18、トールとリオン9
二週間後、オーレリアは「オーレン」の姿でリオンとトールを連れ出し、修道院を訪れた。
修道院に入る直前に馬車の中で幻惑の術をかけて全員女性の姿になる。リオンとトールは唖然としていたが、彼らの困惑を無視して中へ誘うと、コリンに頼んで彼らを回廊の影に潜めさせ、オーレリアはすたすたと奥へと足を運んだ。すぐ後ろにはエリスとアーネストが無言で付き従っている。
オーレリアは迷いなくマージの部屋へ向かい、扉の前で幻惑の術をかけ直して貰いオーレンの姿になると刺繍に悪戦苦闘していた彼女を気分転換にと連れ出し、回廊まで誘導した。
「……ここでの生活には慣れたか」
「……そうだね、大分。……なんというか今まで生きてきた中で一番平穏に過ごしているよ」
軽く苦笑交じりに、けれどどこか吹っ切ったようにマージは穏やかに言った。
「……正直言うと、昔のあたしだったらこんな堅苦しいところで規則正しい生活なんて絶対無理だと言っていたと思うけど……今は、有難いと思っている」
回廊は吹き抜けの正方形で真ん中は庭園になっている。オーレリアとマージの位置はリオンとトールが身を潜めている円柱の丁度庭園を挟んだ反対側だ。マージは彼らの存在には気付いていない。だが、回廊はよく音が響き、リオンとトールの元まで二人の会話は届いていた。
双子は食い入るようにマージを見つめていた。
マージは次の言葉を少し言い淀むように沈黙した。
「マージ?」
オーレリアが邪気のない声で問うと、マージは意を決したように顔を上げた。
「あ、のさ……オーレンはあいつらの居場所、知ってるんだろ?」
「………リオンとトールのことか?」
マージはこくりと頷いた。その目は藁にも縋るように必死だった。
「頼む………遠くからでいい。ほんの少しだけ、ひと目でいいから………」
会いたいんだ、と小さく、けれど心の底から願う声で懇願した。マージは頭を地面に付くほど深く下げた。
オーレリアはちらりと回廊の反対側に目を向けた。そこには身を潜めていることなど忘れ柱から身体をはみ出させていることにも気付いていない双子がいる。二人の姿はまだ幻惑の術で少女のままだ。
双子は食い入るようにマージを見つめているが、動こうとはしない。
オーレリアはそんな二人を横眼で捉え、目の前のマージに視線を戻した。
「……考えておく」
「……っありがとう」
その日はそこでお開きとなった。帰り際、マージは二枚のハンカチをオーレリアに手渡した。それは拙いながらも丁寧に双子の頭文字が刺繍されたハンカチだった。
「あたしからだとは言わないでくれ」
「……わかった」
そのやり取りは回廊の反対側から双子に筒抜けだったが、オーレリアはマージの気持ちを汲んで頷いた。
受け取る受け取らないは双子が判断すればいい。
修道院を出て馬車に乗車し、魔術を解いて元の姿に戻る。元の姿とは言ってもオーレリアの場合は「オーレン」の姿である。
双子はオーレリアが差し出したハンカチをじっと凝視した後、何も言わずに受け取った。
「「……あの、さ。オーレン……」」
オーレリアが何か言う前に双子は同時に口を開いた。二人は一瞬顔を見合わせてぷっと吹き出した。
「俺たち……またここに来てもいいかな……」
少し照れくさそうに、けれど穏やかにリオンが言った。トールもふて腐れたように頬を膨らませてはいるが、リオンの言葉を否定するつもりはないようだ。
「ああ。もちろん」
オーレリアはふわっと微笑んだ。
会いたくないと叫んだ時のトールの痛みを堪えるような表情と悲鳴に近い声を覚えているだけに、会うまではいかなくともまたここに来たいと言われて嬉しかった。
生まれ変わったマージを見て欲しかった。そしてマージの痛切な願いを知って欲しかった。心の底では二人の幸せを願っているのだということも。
勿論すぐには赦せないだろう。今までのわだかまりは当人同士にしかわからないものだろうから。だが、時間がかかっても少しずつでいいから双方にとっていい方向に進められればいいなと思った。
双子の秘密の訪問はそれから数回続き、マージはオーレリアに会うたびに刺繍の入った小物を預けた。
「あたしにできるのはこれくらいだから……」
マージの表情は会うたびに穏やかになっていた。ただ、リオンとトールの名を口にするたびにその表情が憂いを帯びる。
「元気ならいいんだ」
毎回回廊の反対側に身を潜めている双子も、出て行く切っ掛けを掴みあぐねているようだった。
(いつになったら会いたいと言ってくれるのだ)
オーレリアも少々焦れてきていた。




