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蒼黒のオーレリア  作者: 桐島ヒスイ
第三部 アーネスト編

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29、合流

 




 それから数分後、ジェロームを筆頭にルーファスが置いていった騎士たちが到着した。半日振りの合流だ。彼らは護衛でありながら主に追いつくことも出来ず、何の役にも立っていないことに忸怩たる想いを抱えて沈痛な面持ちで馬車の前に整列した。

 ジェロームは馬車の前にアーネストがいることに驚き、一瞬目を見開いたがすぐさま彼の前に出て謝罪した。

「到着が遅くなり申し訳ございません。殿下はご無事でしょうか」

「殿下は問題ない。今はお休みされている」

 深夜ということもあり、また、アーネストが近くにいる安心感からぐっすりと眠るオーレリアは騎士団が蹄の音を立てて近付いてきても起きる気配もなくすやすやと眠っていた。

 馬車の中にはエリスとガイが控え、彼女の眠りを見守っている。

 オーレリアが無事だと聞いてジェロームはほっと安堵の息を吐いた。

 不幸中の幸いだが、自分の失態が帳消しになるわけではない。それでも先ほどよりは穏やかな気持ちでもう一つ報告しようと口を開いた。

「それから、ウィ―――」

「リアに会いたい」

 ジェロームが言い終わる前に小さな人影がアーネストの前に進み出た。

「ウィルフレッド殿下」

「無事な顔を一目見たいのだ」

 ウィルフレッドは疲労困憊だった。足はがくがくと震え、立っているのがやっとだったがそんなことはおくびにも出さず毅然と顔を上げる。


 *


 ジェロームたちが馬車の異常な速度に振り切られて、それでも必死に追いつこうと懸命に馬を走らせていたとき、後方から騎士団と共に現れたのがウィルフレッドだった。

 ジェロームたちの馬は既にかなり疲れており、後から来ていた彼らに追いつかれてしまったのだ。

 ウィルフレッドは王宮に召集され、国境の結界の強化を命じられ騎士団と共に向かう途中だった。

 各地で竜が結界を壊しているという報告が相次ぎ、王族は一人ずつ別の地区へ派遣された。数百年に一度の繁殖期のため、被害報告は後を絶たず、ウィルフレッドのような成人前の王族にまで招集がかかってしまったのだ。ルーファスが不在であったために代わりに召集されたともいえる。(ルーファスはこの召集の前に勝手にお忍びで国境に向かい、勝手に竜に遭遇したのだった)

 護衛が付くとはいえ、一見非情にも見える少年へのたった一人での国境派遣だが、竜に対して王族は無敵だ。さらに王族を崇拝する国民が危害を加えることなどあり得ない。だから別段非情でも無情でもない命令なのだが、今のウィルフレッドには辛かった。

(国境まで行って帰ってくるのに十日はかかる)

 その間、オーレリアの側に居てやれない。

 アーネストの不在であんなにも消沈していたというのに。

 ウィルフレッドはさっさと行って帰ってくることを決めた。竜や国民に危害を加えられる心配がないとはいえ、他国の間者や野生の獣には注意が必要だった。そのため騎士団から選りすぐりの騎士たちが護衛に選ばれ、ウィルフレッドを守っていた。

 そんな中でジェロームと遭遇し、オーレリアが暴走した馬車に乗っていると聞いてウィルフレッドは蒼白になった。

(魔力暴走を起こしている)

 すぐに側に行ってやりたい。

 ウィルフレッドは自分の護衛とジェロームたちの馬を交換させ、護衛たちには後から来るように告げ、ジェロームと共にオーレリアの馬車を追ったのだった。


 騎士団は尋常ではない速度でオーレリアの乗った馬車を追った。その中にウィルフレッドはしっかりと喰らい付き、遅れることなく走り切ったのだった。



 馬車の中にはあどけない顔で眠るオーレリアがいた。

「リア……」

(よかった)

 ウィルフレッドはそっとオーレリアの頬を一撫ですると、音を立てないよう気を付けて馬車を出た。

 オーレリアの向かい側の座席に座っていたエリスも後に続いた。エリスの横に座っていたガイは完全に眠っているようで目を閉じたままだ。

「……おまえがリアの暴走を止めたのか」

「……ええ、まぁなんとか」

 いつもならば慇懃無礼な笑みを浮かべているその貌には疲れたような気だるさがあるばかりだ。相当消耗したらしい。

「……礼を言う」

「………………。貴方に言われる筋合いはありません」

 嫌味を言う気力は残っていたようだ。

 お互い眉を顰めながら暫し睨み合い、ぷいっと視線を逸らす。

 ウィルフレッドはオーレリアの暴走が止まってよかったと安堵する反面、それをエリスがしたということが面白くなかった。

 エリスはなんとか暴走を食い止めることが出来たものの、消耗が半端なく、その後半日も身体を動かすことも出来ず、情けなさでいっぱいだった。

 コリンやガイが居てくれたから自分が動けなくともオーレリアの身は安全だと思えたが、それも通常の野獣が相手の場合のみだ。仮に組織立った他国の暗部集団などに緻密な誘拐計画など立てられていたとしたら防げなかった。

  自分の力を過信していた。黒の魔力を甘く見ていた。

  悔しさにぐっと拳を握るが、ふと息を吐いて気持ちを整える。

(……いつまでも落ち込んでも仕方ない。むしろここはリアが無事だったことを喜ぶべきだな……)

 エリスは基本的にそれ程気持ちを引きずる性質ではない。反省はした。

 考えるべきはこれからのことだ。

(もしもまた同じような事態に陥った時に切り抜けられるようにしなくては)

 怜悧な青眼に闘志が宿り、未来を見晴るかすように視線は彼方へと向けられた。










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