ユメ 前編
お久しぶりです生きてますエクリールです。
荒む大地2章、前編後編でお送り致します。
大遅刻すみませんでした……
白く塗装された建物の内部、特殊な材料で作られた床を黒い靴がいくつも蹴る。長身の男たちが白衣を翻し、何やらカルテを片手に廊下を縦断していた。
『ん〜〜……今年は粒揃いだ』
その中でも別段の風格を持つ男は、自身に生えた髭をさすりながらカルテを眺めていた。撫でるように紙をめくり、主にどんな人間が配属希望なのかを確認していく。皆経歴は一流なもので、事前に受けた試験の出来もかなりのものであった。
特段男の目を引き寄せたのは、青い目を鋭く光らせる黒髪の男のカルテであった。
『特にこの子がいい、センスがある』
実技の成績はコンピュータに限ればずば抜けた才能を持っている点数であった。他の実力者も遥かに凌ぐ能力がカルテ越しでも伝わってくる。長年見てきた中で随一の人間だろう、男はニヤリと笑っていた。
『決めた、こいつをオレの部署に配属させよう!異論は認めないからな!』
〜〜〜
自動ドアが機械音を立てて素早く開いた。ひとつの机に、透明の壁越しに一人の男が立って待っていた。部屋は机で二分割されていて、男が入るドア側と隔たれた部屋側で同じ面積を保っていた。
待たせていた男はまだ若い。黒髪が目立つ群青色の目を持っていて、どうも見慣れない白衣を乱雑に羽織っていた。胸元にはネームプレートが付けられていて、胸ポケットには数本のペンと小型の端末が仕舞われていた。背はそこまで高くない、細身の男である。
若い男はこちらに気づくと、深めにお辞儀をした。
『こんにちは、宜しく御願いします』
『よろしくー、まずは名前から聞いてもいいか?』
軽く挨拶を交わし、自身は椅子に腰をかけ、相手にも座ることを促す。男は相手に名前を問うた。
『技術省プログラム科研修生、イブキ』
『歳は?』
『18』
『好きなものは?』
『コーヒー』
『好きな子はいる?』
『………ふざけてるのか?』
途中まで淡々と質問に答えていたイブキは、唐突に聞かれた不意な質問に対して迂闊にも口を滑らせてしまった。しかし反省の色もなく、群青色の目で壁越しの男をギロリと睨む。
『こらこら。面接中だよ』
ケラケラと笑いながらカルテを揺らす男の姿は、最早イブキにとって見慣れた光景であった。目の前で面接官を務めているのは、自分のよく知った人物である。そんな人間が真面目に職務を果たしてくれるとは、イブキはハナから期待していなかった。思わず口から言葉がこぼれ落ちる。
『どんな面接だよ…。それに俺の個人情報なら、データ記入で既にそっちに渡ってるはずだ』
男はとある一言を聞き、ふと目の色を変えた。そしてイブキに投げかけるように、初めの課題を出す。
『入力したデータは、どうやって我々の元に届くと思う?』
『そんなの、入力したデバイスから、まずは結合科に回されてデータの部類分けして、その後メインコンピュータを通し、各部署にデータが配布される。時間にして凡そ2、3分。…だろ?』
『完璧だ。いいね』
かわいた拍手の音が室内に響き渡る。成績が良かったのは伊達ではなかったようだと、男はニコニコと受験者の方を見た。
『けれど配布されただけのデータじゃ、本人のあれこれは見抜けない。
この街ならではの科学技術、魔法を使えば、何もこんな面接は必要ない。
それでも面接で、オレが直でこのような質問を投げかけ、キミがそれに答える。これだけで意義は十分にあるだろ?
プログラムみたいなデータを扱う仕事してると、尚更こういう、人と人の生の会話とかを重んじたくなるものだ』
『……確かに、論は通ってる』
技術省というくらいだから、毎日塔にこもってずっとコンピュータと向き合うだけの仕事だと考えていた。だからこそこんな面接、本当に意味が無いとイブキは内心ずっと引っかかっていた。
けれども、この男はそれ以上を見すえていた。そういう仕事をしていたからこそ、見抜くべき何かが、コンピュータで測れないものがあるのだと、たった一言の会話で気づかせてくれたのだ。只者ではないとイブキは固唾を呑む。
一方で面接官の男は、一通り聞き終えたかのような雰囲気を醸し出して、ふぅ…と一息ついた。
『オレから見たキミの印象、言っていい?』
『別にいいけど…』
男は、手に持っていたカルテ用紙をくるくると丸めて、真っ直ぐイブキの方に突き出した。眼光はまるで父親のように、しかし同時に友達に幻滅したような表情で、呆れた声音で話し始めた。
『まずさぁ……、あくまでオレは“上司”になるワケだろ?
敬語使えないのかお前は?』
『……』
『後、途中までは良かった。けれどオレが投げる質問には臨機応変に対応をだな……』
『……仕事と好きな女になんの関係があるんだよ…』
イブキは分かりやすく顔を赤めて、睨みつけるように面接官に文句を垂れた。ここまで露骨に不意打ちだと言われたら、面白くて仕方がないと、男は今にも笑いだしそうな表情をどうにか抑える。そしてそれを誤魔化すために指摘をする。
『ほら、また敬語が抜けてる』
『………』
ここまでやって大丈夫だろうか、心配も少し過ったが、評価は評価である。男は丸めた用紙から1枚取り出して、面接結果をタラタラと述べていく。
『けれど、今さっき行ってもらったシステムの説明といい、技術試験においてはパーフェクト。現役のヤツより使えるかもしれないなぁ…』
『…よし』
『合格にしてやるよ、お前は今日からオレの部下だ』
さっきまでの人をからかう目はもう無かった。今あるのは、一上司としての、この界隈で働く先輩としての優しく強い眼差しで、イブキのよく知った強い光を持つ目であった。
イブキは答えるように、ぎこちなく口を開く。
『……ありがとう、ござい…ます』
『うーわ、ぎこちない。ぎこちなさすぎる』
『不慣れなもので』
『はははっ、いいよ敬語外して。面白くて仕事に集中出来なくなるから……ぷっ…クスクス…』
『殴りてぇ……』
すっかり和やかになった面接会場、1組の親子が揃って同じ場に立つことが決まった。上司はニヤッと笑いかけ、イブキに同じように声をかけた。
『……これから正式に、オレの部下だな。イブキ?』
『…チビの頃とは違う。今に俺の方が使えるってこと、証明してやるよ』
鋭い群青の眼光は間違いなく成長するだろう。そしてこの言葉は近いうちに真実になる。上司には、根拠はないけれど強くそう確信することが出来た。この男がやるといったらやりきることを、上司は誰よりも知っている。昔のような弱く荒くれた少年は、もうここには居ないのだ。
『おー、怖い怖い。期待してるよ』
『上等だ。…任せとけよ』




