18、トールとリオン8
翌日、ウィルフレッドも加えてエリス、ガイ、アーネスト、コリンと共にオーレリアは再び下町を訪れていた。
守備隊の詰所でバーナードと合流し、マージが身を寄せている修道院へと向かう。
マージがきちんと規則を守って生活しているかを確認するため一先ず離れたところから彼女の様子を窺うことにした。
詰所でエリスは全員を女性の姿に変えた。それを見たバーナードは衝撃を受けた。
「すごい魔術ですね……」
今回は修道院へ慰問に訪れた貴族という設定の為、全員それなりに身形を整えた姿になっている。寸前までの姿とは性別は疎か、年齢や容姿まで似ても似つかないその幻惑術に舌を巻く。
(ってことは直前の姿も幻惑ってわけか……)
深く考えないようにしよう、とバーナードは目を閉じた。
オーレリアは茶色の髪の十代半ばの少女、ウィルフレッドとガイも同じ年頃だがガイは使用人の装いだ。エリスはそれよりも少し年上の姉、アーネストは護衛の女騎士。何故かコリンは太めの乳母だった。
「エリスさま、なんで俺だけこれなんですか……」
「遊び心だ」
「…………」
真顔で言われてコリンは脱力した。
何か納得がいかないが、実際に太くなるわけではないので実質的な問題はない。それに一番護衛からかけ離れた人物で、万一の際には相手の油断を誘うことが出来る。
マージは山羊小屋の清掃をしていた。山羊に腰を突かれながらも、額に汗を浮かべて藁をかき集めていた。
「マージはマメに世話してくれています」
修道院長の老婆は穏やかに微笑んだ。
オーレリアたちは家畜小屋が見える部屋の窓からこっそりとマージが働いている様子を観察していた。
(うむ。元気そうだな)
オーレリアは呑んだくれたマージしか見たことがなかった。けれど今オーレリアの目に映る彼女は一生懸命働いていた。
(リオンとトールにも見せてやりたい)
オーレリアはそのままリオンとトールに会いに行くことにした。まだマージのことを伝えるつもりはない。ただ、帰り際に修道院長からこっそりと預けられた物を彼らに手渡そうと思ったのだ。
「リオン、トール。この間は…その、変なことを聞いて悪かったな」
「オーレン……こっちこそ、あんたに八つ当たりした……。悪かった」
「……これをおまえたちに。……差し入れだ」
オーレリアは小さな包みをそれぞれの手に乗せた。
「これは?」
彼らは興味津々に包みを解いた。中には少し形の歪な星形のクッキーが入っていた。所々こんがりと焦げており、少々不格好だが香ばしい良い匂いがする。
「とある修道女から預かったのだ。おまえたちが飢えないようにと」
「え、なにそれ」
「……いいから有難く受け取れ」
「オーレンがそう言うなら」
「……ありがとう」
二人は顔を見合わせ、互いに一つ頷くとぱくっと一口にクッキーを放り込んだ。
「うん、ほろ苦いけど美味しい」
「その修道女に礼を言っといて」
「ああ」
オーレリアは二人が食べてくれたことにほっとしていた。クッキーはマージが作ったものだ。修道院では定期的に地域への奉仕活動を行っていて、修道女たちが手作りした菓子などを地域の貧しい子供たちに配っている。その際作ったクッキーを、マージが一番渡したかったであろう双子にと、修道院長がこっそりとマージが作った分を取り分けておいてくれたのだ。
いつかマージが自ら二人に手渡せる日が来るといい。
帰り道、馬車から空を眺めながらオーレリアは天に祈った。




