16、人攫い撲滅作戦内幕―ガイの潜入作戦2
「魔力切れだな。……気絶したお蔭で煙を吸わずに済んだのかもしれない」
エリスは胸の前で軽く組んだ腕の片方を立てて指先を顎に当てた。怜悧な青眼はガイの話を辿って過去を見つめているかのように虚空に焦点を結んでいる。
「恐らく頭目は催眠術で幻惑を見せたのだろう。それで攫った子供たちに恐怖を植え付け、言いなりにさせていたのかもしれないな」
商品である子供たちの身体に直接傷を付けることは得策ではない。その上で子供たちを精神的に縛り言いなりにさせる方法として催眠術による洗脳は有効だろうとエリスは考えた。とても非人道的で虫唾が走る行為ではあるが。
「頭目の男はガイの魔力の威力を見誤ったのだろうな。一瞬で建物を崩壊させるとは思わず挑発し過ぎて返り討ちにあったというところか」
「……男の吐いていた煙が催眠効果のあるものだったようだ。壁が崩れたおかげでその効力が弱まり、おまえは正気に戻れた」
アーネストはエリスの仮説を裏付けるように判明した事実を告げた。
「私が現場に踏み入った時にも微かに残り香が嗅がれた。男の懐にあった煙草を回収して調べさせているが麻薬が入っていることは間違いない」
アーネストはガイが気を失った後に突入し、人身売買組織の者たちを捕えて、集められていた子供たちを部下に運ばせ、自身はガイを担いで建物を脱出し、屋敷へと帰還したことをざっと説明した。
「あの男は……死んだんですか」
ガイは瓦礫に埋もれた頭目のことが気になっていた。決して許せる相手ではないが、殺してしまいたかったわけではない。
「死んではいない。だがあの場で死んでいた方があの男にとっては楽だっただろうがな」
アーネストは人の悪そうな笑みを浮かべた。
「あとのことは守備隊に任せてある」
別名押し付けたともいう。
守備隊の地位は王宮近衛騎士団を筆頭とする王国騎士団の中の王都騎士団、その配下に当たり、王都の治安を守る任にある。
近衛騎士団の中でも神のごとく崇められているアーネストに命じられれば全身全霊で対処せねばならなかった。
出火直後に守備隊が素早く消火活動を行えたのは予め情報を流し競売場の周囲に包囲網を敷かせていたからだ。
彼らの奮闘は結果的には焼け石に水であったが、その後の混乱を捌く役には立った。
攫われた子供たちも彼らに預け、保護されている。
「……あの子供たちはどうなるんです?」
「……下町で里親を探すことになるだろう。……リアが全員引き取ると言い出す前にね」
ガイの問いかけにエリスは苦笑交じりに答えた。ガイもオーレリアなら言い出しかねないと思った。それと同時に自分とニーナは本当に運が良かったのだとも。
ガイとニーナはオーレリアに拾われた最初の、そして恐らく最後の孤児なのだ。
エリスやアーネストが探してくれる里親ならばきっと信用できる人物なのだろうと思う。けれどそれでもガイはオーレリアの側にいられるほうがいいと思った。




