聖女様の家族
「あいつの両親?」
三春は、盛大に顔を顰めてナツを見る。
「ああっ」
朝食……不凍液のスタンドパウチを啜りながらナツは頷く。
色々と起きた猫カフェ"Ca-Syuu"でのバイトの翌日、ホームルーム前にいつものように寄ってきた三春にナツはいきなり言葉をぶつけた。
"星上真冬の両親はどんな人たちだ?"と。
ちなみに真冬は、いつもの"聖女様"に戻っていつものように同級生達に囲まれてたわいもないない会話で盛り上がっている。
顔色がいつもよりも良く、目の輝きも違う。
そんな些細なことにどれだけの人間が気づいているだろうか?
「なんでそんなことが気になる?」
本気で分からないと言った顔で質問してくる三春に「大したことじゃない」とぶっきらぼうに答えると更に眉を深く顰めてナツの顔を覗き込んでくる。
「ひょっとして……あいつの親が何か言ってきたのか?」
「いや、そう言う訳じゃないけど」
「だよな。んな訳ないよな」
その答えに今度はナツが顔を顰める。
「どう言う意味だ?」
「いやさ……あいつの親……ってか主に父親の方だけさ。ひょっと変わってるんだよ」
「変わってる?」
「お殿様……って言えば分かるか?」
分かるわけない。
ナツは、更に顔を顰める。
「あいつん家が名家だって話ししたの覚えてるか?」
「ああっ」
「元は俺らの地元周辺を支配してた豪族だったらしくてさ。その本家筋の長男らしい」
「だからお殿様?」
ナツの問いに三春は頷く。
安直な……とナツは呆れる。
「実際、それだけの権力があるらしいぜ。あいつの家を中心に街の半分が所有の土地らしいし、タワマンも幾つも持ってるって」
だから、タワマンに住んでるなんて噂が流れたなのかとナツは納得する。
「会社も幾つも経営していてローカルだけどCMも流れてる。お前も見たことあると思うぞ」
そう言って三春が口にした企業名とCMは確かにナツでも聞いたことのあるものだった。
「色んな所に出資もしてるみたいで街全体があの家には逆らえないって雰囲気があってさ。子供の頃、親と街に買い物に出かけた時にベンツから降りてきたあいつの父親に大人が何人も駆け寄ってペコペコ頭下げてるのを見た。そん時のあいつの父親の顔……腹たったわぁ」
三春は、表情を引き攣らせ、こめかみをピクピクさせる。恐らく子どもの時もそんな感じで怒ったんだったんだろう。
「幸いうちの親はあいつん家とは関わらない会社で働いてたし、地元の人間でもなかったから影響は受けなかったけど他の友達の親はモロ被りでさ。真冬のご機嫌取りばっかしてた」
「喜ばなかったろ?」
ナツのぼそっと発した言葉に三春は驚く。
「なんで分かった?」
「いや……なんとなく……」
誤魔化すようにナツは雪色の頭を掻く。
別に根拠あって言った訳ではない。
ただ、ここ数日の".聖女様"ではない真冬を見ての素直な感想だった。
それに……。
「お前が仲良くしてたってことはそう言うことだろう?」
「どういう意味だ?」
「お前が権力やカーストで人を選ぶはずないからな。良くも悪くも自分の目で見て、肌で感じて決めるはずだ。まあ、肌には触れさせないけど」
だから、こいつは俺とも友達をしている。周りから何を言われようと一緒にいてくれる。
三春の目が大きく見開く。
「お前って……俺のこと大好きだな」
「うっせ」
ナツは、そっぽ向く。
「まあ、そうだな。前も言ったけど昔のあいつはあんなお高く止まった聖女様じゃなかった。よく笑う明るい女の子だったんだ。だから特別扱いさせるのを凄い嫌がって、気がついたらいつも俺の側にばかりいた」
ナツの脳裏に仲良く遊ぶ二人の姿が浮かぶ。
聖女様の真冬しか知らなかったら想像しようとも思わなかったろう。
「あいつの親は何も言わなかったのか?その……お前と一緒に遊んでること?」
そんな親なら自分の娘が一般人、しかも自分のことをいに返しもしない輩の子ども、しかも男の子と一緒にいることを良く思わないのではないか?
「いや、なんも」
三春は、あっさり答える。
「あいつの親、何も言わないんだ。真冬が夕暮れまで遊ぼうと、公園で遊んで服を破いて怪我しようと何も言わない。しかも授業参観とかにも顔を出さないんだ」
「ネグレクト?」
ナツは、小声で呟く。
「眠りたくて?寝不足か。今ならちょっと寝れんじゃね?」
「違う。ネグレクト……育児放棄のことだ」
こめかみを抑えながら言う。
「あーっなるほど。博識だなぁ」
感心したように腕を組んで頷く。
「お前が道理を知らないだけだ」
「うーんってまあその通りなんだけど……」
三春は、左頬をポリポリ掻く。
「そう言うのもちょっと違うかな。経済的な苦労はしてなさそうだし、ご飯もちゃんと食べてるし、綺麗な服も着てるし……」
その定義で行くなら現在は完全な育児放棄だが昔は違ったと言うことになる。
「現在と変わらないと思うぞ」
「そうか……」
何も知らない三春の呑気な言葉にそれ以上言えなかった。
「そう言えば……母親は?」
父親の話しばかりで母親が出てきてない。
「知らない。見たことない」
ナツは、血色の瞳を萎める。
「ただ、弟が生まれて世話が大変とだけ聞いたかな?」
「弟?」
「ああっ小学校の卒業式の日だったかな?当然のようにあいつの親来てなくてさ。うちの両親が心配して声かけたんだ。そしたら言ったんだ。弟が生まれて大変だから来れないって……」
弟……。
ナツは、視線だけを真冬に向ける。
「そう言えば……」
三春も自然と真冬に目を向ける。
「あいつが変わったのも……その辺りだったかな?」




