ユメ 後編
前回の続きです!
『――上司の命令が聞けないのか!!』
『ちっ………!!』
場面は一変した。いつも穏やかな上司の叫び声が、イブキの意識を覚醒させる。目の前にはなおも暴走し続けるメインコンピューター。ディスプレイには赤い文字で“DANGER”と綴られていた。あちこちに存在するキーボードは目まぐるしく光を放ち、各自問題解決のために死力を尽くしている状況だった。
悪魔のような時間だった。メインが死ねば街は必ず崩壊する。それだけは避けなければならなかった。信頼できるのは自分の腕前と機械の正確さ。この街は理想郷と謳われている。崩壊なんて、あってはならない事だ。止められないはずがない。
イブキは必死に止めに入っていたも、上司の怒号が真っ直ぐ突き刺さった。彼はイブキを、部下を逃がすという選択をとるというのだ。誰が見ても無茶だとわかる策である。
『いいかイブキ、お前は確かに腕がいいプログラマーだ。
だけどな、この事故は抑えられない。
たとえどんなに死力を尽くしても、誰にも止められねぇんだよ!!』
『なら上司にも無理じゃねえか! さっさとこっちに……!』
『馬鹿野郎っ!!』
再び怒鳴り声が辺りをこだまする。緊急事態の放送や、エラーの音が甲高く響く中でも、上司の声は何よりも強く耳に流れ込んできた。
『オレはあの日にお前を部下にした!
部下に出来ないことを務め切るのが上司……――――親ってもんだろうが!!』
『………っ…』
『だから早く……早く行け!!』
崩れていく。
何もかも。
―――――父親の、力一杯の笑顔も。
夢は無慈悲にも、そのまま世界を崩壊させた。
コンピュータは暴走し、誇り高き街のシンボルは派手な音を立てて地に落ちていく。
どんなに高い技術力、魔法があったとして、誰がこの惨状を救うことが出来たのだろうか。
誰がどのように懺悔をすれば、世界の理を覆して、理想郷という名の虚像を実現させることが出来たのだろうか。
黒衣の技術士の夢は、ここで覚めた。
〜〜〜
「………ぁ………つぅ……」
細い喘ぎが洞窟一帯に広がる。悪い夢を見たかのような感触。頭はとても重かった。
「イブキ………?」
視界に映ったのは、青い目を潤わせながら、心配そうにこちらを覗き込む、見慣れた水の魔導師の姿だった。洞窟はとても暗く、夢の衝撃で余計に闇が深く写って見えた。
「……ナ…オ……か…」
「どうしたの? すごく顔色が悪いよ……」
弱々しく腕を上げ、目元を隠す。あの出来事から目を背けたくて、自身の衣類で群青の目を覆いかぶせる。もう思い出したくもないという、そんな悪夢のような話であった。
「……嫌な…夢を、見たんだ…」
「夢?」
「…“世界の衰退”の犠牲となった、俺の…大切な人の夢」
「……そういえば、話していなかったな。事件の全貌を…」
ゆっくり起き上がり、掠れた声で当時の出来事を、相棒に話そうと試みた。まだナオは世界の衰退について、なにも知らないままだ。知らぬが仏という言葉もあるが、知らなくてはならない事実もある。イブキは、真っ直ぐナオをみて、決意を固めた。
「話しておかないとな……あの場で、何が起きたのかを」




