18、トールとリオン1
守備隊に預けられた子供たちに会うためには責任者の許可が必要になる。そのためアーネストの幻術を解いて守備隊の責任者に掛け合って貰うことになった。
守備隊の詰所は噴水広場からすぐの角にあった。
建物内に入った直後に幻術を解く。
「隊長は?」
「え、あ」
目の前に突然現れた色男に、詰所にいた隊員は目を白黒させた。
「数日前に保護した子供の身元が分かるかもしれない。翠色の髪の子供と水色の髪の子供を連れて来てくれ」
アーネストは呆けている彼らに構わず用件を告げると、勝手に隊長室の扉を開いた。
「ここで待たせて貰う」
隊長は留守のようだったが躊躇せず中に入り、オーレリアたちを促して扉を閉めた。
「勝手に入ってよいのか?」
「構いませんよ。むさ苦しい部屋で恐縮ですが」
「――人の部屋をむさ苦しいとはあんまりじゃないですかねえ」
オーレリアが振り返ると入口に顔を顰めつつも口元は笑っている大男が立っていた。アーネストは表情一つ変えずに言う。
「本当のことだ。それより子供は」
「………まぁ、そうですけどね…」
大男ははぁ、と溜息を吐いたが、諦めきっているのか、それ以上は無駄口を叩かなかった。扉を太い腕で押し開けて隙間を作る。
「――二人とも、入れ」
大男の後ろから恐る恐る少年が顔を覗かせた。
翠色と水色の髪の少年たち。
「――トールとリオン?」
「「!?」」
オーレリアが訊ねると、二人は弾かれたように顔を上げた。
「なんで俺たちの名前……」
「ジョンを知っているか?」
「「!!」」
二人の反応は明らかにジョンを知っていると告げていた。
「先ほど街中でおまえたちの名を叫んでいる少年を見かけたのだ。……おまえたちのことを心配していた」
二人の少年の反応は対照的だった。翠色の髪の少年は嬉しそうに破顔し、水色の髪の少年はふいっと横を向いて唇を噛みしめているが目元が赤く染まっており、嬉しくないわけではなさそうだった。
髪の色以外はそっくりな容貌の二人だった。瞳は共に薄い青灰色だ。双子なのだろう。
オーレリアは彼らにジョンのことを伝えられてよかったと思った。
「……おまえたちが無事で良かった」
オーレリアがふっと笑うと、二人は目を瞠った。オーレリアの笑みは無垢で、なんの含みもない純粋なものだった。他人が、しかも会ったばかりの少年が自分たちの無事を喜んでくれることが不思議で、けれどこそばゆかった。
オーレリアは双子を無事保護出来たことが嬉しくて仕方なかった。彼ら自身や友人のジョンのためだけでなく、ガイにとっても救いになるだろうと思えたからだ。
オーレリアはガイに近寄って囁いた。
「ガイ、おまえのお陰で彼らは無事だったのだ。ありがとう」
嬉しそうに、満面の笑顔で言われて、ガイは驚くとともに胸が熱くなった。
ガイは双子に向き合った。
「怪我はないか?……その、火事で」
「ああ、俺はへーき」
「むしろあの火事で逃げることが出来たから幸運だったと思っている」
火事を幸運だったと言われてガイは目を瞬いた。怪我人が出たことを思えば複雑だが、罪悪感が軽くなったことは否定できない。
「なぁ、あんたたち、何者?」
トールが人懐っこく問いかけてくる。オーレリアはそういえば自己紹介がまだだったなと思い至った。
「わたしは……オーレン」
「俺はガイ」
幻惑の術で姿を変えているため、本当の名を言えないことに少々胸が痛むが致し方ない。
「どこに住んでいるんだ?」
「普段は……少し離れたところにいる。今日はたまたまこの近くに用事があって」
トールは好奇心いっぱいの様子でなおもオーレリアに問いかけようとしたが、後ろからぬっとオーレリアの腹部に回された腕に意識を取られて口を噤んだ。
「オーレン、もういいだろう?」
「ウィル?」
オーレリアが後ろを振り仰ぐと焦れた曈と目が合った。いつもの黒瞳ではない、見慣れない藍色。黒の瞳では変装の意味がないのでウィルフレッドだけは瞳の色を変えているのだ。少し落ち着かない気分になる。
「確認は出来たのだろう?」
「あ……はい」
「では帰ろう」
言うなりくるっと向きを変えられて抱き上げられた。
「えっ、に……ウィル!?」
腰と腿に腕を回した縦抱っこだ。そのまますたすたと部屋を出てしまう。
「ウィル、止まって!下ろして」
「リアは僕だけ見ていればいいよ」
「!?」
オーレリアにだけ聞こえる声で囁かれてオーレリアは言葉を失った。どういう意味だと問いたいが、ウィルフレッドの強い眼差しがオーレリアに目を逸らすことを赦さず、石化されたかのように身動ぎ一つ出来ない。
そんなウィルフレッドに呆れと諦めの視線を向けてから一つ溜息を吐くと、エリスは呆気にとられているトールとリオンに近付いた。
「後ほどジョンにここへ来るよう伝えておこう」
エリスが少年たちに告げると、緑色の髪の少年――トールがふっと苦しそうに眉根を寄せた。
「……俺たち、親に売られたんだ。帰る場所なんて、ない……」
ウィルフレッドに抱えられたままオーレリアは聞こえてきた話に目を見開いた。側に居たアーネストが小さな声で説明してくれた。
「捕えられていた子供たちの殆どが親に売られたか、身寄りのない子供でした。もう一度親元へ帰したとしてもまた売られるのが関の山です」
それはオーレリアにとって想像することも難しい酷な現実だった。
「彼らの里親探しは順調にいっているのか?」
「何人かは。全員となるともう少し時間がかかりそうですが」
「トールとリオンは……」
「離れ離れでもよければ、ないことはないのですが」
オーレリアは二人にちらりと視線を向けた。仲の良さそうな兄弟だ。引き離すのは忍びない。
「出来れば一緒にいさせてやりたいな」
「そうですね。時間の許す限り探してみましょう」




