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48歳からの大人バレエ ~うちのママに天才バレリーナが憑依しちゃいました~  作者: 明けの明星


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エリゼと真理、そして舞香

真理とエリゼの「同居」が始まりました

スタジオに到着すると、打ち合わせスペースの壁に貼られていた一枚の紙。

どうやら、次回の発表会の演目と配役一覧だ。


「あ、真理ちゃん。見っちゃった?わよね」

と背後で声がした。

いずみ先生とあすか先生が二人で立っている。


「ちょうどミーテングをしていたの。これはあくまでも予定なんだけど、真理ちゃん達は決定よ」

といずみ先生が焦りながら言う。


どうやら次回の発表会について、いずみ先生、あすか先生そしてスタッフたちが色々と打ち合わせをしていたのだ。

真理(エリゼ)がいつもより早くスタジオに着いたため、資料がそのままになっていたのだ。


「で、見ちゃったでしょ?」

といずみ先生。

真理(エリゼ)はしっかりとその目で見た。白鳥の湖のパドトロワに自分の名前があったことを。


「はい。見ちゃいました」

と真理(エリゼ)が答える。


「この前のアダージオレッスンでね、康太先生と大河君が貴女の事を押していて。私も真理ちゃんだったら出来そうだ、って思うのよ。それに、娘の舞香との母娘共演っていうのもいいんじゃない?」

といずみ先生が言う。


しかし、舞香からは何も聞いていない。

そもそも康太先生の生徒として「あすかバレスタジオ」の発表会に出演するのかも知らない。


「舞香は出ると言ったんですか?」

と真理(エリゼ)。


「あら、聞いていないの?ママも喜びそう、って言ってたって」

といずみ先生が言う。


舞香は康太先生からすでに伝えられているのだと言う。

本人はとても喜んでいたと。


「舞香、あなたに直接言いたいのよ」

とエリゼが真理に心で言う。


「でしょ、私ママだもの」

と真理。

舞香は真理の中にいるエリゼではなく、真理が戻ってきてからそのことを伝えるつもりだったのだ。


「それで、二人で出演、しかも男性ダンサーと組んで踊るとなると、それなりにかかるんだけど」

といずみ先生少し気まずそうに話し始めた。


発表会の費用のことだ。

バレエの発表会、その教室の規模や出演者の人数にもよるが、数万単位の金がかかる。

それに加え、トウシューズもいつもより消耗が早くなり買い替えも多くなる。

稽古の量も増えるから、疲れた体をケアする費用も必要だ。


ただでさえ万単位の発表会会費に加え、見えない費用もかなりのもの。

総額にすると、ポンと出せる金額ではなくなる場合が多い。

それに加えて、パドドゥを踊るとなると、稽古も別枠となり費用が跳ね上がる。


「大丈夫です。頑張って働きますから」

と真理(エリゼ)が笑顔で言う。


費用に関しては察しは付いている。

舞香の時に何度も経験済みだから。


「でも、本当に勤務時間増やしてもらわないと」

と真理。


「戻ってくるなり、お金の工面とか、大変ね」

とエリゼが少々同情した。


「慣れてるわよ」

と真理。

舞香が中学生になるころから、発表会でパドドゥを踊るようになった。

真理にとっては嬉しい事だったが、費用は莫大。

その都度、パート時間を増やしていた。


一方、エリゼは、

パレ・ロワイヤルバレエ学校は学費はかからない。

寮の費用などは多少必要だったがそれも国からの補助が出ており少額の負担だったようだ。

バレエ学校の公演なども生徒が費用を負担することはなかった。

それどころか、パレ・ロワイヤルバレエ団の公演に「子役」として出演する際には出演料も支給された。


「お金かけて舞台にでるんだ」

とエリゼが言うが、


「ここでは普通そうなのよ」

と真理。


「あなただって普通にバレエを習っていた時はお金がかかったんでしょ」

と。


エリゼもいきなりパレ・ロワイヤルバレ学校に入学したわけではない。

バレエを始めたのは地域のバレエ教室だ。

そこでは月謝も発表会に出演するための費用もかかった。


「ここには、パレ・ロワイヤルバレ学校みたいなバレエの学校はないものね」

とエリゼ。

真理の身体にやってきてしばらく時が経ち、この地域のバレエ事情もわかってきたようだ。


「引き受けてくれるわよね?」

といずみ先生が恐る恐る口を挟んだ。


エリゼと真理が「心で」会話をしている間、側でみればまるで何か悩み事でもあるかのように黙り込んでいる。

いずみ先生からしたら、何か心配事でもあるのかと不安になるくらいだ。


「も、もちろんです」

と慌てて応える真理(エリゼ)。


「よかったわ、でも配役の事についてはしばらく他言しないでもらえるかな。全部決まったらみんなに伝えるつもりなの」

といういずみ先生の言葉を聞いて、


「ですよね」

と頷く真理(エリゼ)。

内心、真由子の事が頭をよぎった。


パドトロワの一人は舞香になることを知っていた真由子。

その相手(ペア)を狙っていたのだから。


「わかりました。誰にも言いません」

と真理(エリゼ)がいうといずみ先生も安心したように微笑んだ。


その日のいずみ先生の大人のバレエクラス。

いつもと変わらない稽古だ。

生徒たちの顔ぶれもいつも通り、先日のアダージオレッスンでの余韻が少しは残っていたが。


真理(エリゼ)にとっては、初めての真理とエリゼが同じ身体で受けるレッスンだ。

終始、頭の中で真理とエリゼが思いの丈をぶつけあっていた。


「真理ちゃん、今日はなんだか顔が怖いけど、どうしたの?」

と幸子に言わる始末だ。


「ねえ、私にこんなことさせてたの、明日動けなくなるじゃない」

ちょうど、真理が体の使い方についてエリゼに文句を言った時だった。

そんな感じで、その日は真理(エリゼ)の顔に笑顔が浮かぶことがいつもよりかなり少なかったらしい。


そして、

「やっぱり、今日のお稽古はお休みした方が良かったんじゃない?」

と真理。


朝、舞香を見送れなかったことが引っかかっている。

せめて、帰宅を迎えてやりたい、そう思ったのだ。


「また、子供優先なの?」

とエリゼ。

その日は、終始険しい顔のまま家路についた。


家に着くと。


「おかえりなさい、ママ」

と舞香が静かに出迎えた。

久しぶりの、舞香と真理の再会だった。

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