銀色の建物
「って言ってもどうやって開ける? 扉がっちり閉まってるけど……」
「……」
目の前には固く閉ざされた、材質の分からない銀色の扉が立ち塞がっていた。あの爆発に耐えた強度なので、相当なことをしない限りは開けることが出来ない。近寄るが早いか、ナオは扉をコンコンと叩き、再び立ち止まる。
「水……通るのかなぁ…?」
そう言ってナオは水を生成した。空中を舞う大きな水滴たちはやがて剣の形に形成され、自身らがその形を維持するために、刃の部分が猛スピードで流れを生み出した。
「…それは?」
「水の魔法の1種だよ。俗に言う討伐の依頼とかで使う、攻撃用の魔法なんだけどね。これでつつけば切れたりしないかなぁって……強引かな?」
急流にまで成り立った水の剣を、ナオは「水剣」と名付けていた。強く流れる水はダイヤをも切り裂くという言葉に由来し、流れを操作して合金よりも強い剣を水で生成することに成功した。
イブキはまたもやナオの魔法に驚かされた。そして冷静に、このまま攻撃した場合どうなるかを分析し始める。
「……仮に攻撃したとしても、一気にここの汚染が中に流れ込む恐れがある…。となると、浄化が必要になるな……」
「……ナオ。お前は浄化に当たってくれるか?」
「え? いいけど…この扉どうするの?」
懐を漁ると、黒光りした武具が目に写った。独特な形をしたそれに、イブキは赤い液体の詰まったボトルを弾丸のように詰め始める。
「俺がこれで、こじ開ければいい話だろう」
「わ、拳銃!使うんだ!」
「この赤い液体…爆破弾でなら、相当の威力が出ると保証されている。仮にお前が攻撃して開けたとしても、俺に浄化の術はない。それに、お前が攻撃した直後にそのまま浄化魔法を使うとなればラグが多少なりとも生まれるだろう」
「あ、確かに……」
「……まぁ、任せろ」
数歩前に進み、拳銃を構える。チャキッと鳴る発砲前の姿勢がどこか凛々しく、群青の瞳はただ1点の的を刺すように見る。ズレないように歩幅をただし、頭の中でどこを撃ち抜くのかを的確に計算する。
ナオは思わず固唾を飲んだ。荒野に吹く風が、余計に緊張感を引き立てていく。目の前にある扉と相棒を見守りながら、そっと自身の手を祈るような素振りでにぎりしめる。
刹那、風が止まった。無音になった空気を確認して、イブキは定めたルートに的確に弾丸を放った。
――――バンッ!バンッ!バンッ!
扉の開閉の隙間を中心に、上部と右部、左部を素早く破壊した。液体の入った弾はぶつかると同時に小規模に爆発し、貫通した。弾丸が当たったところから、段々と円形に穴が広がっていき、見事に人が通れるくらいの穴を生成した。
イブキはその隙を逃さなかった。穴が空いたところを指さし、ナオに指示を下す。
「…今だ、ナオ」
「はーい!」
すかさずナオは手を前に構え、あの時見せた浄化魔法を再現した。美しく流れる水が一面に飛び交い、荒廃した空気に冷たく生命を注ぎ込む。それは恵みの雨のごとくこの地を舞い、中心に立つ水の魔導師は得意げに笑ってみせた。
「OK? 出来たかな?」
「上等だ。あとは…昨夜と同様にそこら辺の岩を詰んで、内部の汚染を防ごう……」
言葉のトーンが徐々に落ちていった。目先にある突き破った扉の先の部屋を確認すると、イブキは息を呑んだ。
「? どうしたの?」
「……この材質、汚染に対して強い体性があるのか。空気を浄化しなくても、中が穢れることは一切ない…成程…」
「凄くない…? 何も無いんだ…そんな材質あったんだね」
「あぁ……」
通例、荒廃した街に残された建物は外装だけでなく内装までもが酸化してしまい、跡形もなく脆く崩れ落ちてしまっていた。ところがこの建物だけは無傷であった。
この街の技術力では有り得る話ではあったが、技術者として、目の前の構造物の出来前の良さに驚きを隠せずにいた。
「…とりあえず、中に向かおう。話はそれからだ……」
「絶対に、この中に手がかりがあるぜ」




