18、トールとリオン2
オーレリアたちは一度街中に戻ってジョンと合流し、彼を守備隊の詰所へと案内した。ウィルフレッドは難色を示したけれど、オーレリアは頑張ってなんとか説得した。
トールとリオンと再会を果たしたジョンは喜びを露わにした。
「もう会えねぇと思った…」
ジョンはオーレリアにも感激していた。
「俺がトールとリオンを探しているとき、声をかけてくれたのはあんただけだった。それだけでもすげぇ嬉しかったのに……二人の居場所、見つけてくれるなんて……」
うう、と涙ぐむジョンにオーレリアは笑った。
「役に立ててよかった」
「あんたいいやつだな!」
感極まったジョンに抱き付かれそうになったが、両側からウィルフレッドとエリスに阻止されて事無きを得た。
ジョンは冷たい眼差しを向けてくるウィルフレッドとエリスにたじろいだ。押された肩が痛い。
「な、なんだよ……」
「リ…オーレンに気安く触るな」
ウィルフレッドの瞳は幻術で藍色になっているが、限りなく黒に近い。強く睨み付けられてジョンは震えた。
「ウィル」
ウィルフレッドから少しだけ黒いオーラが滲み出ていることに気付いて、オーレリアがウィルフレッドの手を握ると、ふっと空気が和らいだ。
ウィルフレッドの鋭い視線が自分から逸れ、柔らかく細められて「オーレン」に向けられるのをジョンは呆然と見ていた。何か見てはいけないものを見せられている気分だった。
ジョンにとって少年同士の奇妙に親密な様子は微妙に居心地の悪いものだったが、リオンとトールにとってはそういう関係も既知のものだった。リオンは手をジョンの瞼に当て目隠しした。
「ジョンには早いかな~。ま、オーレンには軽々しく触らない方がいいぞ。おっかない守護神がいるから」
「深く考えるな」
二人に諭されてジョンはよくわからないが頷いた。
オーレリアは何故か双子から生温かい視線を感じ、首を傾げた。
「何だ?」
「いや、ありがとな、ジョンに声かけてくれて」
「別に大したことはしてない」
「十分ありがたいよ」
オーレリアは本当に自分は何もしていないのに礼を言われて戸惑った。困って目を泳がせると隣に立っていたガイと目が合った。
ガイはオーレリアを勇気づけるように朗らかに笑った。
「オーレンにとっては何気ないことでも相手にとっては人生を変えるくらいの出来事ってあるんだよ」
ガイの大袈裟な言い方にオーレリアは目を丸くした。
(人生って)
「少なくとも俺はオーレンに救われてる」
「ガイ」
偶然出会って、成り行きでガイの手を取った。ただ、それだけ。それでも貧民街へ赴くことを決めたのはオーレリア自身だ。その行動へと導いたのは宮廷占術師のエーギル。
(ガイは救われた?妾と出会って?)
貧民街へ行けと助言してくれた老人を思い出す。
ガイと出会わなければ、今ここにはいなかっただろう。ガイに出会わなければリオンとトールに出逢うこともなかった。
「……不思議だな」
オーレリアはぽつりと無意識に呟いた。
エーギルの予言によって確実に何かが変わった。エーギルの予言がなければ貧民街へなど行くことはなかっただろう。そしてそのまま一生関わりなく過ごしただろう。知らずにいれば別に何も問題はなく、自分とは無関係の者たちのこととして済むのだろう。
だがオーレリアはガイと出会えて良かったと思っている。ニーナも可愛くて妹も同然だ。
(ガイは妾が何かを与えたと思っているようだが、妾もガイからいろいろなことを教えられている。与えられている)
貧民街の住人が一生懸命生きていることを知った。中には悪行に手を染めている者もいるが、あの環境ではまともに生きていくことは難しい。
オーレリアは自分が悪事をせずにすんでいるのは自分が守られているからだと感じていた。
(彼らには守りがないだけだ。妾に出来ることはあるのか?)
オーレリアは目の前の双子をじっと見つめた。こうして出会ったからには彼らに幸せになって貰いたい。
「……。また来る。元気でな」
「ああ、あんたもな」
ジョンにトールとリオンと会えたことは彼らの親にはもう暫く秘密にして欲しいと頼むと、ジョンは神妙に頷いた。
「うん……。あいつらの親は、あいつらを道具みてぇに扱うんだ。だから知らせない方がいいと思う」
「おまえが突然トールとリオン探しを止めたら怪しまれるだろうから、暫くは続けて欲しい」
オーレリアが頼むと、ジョンはどんと胸を叩いた。
「任せろ!」
「……彼に芝居が出来るとも思えませんが」
エリスはジョンに懐疑的な眼差しを送った。オーレリアも苦笑した。
「まぁ、任せるしかないだろう……」
今までの悲壮な叫びではなく、棒読みでトールとリオンの名を叫びそうだ。




