20、ルーファス襲来1
オーレリアは七歳になった。
身体も少しずつ成長し、以前ほど頻繁に熱を出すこともなくなってきていたが、まだ魔力制御が完全というわけにはいかず、離宮での生活は続いていた。
家族と離れて暮らすことが淋しくないわけではないが、現在離宮にはエリスやコリン、ガイやニーナがいる。ウィルフレッドも隔週となったが定期的に会いに来てくれており、既にこの生活がオーレリアにとっての当たり前になっていた。両親が聞いたら嘆くかもしれないが、最早彼らの方が家族といえる存在だった。
朝のアーネストとのランニングは続いており、最近漸く建物の周り二周を走り切れるようになった。
いつものようにランニングを終えたオーレリアはアーネストと別れ、汗を流すべく浴室へと向かった。
その後の予定は朝食ののち、昼までエリスとの授業だ。午後は下町に行きたいと考えていた。久しぶりにマージや双子に会いに行くつもりだ。
孤児院が稼働してから三ヶ月、双子には警邏隊と共に貧民街を巡回して貰い、親のいない幼い子供を見つけたら保護するよう依頼してある。
あまりにも数が多ければ全員は救えない。それでもなるべく見捨てたくない。オーレリアの願いを汲んで、双子は貧民街へちょくちょく赴き、次々に子供を連れて来た。
現在孤児院には八人の身寄りのない子供たちがいて、マージと双子が悪戦苦闘しながら面倒を見ている。
オーレリアの仕事は彼らを養うための資金集めだ。それと孤児院の運営について、考えなくてはならないことは山ほどある。それでもそれらはもう既にオーレリアにとって日課となりつつあった。
いつも通りの特に変わったことなどない、平凡でも平和で穏やかな一日。そのはずだった。
何の前触れもなく、兄である王太子が現れるまでは。
*
離宮の敷地内に招かれざる客が訪問したことをアーネストはすぐに感知した。
馬車は王族専用のものだ。門番には止められない。
アーネストは直ちにオーレリアの側へ行こうとした。けれど気配が既にオーレリアの近くへ移ったことを察知して歯噛みする。
(遅かったか)
転移魔術。黒の魔力を持つ者にのみ行使できる空間移動の魔術だ。離宮には敷地内全体に外部からの魔力を無効化する結界が展開されており、外から転移魔術での侵入は出来ない。そもそも魔力を膨大に消費するので長距離の転移は難しいが、短距離であれば黒の魔力を持つ者ならば大抵行使できる。ただし、術者本人しか移動できないため王族である黒の魔力持ちが一人でこの術を使う頻度は少なく、緊急時の避難用といった扱いだ。
基本的にこの魔術を扱えるのは王族のみの為、特に警戒もせずなんら対策が講じられていないことが敗因だった。
馬車で結界内に入ったあと、一瞬で転移されれば打つ手がない。
(殿下が呼んで下されば今すぐお側へ行けるのだが)
アーネストは難しいだろうな、と目を伏せ苦く笑った。
*
「邪魔をするぞ」
オーレリアが朝食を食べ終えた直後のことだった。食堂の扉が開いて長身の青年が入室してきた。
短めの濃い灰色の髪に意志の強そうな黒い瞳。鍛え上げられた体躯。
王太子、ルーファスだ。
一緒に食事をしていたエリスも目を瞠った。
「あ、にうえ?」
「息災か、オーレリア」
殆ど会ったことの無い長兄が突然現れたことにオーレリアは驚きを隠せなかった。
「は、はい。兄上は……」
「私は私用でこちらに参った。急に済まぬな。持て成しは不要だ。ただしアーネストを借りたい」
「アーネスト?」
「おまえではあの男を扱い切れぬよ」
ちょっとだけ成長しました。




