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蒼黒のオーレリア  作者: 桐島ヒスイ
第二部 人攫い撲滅作戦編

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16、人攫い撲滅作戦内幕―ガイの潜入作戦1





 エリスは一先ずオーレリアが目を覚まして、特に問題がなさそうだと分かってほっとしていた。

 部屋を出て扉を閉めるとガイに透徹な眼差しを向ける。

「……ガイ。殿下には言えなくても俺には何があったのか話して貰いますよ」

 ガイはちらりとエリスを見上げると、了承を伝えるためにしっかりと頷いた。エリスになら話しても構わないだろうと彼自身も思っていたのだった。



 話は作戦指揮を執ったアーネストにも伝える必要があったため、彼の執務室で行うことになった。コリンはオーレリアの護衛として彼女の部屋の前に残し、エリスとガイはアーネストの元へ向かった。

 



 部屋にはアーネストの座る執務机とその前に三人掛けの長椅子が向い合せでローテーブルを挟んで置かれているのみで他に家具はない。

 ガイはエリスと向かい合って長椅子に座った。

 アーネストは執務机に肘を付いて静かにガイが話し出すのを待った。

「……あの、隊長。あの子たちは……」

 ガイは少し蒼褪めながらも事実を知りたくて真っ直ぐにアーネストを見つめて質問した。

「競売にかけられる予定だった子供たちなら無事保護した」

 アーネストは表情を動かさずに淡々と答えた。ガイは安堵のあまり詰めていた息を吐いた。

「そう、ですか。……ありがとうございます」

 自分の起こした火事のために建物が壊れて、子供たちを巻き添えにしたことを悔いていたのだ。

「ガイ。……何があったのです」

 エリスに促されてガイはのろのろと顔を上げた。

「……俺の髪と瞳を見て、魔力を使えるのかと聞かれました。使えれば値が上がるって……」



 身形を整えられた後、ガイは別室に連れて行かれた。そこにはゆったりと椅子に寛いで煙草を吸っている男がいた。

 人身売買組織の頭目だった。

 頭目は三十代くらいの抜け目ない感じの男だった。

 男はガイを一目見るなりニヤリと笑って、紫煙をふーとガイに吹き付けた。ガイは不快気に顔を顰めたが男はお構いなしだった。

「こりゃあ、掘り出し物だな。……おまえ、魔術は使えるのか」

 ガイはまだ魔力を制御出来ない。使えと言われてもどうすればいいのか分からない。オーレリア(に扮したコリン)を守ろうとして魔力を発動させたのは奇跡としか思えなかった。ガイが黙っていると、頭目は面白い玩具を見つけた子供のように瞳を輝かせた。だが口の端に刻まれた笑みは歪んだ禍々しいものだった。

「試してみよう」

「……!」

 ガイは殴られることを覚悟して歯を喰いしばった。けれど予想した痛みは訪れず、頭目の手がガイの頭を掴んで至近距離から目と目が合った。それと同時に床の影から縄が現れてガイを縛り上げる。

「……!!?」

 ガイの身体は天井に吊るされ、鋭い鞭が飛んできた。いつの間にか上半身が露わになっており前と後ろ双方向から同時に打たれ、背中と胸に斜めに赤い線が走る。

 激痛にガイは呻いた。

「…………っ」

「ほら、縄を切って逃げないと。また鞭がくるぜ?」

 耳元で頭目の声が囁かれる。

 ガイは天井付近に吊るされているというのに。一瞬違和感を覚えたが、考えが纏まる前に身体に激痛が走り思考が霧散する。

 言葉通り、また鞭が打たれたのだと理解したのは数拍後。

「……………!!」

 何度か同じことが繰り返されたがガイの魔力は発動しない。

「……おまえ、強情だなぁ。それとも痛いのが好きなのか?」

 にやにやと嫌な笑いを浮かべて頭目がガイの顔を覗きこむ。

「うーん、じゃあおまえの大切なものを壊してやろうか」

「な……」

 昏い瞳がじっとガイの瞳を見つめた。深淵を覗きこむような錯覚にガイは眩暈を覚えた。

「ほら」

 直後、男が指さした場所にオーレリアが横たわっていた。

「!?」

 ガイの顔から血の気が引いた。どうして、いつの間に。痛みに朦朧とするガイはまともな判断力を失っていた。

 頭目はオーレリアの髪を掴み、手触りを愉しむように撫でた。

 ガイは腹の底から怒りが沸いてくるのを感じた。触るなと叫ぼうとしたその瞬間、頭目は小型のナイフでオーレリアのドレスを首元から縦に一気に切り裂いた。

「ッやめ、ろぉぉぉ‼」

 獣の咆哮のような絶叫とともにガイの魔力が暴発した。ガイを中心に爆風が起き、その衝撃で頭目の身体が吹っ飛び壁に叩きつけられる。

「ぐはっ……‼」

 その光景は酷くゆっくりに見え、ガイはぼんやりと頭目の顔から薄ら笑いが消え、苦痛と恐怖の眼差しが己に向けられるのを感じた。だがそれはどこか他人事のようで現実味がない。

 建物は一瞬で炎に包まれ、ばきりと何かが折れる音とともに天井が崩れ落ちた。

 崩れた天井は頭目の上に落ち、その姿は瓦礫に埋もれて見えなくなった。

 その瞬間ふっとガイの意識がはっきりとし、辺りの惨状に気付いて愕然とした。縄で縛られていたはずの自身の身体はどこも拘束されておらず、服も着ていた。

 部屋の隅には子供が転がっていたが、オーレリアの姿はどこにもない。

「姫、さま…?」

 幻を見ていたのだろうかと混乱するが、建物が燃えていることは紛れもない事実だった。

「この火は、俺が……?」

 建物の外からは叫び声が聞こえた。後ろを振り返ると壁に大穴が開いており外の様子がよく見えた。

 辺り一面炎に包まれていた。逃げ惑う人々、混乱する街。

 ガイは頭の中が真っ白になって何も考えられなかった。

「いやだ…こんな……、誰か、たすけ…――」

 ガイの意識はそこで途切れた。









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