10話_家族
(やったー!ネズミ達よ!私は帰って来たー!)
上階層への入り口に入った時の第一声がコレだった。
喜びのあまり、目頭が熱くなっていたが、よくよく考えると下に入ってから、体感時間6時間ぐらいしかたっていない事に気づいた。
(それにしても、めっちゃ疲れたわ〜。)
少し後ろを振り返ると、ラジコン式ゴーレムが ドックボアードを背負ってゆっくりついて来ていた。坂道をゆっくり登ってくる姿を、じっくり見ながら自分も坂道を登っていると、脳裏に電撃が走ったかのように名案を思いつく。
(リフトだ!リフトが有れば登りが楽になるぞ!)
そうと決まれば即行動。
ラジコンゴーレムを坂道の脇に寄せて、壁に手をつき魔法を行使する。
まずはドリル状に加工した岩を2つ作るところからだ。
ドリルを作るためには、壁から円錐の岩を取り出す。次に、圧縮して強度を増やす。そして、平行四辺形を極薄に潰した様な形の出っ張りを、地面に作る。そこに円錐を押し当て、魔法で円錐と平行四辺形の接触部分を凹ませながら回転させることで、均等に溝を作ることができる。
この時に、円錐の側面に出来る溝は広めに作っておく。
するとあら不思議、ドリルの完成である。
そして、完成したドリルの刃を坂道に押し当て、ドリルの刃が半ばまで沈む様に、坂道の接触部分を長方形の形で凹ませる。
この工程を二回繰り返し行い、ドリルを固定するために、物を乗せられる広さの台を乗せたら、リフトの完成である。
横幅は坂道の半分ぐらいあり、長さは横幅と同じぐらいだ。
後は、ドリルを回転させて、リフトが前進するのに合わせ、坂道にドリルの刃が収まる長方形の穴を開けて行けば、めでたくリフトの完成である。
リフトの通り道は、キャタピラで進んだのかと言うぐらい綺麗に穴が並んでいた。
(ふぃ〜、我ながら上手く出来たな。古代の遺物っぽく、無駄に魔法陣でも描いてみるか。)
そうして下手くそな五芒星の魔法陣的な物を彫り込み、何の意味も無い四角柱をリフトの四つ角に設置する。
(見た目を凝るのも良いけど、ゴーレムを載せれるのか試してみるか)
ふと心配になって、棒立ちのまま動かないゴーレムの、コントローラー(では無いが)を握りしめて、リフトに乗せる。
……….
しかし特に壊れる事は無かった。
そもそも、多少のヒビ程度は、魔術で即効修復できるので、そこまで心配する必要は無かったのだが。
次に、ゴーレムを乗せた状態でリフトを動かしてみることにした。すると、ガリガリと石どうしが擦れ合う音がし出し、それでも動き始める。
(騒音が酷いな。近くに住宅街が有ったらそうそう動かせなかったな)
しかし、この洞窟内部には住宅街や、騒音でクレームを言いにくるオバちゃんも居ない。ドリルと地面の接触部分を、お互いに丸くする事で、ガリガリが、石臼を回す様なゴリゴリという音に変わり幾分かマシになった。
(...さぁ、帰ろう。帰ればまた来れるから)
そして、リフトにゴーレムと共に乗り、2歩進んで1歩下がるを繰り返しながら、上の階層に戻るのだった。
ゴリゴリゴリ...ゴロゴロゴロ...
最初こそ鼻歌混じりに作業していたが、30分ほどで飽き始めてしまった。そして、何度目かの休憩の末に、ようやく元の階層に戻って来れたのだった。
(ふぁ〜、疲れた〜。風呂に入りたいわ〜。)
下への入り口まで遂に戻って来れた。次に下に行くときは、ネズミ達に注意事項などを聞いたり、お供を付けようと心に決めた。
そのままゴーレムを操り、町まで行く。
町の前まで行くと、門の内側では、何やら騒ぎが起きているらしく、若干の喧騒...っぽい鳴き声が聞こえてくる。
(どうしたんだ?...ネズミ達が仲間割れをするなんて珍しい...)
門の向こう側に居るネズミ達は、俺の接近に気づいていないらしい。そもそも、門の上に見張りが居ないのはおかしい。彼らは、日本人顔負けのワーカーホリックぶりを発揮していたので、もしかしたら過労で倒れたのかもしれない。
それに慌てて、門の内側広場でパニックが起こって居るのかもしれない。
(急いで帰らねば!)
その結論に達したとき、ゴーレムから手を離し、全力で門まで近づき、門の上から広場を覗く。
(...な、何事!?)
そこには、昆虫の鎧に身を包んだ1匹のネズミが、他のネズミ達にとり抑えられて居る光景が、広がっていた。
よく見ると、門の上に居る見張りと、下に向かうときにあったネズミの隊長が、昆虫アーマーを着込んだネズミを取り押さえて、何やら訴えて居る様だった。昆虫アーマーの方は、ジタバタと手足を振るだけで起き上がれない様だ。
「(一体何の騒ぎだ?)」
広域念話を使い語り掛ける。
すると、一斉に此方に視線を向けて来て綺麗に跪いて行く。
そして、昆虫アーマー他2匹も跪く。ただし、昆虫アーマー本人は、そのまま流れる動作で祈りの姿勢に入った。え?巫女ちゃん?
「(蛇神様、ご無事の帰還、たいべんぶれじゅう...)」
途中から涙声になり、終いには鼻を啜る音まで聞こえはじめる。...巫女の念話のクオリティが高いんだが。
「(むぅ、心配をかけたな。して巫女よ、何故その様な姿をしているのだ?)」
そう声を掛けると、ヘルメットを取って顔を拭っていた巫女は、顔を上げ少しモジモジしながらこう言った。
「(グスッ...蛇神様を、お迎えに参ろうかと、思っていました。)」
愛い奴め、そう思いながら巫女を抱き上げ頰ずりをする。この時には疲れなどなくなり、元気になっていた。有り余る元気を、嬉しさの表現に換算する。
「(そうか、そんなに心配してくれていたのか!
)」
「(きゃっ!...へ、蛇神様!な、何をなさるのですか?)」
「(何って、家族の抱擁に決まっておろう。お前達は皆、家族だと思って...)」
若干涙声になりながらも、想いを伝えていると、自分から血の気が引いていくのを感じた。
(あ、あれ?なんか...急激に眠...け...が...)
次第に体温が下がり始め、瞼を開けていられなくなり、ゆっくりと視界が暗闇に覆われる。ただ、目頭に溜まった涙だけが、暖かさを宿していた。
誰かが此方を覗き込んで、何かを叫んでいるのが分かる。暖かい何かが顔に落ちてくるが、それが何かを悟事さえできずにいた。
薄れゆく意識の中で、「行かないで」というくぐもった声だけが響き、微睡みの中に意識を手放した。
次回更新も木曜日です




