明るくなっていた真理(エリゼ)だった。


「こちらは、いずみ先生からの発表を待つだけね」

と真理(エリゼ)。

いずみ先生の大人のバレエクラスでは、まだ正式に配役は知らされていない。

それまでは黙っていないと。


それから、舞香は支度を済ませると登校してゆき、真理(エリゼ)も仕事へと向かった。

真理が職場へ行くのも久しぶりだ。


「そんなに早く歩かないでよ」

とエリゼがいうが、真理の歩みはついつい早くなる。

別に仕事など好きなわけではないが、オフィスがどうも懐かしく恋しい場所なのだ。


オフィスのフロアに入ると、既に数人が出勤していた。

最近着任した上司の広瀬ももう来ている。

真理(エリゼ)を見つけると、何気なく近づいてくる広瀬。

しかし、何か声をかけてくるわけでもなく、ただ笑って会釈をしただけだ。


「どうしたんだろう」

と内心思う真理(エリゼ)。


広瀬がバレエをやってみたい、そう言ったのは確かに衝撃的だった。

ずんぐりした体型、機敏ではなさそうな身体の動き。

どう見ても、バレエとは結び付かない。

でも、それは真理だった同じことだ。


「ここのいいところは、好きなら踊れるところよね」

とエリゼ。


エリゼの感覚では、バレエは選ばれた者だけに踊ることが許されている芸術だ。

もちろん普通のバレエ教室もあるのだが、エリゼ自身ずっと「選ばれし者」ばかりの中にいたのだ。

一般のとは隔離された環境に身を置いていた。

それがこの地に来て、そんな考えもだんだんと払拭されていた。


「じゃ、一度誘ってみる?」

と真理がエリゼに問いかけるが、


「うーん、あまりお近づきにはなりたくないかな」

とエリゼ。


「おはようございます」

そこに声をかけてきたのは、小西大河だ。


「おはよう、大河君」

と思わず弾んだ声を上げた真理(エリゼ)。

真理としては、久しぶりに会う大河だ。


しかし、大河はそれ以上はなしをすることはなく自分のデスクへと向かった。

いつもの事だ、と言えばそうなのだが、少し違う。

なんだかよそよそしい。


その日、大河から個人的なメールが来ることはなかった。

パドトロワの件で何か言ってきてもよさそうなものなのに。

とエリゼは思う。


その日の夕方。

舞香は康太先生のバレエレッスンに参加していた。

あくまでも趣味のバレエクラスではあるが、なかなかの実力者がレッスンを受けている。

大河もこのクラスを受けているが、今日は休みの様だ。


スタジオの片隅、講師が自分の荷物を置くスペースがある。

そこに、クリアファイルが放置されていた。

康太先生の荷物だ。


そこには、

「あすかバレエスタジオ発表会、配役」

と題の付いた一枚の紙が。


そこには、パドトロワ 舞香、真理、大河。と記されていたが、真理の名が二重線でけされており、別の名前が書いてあった。


「真由子さん?」

その紙を見た舞香は小さく呟いていた。

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