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蒼黒のオーレリア  作者: 桐島ヒスイ
第三部 アーネスト編

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25、アーネストとルーファス1





 時は少し遡ってアーネストがルーファスと共に旅立った直後のこと。

「アーネスト……。そなたは相変わらず王太子相手に傍若無人だな……」

 呆れた声はルーファスのものだ。

 二人は馬で早駆していた。身分を隠すために服装は地方騎士の制服で、髪色は魔術で変えてある。

 アーネストは消沈を隠すことなく、心ここに在らずの様子でルーファスが何を話しかけても全く反応をしなかった。

 道中、野性の獣が現れても、

「殿下がおられないとやる気が出ない……」

 などと言って剣を抜きもしなかった。仕方なく対応したルーファスは頭を抱えた。これではどちらが護衛かわからない。

「しっかりしろ。そのような状態ではそなた自身がオーレリアの元へ帰れなくなるぞ」

 アーネストは返事もせず生気のない目でぼんやりと前方を見やるばかりだ。



 ルーファスは武闘派の王太子である。

 書類仕事よりも剣を握っている方が性に合う。今回のお忍びは完全に息抜きのつもりだった。国境沿いを回り、結界の状態を確認するのはついでみたいなもので、本当の目的はアーネストを引き抜くことだった。

 ルーファスはアーネストと歳が近い。子供の頃からアーネストの剣と魔術の才能に憧れており、自分の護衛に欲しいと思っていた。

 一時期は近衛の騎士団に身を置いて一緒に鍛錬したこともある。

 アーネストは稀代の剣士として名を馳せており、他の王族や貴族からも熱心に勧誘されていたが彼は誰にも靡かなかった。

 王太子であるルーファスにさえ、愛想笑いもしない。

 だから彼は誰にも仕えるつもりがないのだと誰もが思った。

 それがオーレリアが生まれた直後、赤子の前にひれ伏すように跪いて忠誠を誓ったのだ。その表情は恍惚として蕩けんばかりだった。誰だおまえ、といいたくなるくらいの豹変ぶりだ。

(オーレリアにそれだけの価値があるのか?あの病弱な子に)

 ルーファスには解せなかった。確かに魔力は多いようだがオーレリアは黒瞳ですらない。アーネストが単に幼女趣味だったのではないかとまで勘繰りたくなる。

 ただし、先日の王都の下町での火事が少し認識を改める契機となった。

 突然の広範囲に及ぶ発火と直後の鎮火。

 幻だったのではないかと目を疑うくらい、火は数分で消えた。その際、確かに黒の魔力を感じた。凄まじいまでの魔力量。

(あれはオーレリアだった)

 何故オーレリアが下町、それも貧民街に近い地区にいたのか、火事との因果関係はあるのか。

 少し鎌をかけてみると、オーレリアは明らかに動揺した。まだ七歳という年齢を考えれば腹芸など期待するだけ無駄だろうが、少々拍子抜けしたことは確かだ。だが。

(この件にウィルフレッドは絡んでいるのか)

 ルーファスが警戒しているのはオーレリアよりもウィルフレッドだった。ウィルフレッドはオーレリアの一つ上の八歳でしかないというのに、その落ち着きや知能の高さはずば抜けており侮れない。加えて双黒という黒曜の国において絶大な支持を得られる色を持つ。

 双黒は現在、父である国王とウィルフレッドの二人のみ。

 ルーファス自身は黒に近い濃い目の灰色の髪で、すぐ下の弟は黒に近い深い暗緑色だ。王弟である叔父は濃い黒青色。

 髪の色だけでいえば艶めく漆黒のオーレリアの髪が一番美しい。髪に含有される黒の魔力も純度が高く、煌めいており、自然と目が惹きつけられる。

 ただし、オーレリアは病弱のため滅多に公の場には姿を見せないので見事な黒髪も民にはあまり知られていない。

 双黒の公爵子息と漆黒の髪を持つ王女。王位継承権たる黒瞳を持っていても公爵子息という、王位を継承するには些か弱い立場も王女を妻とすれば問題はなくなる。むしろ血筋や色彩としては最強となる。

 ルーファスが警戒感を持つには十分過ぎる相手だった。

 本音を言えばオーレリアにはずっと病弱でいてほしい。酷い兄だとは思うが年が離れている上、ずっと離宮で暮らしているオーレリアとは殆ど一緒に過ごしたこともなく、情があるとは言い難かった。

 だからオーレリアからアーネストを奪うことも躊躇うことなく出来た。

(あれ程懐いてくれるとは思わなかったが)

 別れ際、オーレリアはルーファスの袖を掴んでなかなか離そうとしなかった。幼気で愛らしい、妹。

 少しだけ情が湧いた。

 だからといってアーネストを返してやろうとまでは思っていなかった、のだが。







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