36、王族暦
オーレリアが違和感を覚えたのはリオンとトールに出逢ってから二年が過ぎた頃のことだった。
マージに相談があると言われ、オーレリアはエリスとガイ、アーネストを伴って孤児院を訪れた。
年に数回は訪問しているが、その時は六ヶ月ぶりだったため、余計に変化を感じ取ったのかもしれない。
「久しぶりだな、マージ、リオン、トール」
「殿下、お忙しいところご足労下さりありがとうございます」
「殿下、お久しぶりです。お元気でしたか?」
「わぁ、相変わらず殿下は可愛いですね」
「トールとリオンは……、何か大きくなったな…?」
「そりゃね!十四にもなれば」
「でも殿下はまだまだお小さいです……」
「!!わ、妾とて、日々成長を――」
「いやぁ、小さくて可愛いってことですよ!」
(……十四?)
トールの言葉にうんうんと頷くリオン。オーレリアは違和感を覚えたが聞き間違いだろうと聞き流す。
トールとリオンはすっかり背も伸びて、コリンと同じくらいかそれ以上かもしれない。
(いや、コリンは背が高い方ではないが……)
それにしても成長が早い気がするのだが。
孤児院の院長室の上座にオーレリアが座ると、マージ達三人とテーブルを挟んでエリスとアーネストが長椅子に腰を下ろす。ガイは護衛として入口付近に立つ。
「実は子供たちの進路のことでご相談したいのですが――」
「進路?」
「はい、子供たちも年長の子はもうすぐ十二歳になりますし」
「え!?そんな大きな子がいたか?」
驚くオーレリアにエリスが回答をくれた。
「リア、平民と我らとでは流れる時間が異なるのです」
「え……?」
「魔力の量で人の寿命と成長速度は変わります。この国で一番魔力が多い王族の一年は666日。侯爵家以上も同じです。同じ貴族でも我らの半分ほどの魔力しか持たない伯爵位以下は412日。魔力のない平民は365日。王族の成長速度は尤も遅く、その間平民は約2歳年を取っているのです」
「!!」
つまり、オーレリアにとっての二年はリオンやトールにとっては三年と八ヶ月弱に換算される。
「王族暦だと俺たちの年齢は八歳だけど、平民の暦だともうすぐ十四歳なんだ」
「そ、そうなのか……?」
「マージなんてもうおばさん……」
リオンの発言にゴチンとマージの鉄拳制裁が炸裂する。
いがみ合う親子にエリスの冷気が水を差して冷静さを取り戻すまでがお約束である。
「寿命は王族が一番長く、平民の年齢に合わせると約273年。侯爵家以上の貴族が220年程、伯爵家以下の貴族は124年、平民は約70年と言われています」
(それでは生きる時間が……)
種族が違うと言っても過言ではない。
平民はあっという間に年を取ってしまう。オーレリアの胸がギュッと痛んだ。
「リア」
エリスの声にのろのろと顔を向けるとそっと腕を伸ばされて指先で目尻を拭われた。
涙が流れていたことに漸く気付いた。
「エリス……」
オーレリアはエリスの胸に飛び込んだ。今は何かに縋らないと胸の痛みと衝撃に耐えられそうにない。
泣きじゃくるオーレリアに、リオンとトールの胸がふわりと温かくなった。
(殿下は俺たちと別れることを惜しんでくれるんだよな)
(貴族なんてみんな平民を虫けら扱いするのに)
なかなか涙が止まらないオーレリアだったが、エリスに子供たちの進路を考えましょうと促されて、はっとした。
(そうだ、妾は理事長として、子供たちのことを考えてやらねば――)
パンっと頬を叩いてきりっとした表情を浮かべてトールとリオン、マージを見やる。
しかし、目はパンパンに腫れ、しかも未だにエリスにお膝抱っこされた状態だったため、三人は口元を押さえて下を向いて吹き出すのを堪えた。少々腹筋が痛い。
「!!」
オーレリアはエリスの膝の上にいたことに気付いて羞恥に内心悶えたが、何食わぬ顔をしてさり気なく立ち上がると、ごく自然に何事もなかったかのように自席に戻った。
全員、その一部始終を見てオーレリアが可愛くて仕方なかったが、気付かなかった振りをして沈黙を守った。
子供たちの就職先として、いくつか斡旋する案が検討された。
孤児であることを理由に断られないよう、事前に商店や守備隊等に話をし、子供たちの能力を見て欲しいと依頼する。
孤児院の経営にはエリスとアーネストのそれぞれの侯爵家が後見についているため、信用度は高い。
アーネストの口利きで守備隊と、エリスの斡旋で青の侯爵家の事業のうち下働きを雇う場合に孤児院の子も選考に入れることを契約した。
「後は子供たちの仕事ぶりをみて、信用に足るとわかれば自然と孤児たちへの偏見や差別もなくなるでしょう」
話し合いを終えて、オーレリアは離宮に帰館した。
(流れる時間が違う……)
馬車の中で流れる景色をぼんやりと見ているとどうしてもそのことが頭の中をリフレインする。
離宮に閉じこもっているだけだったら、恐らく気にならなかっただろう。
けれどリオンやトールと出会って、孤児院の子供たちのことを知って、他人事ではなくなってしまった。
「…………」
先ほどは根性で泣き止んだが、まだオーレリアの胸は蟠っていた。
「姫さま、お帰りなさい」
馬車を降りるとコリンとニーナが出迎えてくれた。
「コリン……」
コリンは平民暦で数えると二十歳となるはずだ。
「コリンは童顔だからあんまりわからなかった………」
「えっ、姫さま開口一番なんで悪口!?ひどいですよ………」
コリンは気にしていることを言われてぷんすか憤慨している。
「悪口ではない。成長しないのはよいことだ」
「えぇー?完全にディスられてますよ、俺」
「コリン。リアは今ナイーブになっているのです。そっとしておいて差し上げなさい」
「え、エリスさま。俺へのフォローはナシですか……」
しょんぼりするコリンに、オーレリアはぎゅっと抱き付いた。
「コリン、長生きするのだぞ」
「はい、長生きしたいです。……でも今、命の危機です………」
後ろからアーネストが睨んでいる。怖い怖い怖い。コリンの本能が叫んでいた。今すぐ逃げろと。




