11話_思い出と大規模工場
少し長くなってしまいました。
暗闇の中三毛猫が1匹、此方を向いて座っている。
(...ミーたん...)
その猫は、前世で飼っていた三毛猫のミナミにそっくりだった。
此方を見て尻尾を揺らしている様は、何かを伝えようとしているようだ。
(ミーたん!ミーたーん!)
やっと会う事が出来た愛猫に、手を伸ばし走り寄ろうとするが、走っても走ってもなかなか近づけなかった。
(ミーたん...)
そんな三毛猫は、知らぬ存ぜねと後ろを向き、尻尾を上げて遠ざかっていく。
それは、ともすれば誘っているような、何かを確認しに来て、その結果に嬉しそうに帰って行くような、そんな風に見えた。
(あぁ...行かないで、ミーたん...ッ!)
三毛猫の背を見つめていたが、自分の手に焦点が合うと(はっ)と息を飲んだ。
(...そうか...そうだったな...)
そこには、ゴツゴツとした成人男性の手では無く、プニプニの柔らかそうな幼女の手があったのだ。
…
(じゃあね...ミナミ...またいつかどこかで...)
自分の手に気がつくと同時に、三毛猫が此方を振り返った。まるで、別れの挨拶をしに来ただけなんだからね、と言われている様で、別れの言葉を告げる。
「(...さま...)」
(あぁ...呼んでいる)
意識が徐々に覚醒していく。それはまるで水の底から浮上するような...
「起きて下さいッ!蛇神様〜!」
「(ッ!もっとゆっくり起こさんか!)」
「良かったですー!生きてたんですね!うわーん!」
浮上するどころか、釣り上げられる勢いで起こされた。その方法は荒っぽく、体を前後に大きく揺らす起こし方だった。今度はちゃんと、気絶した人間についての対処法や、脈の取り方についてレクチャーしようと思った。しかし、寝起きでびっくりしたのは、日本語が聞こえたのもそうだが、人間っぽいけど、手や足がカエルみたいな人たちに、囲まれているからだ。しかも総じて全裸とは是如何に?
「(あのぅ...どちら様で?)」
とりあえず、自分に抱きついて泣いてる人に聞いてみた。
「グスッ、私ですよぉ〜、私。」
「(...誰だっけ?...)」
「えぇーん!、酷いですー!...ほら!」
そう言って抱きついていた女の子は、少し離れてから跪き、手を合わせる。周りの人達もそれに合わせた様に跪く。そうして思い至る。
いや、もしかしたらと思ってはいたが、その可能性は否定したかっただけなので、この場合は「思い至らされた」の方が正しいのかもしれない。
「(あぁ...うん、ゴホンッ!そうか、皆進化に成功したのだな...)」
「(はい、蛇神様。我々は、貴女様の眷族として進化する事が出来ました。これからも貴女様に変わらぬ忠誠を誓います。)」
「「「「誓います!」」」」
「(...うむ、諸君らには期待している。これからも忠義に励むがいい。)」
最初から最後まで、死んだ魚の様な目をしていたかも知れないが、ゆるして欲しい。
何故ならば、跪いている人...元ネズミ達は全員全裸だったのだから、男も女も皆裸である。誰も彼も恥ずかしがる事無く、普通の顔をしている。
そんな彼らが跪き、祈りを捧げているのだ。
目が死なないわけがない。
「(それはそうと巫女よ、進化した自分たちの種族名とかは分からぬのか?)」
「(...大変申し訳ありません。シュゾクメイと言うのが何なのか分かりません。)」
「(ふむ、なら良い。変なことを聞いた。)」
「(いえ、こちらこそ分からず大変申し訳ございません。)」
どうやらゲームやアニメの様に、人の姿に似たからと言って、目の前に仮想ディスプレイ的な物が現れる訳ではない様だ。
「(進化の祝いに、「鼠蛇」性を送ろう。名は自分でつけると良い。)」
「(...ソダとはどう書くのですか?)」
「(...蛇の鼠と書いてソダと読むのだ。コレは...古の文字だからな、今教えても何の役にも立つまい。)」
決して、漢字が書けない訳ではない。だが、書いたところで彼らに理解出来るとは思えなかった。
…のだが、期待の眼差しが突き刺さって耐えきれそうにないので、書く事になってしまった。
「(こう、だったかな?...いや、こう書くのだ!)」
かなり自信が無かったが、彼らに正解も不正解も分からないので、言い切る事にした。
「(そうだ!どうせなら、簡単な古代語の“ひらがな”と“カタカナ”を教えてやろう。)」
「(おぉ、ぜひお教え下さい!)」
「(あぁ!必至こいて覚えるが良い!)」
そして、応急処置よりも先に、自分でも簡単に教えられる、ひらがなカタカナを教える事になってしまった。
教えている最中に思い出したが、全員が全裸...なのは諦めるとして、見た目年齢は中学生ぐらいで
全員茶髪に黒のメッシュが入っており、頭部から丸い耳がのぞいている。
(なんか、髪の染め方が統一されてるのは、変な感じだなぁ。でも、教員になった気分が味わえるのはいいな。)
前世では、教員に興味があったので、今世でその職種を体験できた事は、とても嬉しい事だった。
「(良し、皆にはコレを使って文字を書く練習をしてもらう。数が少ないから...5人で1枚を使ってくれ。)」
そう言って手渡したのは、文字が彫られた石版だった。そこにはひらがなとカタカナが順番に、びっしりと書き込まれていた。それを20枚作り、100人以上居るであろう人達に配る。
「(本当は読み方も教えたいのだが、ココが狭すぎるから拡張工事を行う。それが完了するまでは、各自文字を書く練習をしておいてくように。)」
「(はい!ありがとうございます!)」
人間大(中学生ぐらい)になった鼠達は、もちろんミニチュアの町には入れずにいた。今もなお、町の外で文字の練習を行なっている者も居るようだ。その現場をどうにかする為、町の奥行きを広くし、新しく人間大の町を作ることにしたのだ。
「(初めちょこちょこ中パッパ、赤子泣いても蓋とるなっと...設計図はこんなもんかな?)」
町の設計図を地面にミニチュアで作り、道幅や住人が増えた後の拡張工事予定も盛り込む。最終的には、町を円形にする予定で計画を進める事に。
町の中心には、口の字型の学校を建てて、いざと言う時の避難場所にもなるようにする。
学校までは大通りがあり、学校から町の端との中間地点には、天井を支える太い柱を建てる。大通りは片側2車線道路になっており、中央分離帯からは、四角柱が計6本(学校から中間地点、中間地点から町の端の総計)生えており、コレが8個有れば天井も支えられるだろうと考えていた。
(良し、円形都市計画第一弾、8分の1を完成させよう!)
円形都市を、ケーキの様に8分の1にした形ところを作る事にした。
模型の町に岩で作った、人形を設置してサイズを確認し、大通りの幅を決めて作って行く。
(片側2車線で12mぐらい...真ん中を5mとって...約30m)
とても大雑把な計算を行い、道幅を確保していく。元々の町は、崩落が起きないよう周囲に柱を何本も建てて、安全を確保しておいた。
(スゥ...行くぞ!)
イメージを整え地面に手で触れる。触れた先から、音もなくまっすぐに伸びる片側二車線道路ができて行く。道路は歩道と車道にちゃんと分かれており、境目は段差があり一目で分かる。
奥に行くほど天井を上げて、最終完成形が地下ドームになるようにする。
(...ハァッハァッ...くぅぅー、もう無理!)
「蛇神様!大丈夫ですか!」
道路を整備し、柱を建てる大規模工事を、魔法で一気に片付けたコトで、魔力を大幅に消耗してしまった。その結果、身体にチカラが入らなくなり、ベタッと言う音を響かせて倒れる羽目になってしまった。
「(...巫女よ、迷惑をかけたな。)」
「いえ、迷惑などと思ったことなど御座いません!」
「(...そうか、済まんが3時間ほど寝かせてくれ。)」
「3時間と言わずに、好きなだけお眠り下さい。」
「(うむ...時間になったら...起こして...く...れ...)」
それだけ言い残して、巫女に抱かれたまま眠りについたのだった。
次回更新も土曜日です。




