21、アーネストの不在2
エリスはオーレリアがこれ程気落ちするとは想定外だったと思っていた。普段のオーレリアにはアーネストを避けているきらいがあった。嫌いではないが苦手であろうことは見て取れていたから余計に。
「アーネストさまは絶対的な守護神ですからね……」
いるといないのとでは安心感が違う。
「そうではない。……妾はアーネストが心配なのだ」
「アーネストさまが?」
オーレリアの言葉にエリスは目を瞠った。てっきり彼の不在中の護衛の質を不安視しているのだと思っていた。
「アーネストさまは鬼神とも魔王とも言われている方です。心配する方が損ですよ」
オーレリアは緩く頷いたが納得はしていなかった。自分に言い聞かせるように頷いただけだ。
不安定なオーレリアを案じてウィルフレッドが一日早く来てくれた。この冬から、ウィルフレッドの訪問は二週間に一回になっていた。以前より会える日数が減り、オーレリアは寂しさを抱えていたが、ウィルフレッドには彼の勉強や仕事があることも理解していたので我慢していた。
普段であれば手放しで喜ぶのだが、オーレリアの心の片隅にある不安は消えてくれなかった。
(どうしたというのだ、妾は。兄さまが来て下さると言うのに、心細さが消えない。たったひと月のことではないか)
ひと月経てばアーネストは帰ってくる。頭では分かっても感情が揺れ動く。
オーレリアは夜、ウィルフレッドの部屋を訪った。
「リア?」
「にいさま……今日一緒に寝てはダメ?」
誰かの温もりを感じていたかった。一人では押し潰されそうなほど不安でいっぱいだった。
「いいよ、おいで」
ウィルフレッドに手を引かれて寝台に上がる。大きな寝台は子供二人が寝転んでもまだまだ余裕がある。
そんな大きな寝台の中でオーレリアはウィルフレッドにぴったりとくっついていた。
「アーネストは必ずリアの元に戻るよ」
「はい……」
ウィルフレッドはオーレリアの背中を撫でながらも内心嫌な予感に苛まれていた。
(あの方は前からアーネストを欲しがっていたものな……)
当のアーネスト本人が王太子の誘いを断り続けていたため、油断していた。まさか主人であるリアを手懐けて奪うとは。王太子はアーネストを返す気がないのではないか。
(……そんなこと、させない)
ウィルフレッドは敵の攻撃から雛を護る親鳥のように、柔らかなオーレリアの小さな身体を引き寄せてその腕の中に閉じ込めた。
アーネストが戻るまでは自分がこの子を護ろう。そう、決意して。
ウィルフレッドはアーネストが戻るまでのひと月の間、離宮に滞在することを決めた。
アーネストが不在になってから二十日が経った。
その日は朝からどんよりと曇って薄暗く、見ているだけで憂鬱になる天気だった。
オーレリアとウィルフレッドは一緒にエリスの授業を受けていたが、オーレリアの集中力が散漫で授業に身が入らず、少し休憩しましょうとエリスに提案された。いつもだったらエリスに怒られるところなのだが、エリスは諦めたように吐息を吐くだけだった。そのことにオーレリアは胸が冷たくなる感覚がした。
(このままではいけない……それはわかっているのに)
アーネストの安否が気になって仕方がない。王太子のお忍びの護衛任務という性格上、彼が今どこでどうしているかは極秘だ。何かあれば報せがあるだろうが、基本的にオーレリアが彼らの消息を知る手段はない。
窓を見やるととうとう雨が降り出したところだった。
そんな中、一台の馬車がこちらへ向かってくるのが見えた。
王城からの使者だった。
使者が携えてきたのは王からウィルフレッドへの召喚状だった。
「こんな時に……」
ウィルフレッドは眉根を寄せたが王からの命令は絶対だ。それに召喚状が来るということは何か不測の事態があったということ。
国を護るのは王族の務め。ウィルフレッドは行くしかなかった。
「リア……少し留守にするけど、すぐに戻るから」
そう言い残してウィルフレッドは王城へと帰って行った。




