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荒む大地   作者: Ecrire
第二部
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10/20

荒む大地

エクリールです。

本日から荒む大地は第二部へと進みます。

よろしくお願いします。

 水の魔導師は懐かしい景色を目にしていた。

 前に住んでいた住居の近くに、小さな広間がある。

その場にはたくさんの種類の花が咲いていて、すぐ傍に白い砂浜、大きな海が広がっていた。

自然豊かな『街』ならではの景色を、彼女は幼なじみ達と眺めることが好きだった。

自宅から様々なものを持ち出し、皆で菓子をはさみながら長いこと会話をする。


 そんな昔の日常が、ひとつの事件のせいであっけなく壊されてしまうのは、果たして彼らは想像出来たものだろうか。

少なくとも彼女には不可能であったが、他のふたりはどうだったのだろう。


 ――――――そもそも、そのふたりとは誰をさしているのだろう。


 

水の魔導師は、過去の追憶に水を指した。



~~~


 変にぼやけた感覚が蘇る。

 先程まで見えていた風景は、突如となく現れたモヤによってどんどん曖昧にされていき、少し経てばそこにはただの霧しか残っていなかった。


 ――ここはどこだろう。

 ――何があったんだろう。


 次々に浮かぶ疑問の末、彼女はひとつの答えを見つけた。


 ――まずは、起きないと。

今何が起こっているのか、僕の目で確かめるんだ。



 そうして、ナオは自身のまぶたを開いたのだ。



「ん...ここは...?」


 目を開ければわかると思っていた。

 きっと視界には、自分らが生まれ育ったあの『街』が写ると思っていた。 またいつも通りの生活がこの先にあり、この事件はまた塔の偉い人が上手く解決してくれるのだろう。と、どこか他力本願にもなっていた。

 しかし現実はそれを拒み、全く身に覚えのない景色をナオに見せたのだ。


「なに……これ…」


 青い目が宿したのは、どこまでも荒廃した大地だった。

 理想郷であると歌われたあの街の面影はどこにもなく、祭りが行われていたあの賑やかな城下町も全て風化してしまい、建物は皆自身の肉体をさらけ出していた。


 重い体を起こして、改めて荒む大地を見渡す。

 この街の誇りの象徴であった調和の塔でさえ、まるで廃墟のような風貌になりさがってしまった。


 ――この街は、滅びたんだ。


 確信できる程の姿に、ナオは思わず泣きたくなってしまう。


「……どうして、こうなっちゃったんだろう…。他のみんなはどこに…?」


 今のところ、この荒れた土地では人影を見かけていない。

先程までの賑やかさとは打って変わって、静寂だけが街を包んでいた。


「そうだ…そう言えば、イブキやユアは…?

確か調和の塔の方に向かっていたよね……」


 変わり果てた塔をもう一度見上げる。

遠くからなので、どこに彼女の幼馴染達がいるのかは分からなかった。

 それでもナオは、意志を強く持ち行動を起こした。


「…調和の塔に行こう。 きっと誰か居るかもしれない」


~~~


 調和の塔の前まで訪れた。

 塔は半壊状況で、肌身が風化のために露出して見えた。

見たところ、ユアもイブキも見当たらなく、それどころか人っ子一人でさえも気配が感じられなかった。


 ここが事の原因であるかを裏付けるように、空気の悪さはより増していた。

なにか毒素を混じえたかのような空気は、ナオの体力を削ぐのに十分すぎる代物であった。


「うえぇ……空気が汚いな……」


 どうにかならないものか。と、ナオは自身の力で空気の洗浄が出来ないかを試してみた。

 彼女は水の魔導師である。しかも常人より多くの魔力を身に溜めているため、簡単な魔法なら詠唱無しでも発動させられるのだ。


 左手を前にかざし、手のひらを空中に向ける。そして、右手で左手の周りをぐるぐる円を描いた。

すると、ナオの手のひらから少量の水が生成された。

その水の量を増やすため、ナオはしばらく同じ動作を続ける。

一定の量に達した時、ナオはそれを空中に打ち上げるように放った。


「……それっ!」


 本来ならその水が辺りの空気を良いものにしてくれるはずだったが、汚さが異常なためか、今回の魔法は不発に終わった。


「……ダメだ、水魔法でもどうにもならない…………」


 ナオは諦めて、塔の近くまで歩いていくことにした。

 近場で呼べばきっとどちらかは見つかるかもしれない。

そう希望を持ち、ナオは幼馴染達の名前を呼び続けた。


「イブキー、ユアー。どこー?」


 荒廃した大地に、虚しく魔導師の声は広がるばかりであった。

 

この汚染された空気の中、ナオは何時間も屯していた。

やがて空気はナオの体へ害悪を与え始め、ナオもそれに悲鳴をあげ始めたのだった。


「何だか、頭がクラクラしてきた…」


 きっと汚染された空気のせいだろうと見当をつけても、ナオはそれをどうすることも出来なかった。


「……うぅ……ダメだ…」


 塔を目の前にして、ついにナオはその場に倒れてしまった。

 最後まで幼なじみを探した彼女の胸元には、まだ街が美しかった頃、最後に預かった少女のペンダントが鈍く輝いていたのだった。


~~~


 激しい爆発が目の前で起きた。

 自分で起こしたものであっても、耐久の術なんて考えていなかったのだが、黒衣の技術士は気を失うだけで済んでいた。


「………っ……収まったか…… ?」


 重いまぶたを持ち上げ、イブキはまず辺りを見回す。

 計算通り行けば、街は恐らく崩壊しているはずだ。

その現状がどれほど悲惨なのかを、割れたガラス越しから確認した。


 街の様子は、悲惨なものだった。

城下町の建物は全て風化し、脆くなった建造物のほとんどはその場に崩れ落ちていた。

何か毒素のような不味い空気が辺りに充満していて、きっと爆発の影響で良くない空気が生成され、それらが街中を汚染させているのだろうと推測がたつ。

 最早この街は、あの時の理想郷からはかけ離れてしまった。


「……酷い有様だな。空気もまずい」


 口元を衣類で隠しながら、イブキは街の様子から目を背けた。

頭の中で想像はできても、実際に目にするのではかなり異なる。イブキはこのことを、よく理解することが出来た。


 これからどうして行けばいいかを考えるも、まずはこの空気に慣れなければならないとイブキは考えた。

 仮に探索に出かけ、何かいい手段を探すにも、この空気の中倒れてしまうのでは意味が無い。

 打開案を模索するうち、イブキは自室にとある薬があることを思い出した。


「潰れてなければいいが…自室に環境対応薬が置いてあったな。とりあえずそれを取りに行くか」



 自室前に赴くまで、イブキは脆くなった通路や階段を身長に下っていた。

 中にはぽっかりと穴が空いてしまったものもあり、下手をうてばそのまま地上へ落ちてしまうなんてケースも考えられた。


 ゆっくりと進んでいき、イブキはようやく自室の前に到着した。

 自室は幸いにも風化の被害を受けておらず、扉が少し錆びてしまった程度の状態であった。


「どうにか………入れそうだな」


 イブキはドアノブを握り、ぐるりと回して中に入った。


「使えるもの……持っていかねえと」


 彼がこの先で使えるだろうと判断し、なおかつ状態がよかったものは以下の通りである。


 錆びたナイフ、銃のエネルギー予備、満腹薬、環境対応薬、小型タブレット、中身のあるUSBメモリ。


 環境対応薬とは、イブキが探していた薬のことである。

この汚染された空気に対応するために、彼はそれを1錠飲んだ。

 錆びたナイフは万一の護身用として持っていくことにした。彼は自分の拳銃を所持していたが、護身用としてもサバイバルとしても、ナイフの需要は高かった。

 USBメモリは、一種のお守り替わりだった。


 これらを全て携帯するため、そこらに転がっていた茶色のショルダーバッグに荷物を突っ込み、イブキは改めて外に出ようとした。


「とりあえず、全て袋に突っ込もう。

後は…生存者探さねえと。」


 自室の窓は割れていた。

 先程までは腐ったように感じた空気は、いつも吸っている正常なものと大差を感じなくなった。 吹き荒れる風に髪を攫われながらも、イブキは一言、望みを口に出した。


「……一人は、居るはずだ」




 どうにか塔を全て降り終えたイブキは、しばらくぶりに感じた地上へと出てこれた。

 地上は塔の上から眺めていたものよりもよっぽど汚く見えて、本当に街は荒れてしまったのだと改めて感じられた。


「やけにボロくなったもんだな……」


 風化の影響で小石になってしまったレンガの欠片を蹴飛ばす。

欠片はコロコロと転がっていくかと思えば、2、3回転して直ぐに形をなくしてしまった。


 これが理想郷の末路だと考えると、可笑しくて仕方がなかった。

 今はどこかに避難したであろう王の絵面を浮かべては、最早苦笑いが浮き出てしまった。


 しばらく塔の周りを探索すると、見慣れた影が地面に転がっているのが見えた。


「あ……? なんであんな所に…?」


 街の人はほとんど脱出したはずで、今目の前に移る青色のローブを羽織った女も、本来なら外に出ていたはずだった。

 不審に思いながらも女に近づき、うつ伏せになった顔をこちらに向けてみる。


「やはり……ナオか」


 倒れていたのは、彼の幼馴染の一人のナオだった。

 ナオは気だるそうに意識を失っていて、特にこれといった外傷は見当たらなかった。


「…空気に耐えられず、バテたといったところか。

とりあえず、これを飲ませねえと…」


 イブキはボックスの中から、環境対応薬を取り出し、そっとナオの口に含ませた。

どうにかそれを飲み込ませて、あとは目が覚めるのを待とうとイブキは隣の岩に腰掛けた。


「………こいつ、どうするか…?」


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