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蒼黒のオーレリア  作者: 桐島ヒスイ
第三部 アーネスト編

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24、黒の魔力




 ガイは馬車に戻り、目を瞑っているエリスに毛布を掛けた。それから横たわるオーレリアの身体をそっと抱えて頭を自分の膝に乗せるとその身体に毛布を掛けた。

 オーレリアの身体は熱かった。

 このところ熱を出すことは殆どなかったのに、心労が溜まっていたのだろう。ガイは表情を曇らせた。

「姫さま……、俺は側に居るから。なんでもするから……」

 オーレリアの不安を吹き飛ばせればどんなにいいだろうと思うが、それは自分には出来ないのだろうなと思うと遣る瀬無かった。

 オーレリアが欲しているのはウィルフレッドとアーネストだ。

 自分では代わりにはなれない。

(姫さまは……俺が居なくなっても、こんな風に心配してくれるかな)

 益体もないことを考えてしまって、ガイはぶんぶんと頭を振った。

(何考えてんだ、こんな時に)

 苦しげに息を吐くオーレリアの頭をそっと撫でる。

 オーレリアの身体からは黒い魔力が溢れていた。外の敵からの守りも重要だが、この黒い魔力もなんとかしなくてはならない。

 ガイには黒い魔力がオーレリアの身体を蝕む毒のように見えた。

(これ、外に出したら姫さま、楽になるんじゃないか?)

 試しに吸い込んでみたらどうだろうか、と大きく深呼吸して毒だと思ったものを躊躇いなく吸い込む。

「……?」

 特に変化はなかった。ただ、僅かに体温が上がった気がした。だが気のせいかもしれない。

(空気を吸い込んでもダメか)

 ふと、ガイはオーレリアの頭を撫でていた己の左手を見てあることを思い付いた。

 ガイも魔術の勉強をしているので、少しは魔力の流れや性質を理解してきている。

 魔力切れを起こした相手に自分の持っている魔力を分け与える時、掌を通じて相手の首筋や心臓に送り込む方法を習った。

(この場合は相手の魔力を吸い取る…だからきっと同じように首筋とかに手を当てて)

 オーレリアの身体を覆う黒い魔力を少しでも減らしたくてガイは慎重にオーレリアの首筋に掌を当てた。

 掌にどくどくとオーレリアの鼓動を感じる。ガイは急に胸がドキドキしてきた。

(いや、集中!)

 軽く目を瞑って息を吸い込み、すっと掌に意識を集中させる。

 オーレリアから毒を吸い取るイメージで魔力の流れを強引に自分の掌に集める。すると僅かに掌が熱くなった。その、直後。

「……!?」

「ガイ、やめなさい!」

 ぐいっと手首を掴まれ、高く持ち上げられた。ガイが瞼を開くと目の前に怖い顔をしたエリスがいた。

「エリス…さま、身体は」

「人の身を案じている場合じゃない。今自分が何をしようとしたかわかっていないだろう、おまえは」

「……?…っ」

 ガイは怪訝そうに眉を顰めたが、掌に違和感を覚えてぐっと表情を歪めた。

「う、あ………」

 掌が痛い。正確にはそこから取り込んだ魔力が針のように肉体を刺している。

「……少し黒の魔力を取り込んでしまったな」

 エリスは舌打ちしそうな表情でガイを睨み付けた。

「エリスさま……これは」

「ガイ。取り込んだ黒の魔力を殿下に戻せばおまえの痛みは消える」

「そしたら姫さまが苦しいんじゃないか!?このままでいい」

「王族には黒の魔力の耐性があるんだ。いいか、ガイ。魔力が身体を蝕むほど溢れている人への対処として余分な魔力を吸い出すことは一般的な処置としては正しい。ただしこれだけは覚えておきなさい。黒の魔力は例外だ。黒の魔力は黒曜の国の王族以外には扱えない。触れてはならないんだ」

 エリスの話を聞くうちにガイの表情が次第に強張っていった。

「……それじゃ、俺は何にも出来ないのか?姫さまが苦しんでいるのに……」

「……ガイ……」

 取り込んだ黒の魔力が体内を蹂躙して痛みがあるはずなのにガイはオーレリアの身だけを案じている。

 エリスはガイの柔らかそうな髪をくしゃりとかき混ぜた。

「!?」

 ガイが驚いた表情で自分を見上げたのを見て苦笑が零れる。

「まったく、おまえは……」

 先ほど馬車を止めたときにオーレリアを衝撃から守るため自分の身体を犠牲にして負った怪我だって痛むはずだ。

「……殿下の手をしっかりと握って差し上げろ。目覚められた時に安心されるはずだ」

 それだけ言うと倒れるように椅子に凭れ目を閉じ力を抜く。ガイが取り込んだ黒の魔力は少量だ。そのくらいなら放っておいても問題はないだろうとの判断だ。暫く痛みはあるだろうが。

 ガイはパチクリと目を瞬かせたが、きりりと表情を引き締めしっかりと頷いた。

「わかった……エリスさまの最後の言葉、聞き届けた」

(いや、死んでないから)

 エリスは眉間に皺を寄せたが口を開く余力はなかった。後で仕置きする、と心に刻むに留める。

 ガイはそっと自分の膝に頭を乗せているオーレリアの寝顔を見つめる。

(姫さま……俺、もっと頼りになる男になる。姫さまが不安になんてならないような)

 ガイは片手を伸ばしてそっとオーレリアの手を握りしめた。小さな手は熱を持っており、熱い。冷やしてあげたいけれど生憎ガイの魔力属性は炎だ。

 馬車の中に備えられている冷却箱から水を取り出して手拭きを濡らし、オーレリアの額に置く。

 ここからはひたすら持久戦だった。後続の護衛たちが到着するまで待つしかない。早くオーレリアを柔らかな寝台に横たえさせてやりたいが馬がなくては近くの町まで行くのに数日かかってしまうだろう。

(副隊長……早く来てください)

 ガイは祈るように目を瞑ってジェロームの一刻も早い到着を願った。







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