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蒼黒のオーレリア  作者: 桐島ヒスイ
第三部 アーネスト編

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35、竜編2 オーレリアと子竜





「キュイ」

「あ」


 離宮の庭にそれが現れるようになったのは、オーレリアが本格的に魔力の訓練を始めた頃だった。

 アーネストが心配で国境の砦まで迎えに行った際、荒野で遭遇した子竜はオーレリアの魔力に惹かれるのか、時折こうして遊びに来る。

 まだ身体が小さいので結界をすり抜けられるのだろう。

「また来たのか……。おまえの親が心配するだろう」

「キュイイ?」

 子竜は以前より少しだけ大きくなっていた。茶緑色だった身体も少し黒がかってきている。

「飼えぬと言っておるのに……」

 言いながらも顔を寄せてくる竜の鼻先を撫でてしまう。

 子竜は嬉しそうにすりすりとオーレリアの手に顔を擦り付けてくる。


 子竜がオーレリアに懐いているので、アーネストもすぐに追い払おうとはしない。

 しかし子竜が調子に乗ってぺろぺろとオーレリアの手や顔を舐めはじめ、あまつさえ魔力を吸収しているとわかるや、バシン!と片手で竜を突き倒し、オーレリアから遠ざけた。

「殿下の魔力を吸うな。それは私のものだ」

「ギュアァ」

 竜とアーネストがいがみ合う。


 ジェロームとコリンはそっと目配せし合う。

(今、子供とはいえ竜が転がったぞ。片手で転がしたぞ)

(いえ、それは確かにすごいですが重要なのはそこではなくてですね。隊長は竜にも嫉妬するんですね)


「アーネスト、少しなら良いだろう?」

「殿下!甘やかしてはなりません!一度与えると永遠に強請って来ますよ」

 アーネストは跪くと、オーレリアの両手をそっと包み込んだ。

「殿下はわかっていません……。殿下の魔力がどれ程甘美か……。極上の味を知ってしまった獣が、野性で生きていけるはずがありません。以後、食べる物が全て不味いなどあまりにも不憫。殿下の魔力はそのくらい罪作りです」

 一見すると野良犬を飼いたい妹に、無責任に餌やりをしてはいけないと説く兄の、正しい教育に見えるが内情はオーレリアの魔力を誰にも渡したくないアーネストの純然たる独占欲だった。

 しかしアーネストの説教を真面に受け止めたオーレリアはしゅんと項垂れた。

 アーネストの言う通りだと思った。

(飼えぬのに無責任に魔力を与えてはならぬ……)

 離宮が王都から離れているとはいえ、竜がしょっちゅう現れては民に徒に不安を与えてしまうだろう。

(それに、いずれ成長したら結界を通れなくなる)

 淋しくても今手放しておかなくてはならないのだ。


 アーネストはちらりと竜を見やる。

 そうはいったものの、既に手遅れな気がしないでもない……。

竜はオーレリアに構って欲しくてしきりに尻尾を振っている。

 しかしきちんと一歩分距離を空けてお座りして待っている。礼儀をわきまえている。

 オーレリアと目が合うと、「クウン」と鳴いた。

 アーネストは思った。

(なんだその媚びた鳴き方は。竜としての誇りはどうした)

 あざとい竜にイラッとする。


「さぁ、殿下。竜は山へ帰しましょう」

「うん……」


 オーレリアは心を鬼にして竜に山へ帰るよう命じるのであった。








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