21、アーネストの不在1
アーネストはこの世の終わりのような絶望的な表情をしていた。
先ほど大切な姫君から尤も聞きたくない言葉を聞いてしまった。
ルーファスに懐柔されたオーレリアは正式にアーネストに命令を下した。
アーネストとて粘ったのだ。
「殿下。私は近衛十二人程度の者と思われているのですか。心外です。全然足りません」
他の者が言ったのならば呆れられるか、蔑みの視線を送られるだろうが、アーネストの言い分は至極正当であった。
「近衛十二人では殿下の御身をお守りするには不十分です。ですが闇雲に人数を増やせばよいというわけでも御座いません。誠心誠意殿下に御仕えする者でなければ」
十分吟味する間もなく単にアーネストの代わりと称して王太子の近衛を置いていけばいいというものではない。
その言い分はオーレリアも尤もだと思ったが、これは最初から断れる類の案件ではないのだ。王太子殿下の「お願い」は「命令」に等しい。
(それに……兄上の初めての『お願い』だ。断れるわけがない)
家族との絆を欲しているオーレリアにとってこれは千載一遇の機会であり承諾することが当然なのだ。
例え胸の奥に微かな不安を感じていたとしても。
「アーネスト、頼む」
主に頼むとまで言われては逆らうことなど出来ない。心情としては全く以って不本意以外の何物でもなかったが、アーネストは渋々頷くしかなかった。
*
アーネストが旅立ったあと、ふと離宮を見上げてオーレリアは胸を押さえた。
(……?)
物足りない。大切なものが欠けてしまった、そんな感覚がする。
酷く不安になった。自分は取り返しのつかない過ちを犯してしまったのではないか。
思えば生まれてからこれまでアーネストが自分の側を離れたことはない。
アーネストがいることは当たり前だと思っていた。それなのになんの疑問も持たず彼を手放してしまった。
いや、無意識に抵抗はあった。彼を貸すのは嫌だと感じていた。けれど断れるわけがなかった。相手は王太子だ。
「殿下……」
不意に影が差して、振り返るとジェロームが立っていた。
「中へ入りましょう」
彼は凶悪な顔に微笑みを浮かべてオーレリアを促した。
暫くは彼が自分の護衛をするのだと、頭の片隅で理解した。
アーネストを貸し出してから二日目、オーレリアの心は沈んでいた。本当にこれでよかったのだろうかと気弱になる。
最近は毎日朝のランニングで一緒だったため、顔を見ないのは違和感があった。
アーネスト不在の今はジェロームとコリンが付いてくれている。けれど誰もアーネストの代わりにはなれないのだと感じるばかりだ。勿論コリンやジェロームの代わりもいないし、誰も誰かの代わりにはなれない。そこにいるはずの人がいない、空虚な隙間が苦しかった。




