聖女様の面接(1)
黒、白、三毛、キジトラ、サバトラの五匹はちゃぶ台の上に乗って目の前でカチンッコチンッに固まって正座する真冬を興味深げに見つめる。
緊張した真冬は、純朴な10の瞳に見つめられ、どう反応したら良いか分からず曖昧な笑みを浮かべる。
スタッフ達の向こうではバイト募集のポスターの人物に似た金髪ショートの美人……アキが胡座をかいてちゃぶ台に頬杖をついて書類……真冬が用意した履歴書をじいっと読んでいる。
真冬は、緊張といたたまれなさから顔を俯かせる。
そんな真冬をスタッフ達が丸い目でじいーっとじいーっと見る。
「緊張しすぎだ」
頭の上から声が聞こえる。
右腕に2つのトレイを乗っけたナツが血色の瞳を真冬に向ける。
「そんな肩肘張ってると言いたいこと言えねえぞ」
ナツは、ゆっくりと畳に膝を突く。
スタッフ達の視線が一斉にナツに向く。
ナツは、五つのドライフードを持った皿をトレイごと爪でギザギザになった畳の上に置く。
スタッフ達は、目を輝かせて一斉にちゃぶ台から飛び降りて皿に駆け寄り、カッカッカっと食べ始める。
その様子を真冬はじぃっと、どこか羨ましそうな目で見てるとコトッと何かを置く音がした。
盛り上がった白い泡に猫の目と模様が描かれたラテが置かれていた。
バイト募集のポスターに描かれていたあのラテだ。
真冬は、目を丸くしてナツを見る。
「美味しそうって言ってろ?」
そう言ってアキの前にもカップを置く。
そっちはラテではなく緑茶のようだ。
アキは、ナツに視線を向けず「んっ」とだけ答えて頬杖を解して流れるようにカップを取ってお茶を飲む。
綺麗な顔に白いお髭が付いたが気にもせずにもう一口飲み、履歴書を読み耽る。
「冷める前に飲め。それとも……俺が淹れたのは嫌か?」
「そんなことは……!」
真冬は、慌てて首を横に振り、ラテを見る。
「いただきます」
そっとカップを両手で持って猫を避けるように啜る。
その瞬間、眉が盛大に顰める。
「苦かったか?」
「少し……」
「砂糖いるか?」
「でも、そしたら猫ちゃんが崩れちゃいます……」
真冬は、ラテの海に揺れる3Dの猫を悲しげに見る。
ナツは、小さく口元を緩めて真冬の前にスティックシュガーと木のマドラーを置く。
「猫とラテの隙間にそっと砂糖を落としてマドラーで混ぜろ。そうすりゃ猫を崩さず甘く出来る」
ナツのアドバイスに従ってシュガースティックの封を開いてそおっと猫とラテの海の間に砂糖を流し込み、木のマドラーでゆっくりゆっくり掻き回し、そっとカップに口をつける。
「どうだ?」
「甘い……です」
真冬は、嬉しそうに微笑む。
学校でもマンションで会った時にも見たことない屈託のない笑顔。
その笑顔はお世辞でもなんでもなく可愛らしく、ナツは血色の瞳を大きく見開いた。
「甘いのなんて……久しぶりに飲みました」
真冬は、宝物を抱えるようにカップを持って猫を崩さないようにラテを啜る。
「……そうか」
甘いものを飲むのが久しぶり。
その言葉に違和感を感じながらもナツは小さく答えるだけだった。
「ナツと同じ高校なのよね?」
唐突にアキが喋り出したので真冬は驚く。
「は……はいっ」
真冬は、慌てて頷く。
「小、中は公立。ここから随分離れてるけど地元?」
「はいっ。高校入学を機に離れました」
「ふうんっそれでナツと同じマンションの隣の部屋……と」
アーモンド型の目がじっと真冬を捉える。
静かな、そして痛い眼圧に糖分で緩んでいた頭が張り詰める。
「でも実家から通えない距離じゃないわよね?どうして……」
「ですから……高校入学を機に……」
「ここを選んだ理由は?」
アーモンド型の目をギュッと萎める。
「彼の描いたポスターの原画を見て……」
アキの目がナツに向く。
険悪な光が瞳に宿ったのを見てナツも思わず姿勢を正す。
「私に見せる前に見せたの?」
「だ……第三者的に見てもらえたらと思って……」
「情報漏洩」
「んな大袈裟な」
「私の顔が知らない人に晒されたのよ。立派な情報漏洩よ」
だったら外貼るなよ〜OKするなよ〜バイト募集するなよぉと思ったが迫力に圧され声が出ない。
アキの目が再び真冬に向く。
真冬は、ビクッと背筋を振るわす。
「貴方……猫好きじゃないでしょ?」
アキのピシャっと叩くような言葉に真冬は大きな目を震わせる。
アキは、ご飯を食べ終わって各々の満足ポーズを取ってる五匹に目を向ける。
「あの子達が興味津々に貴方を見てたのにまったく関心を示さなかった」
「そ……それは緊張してたからで」
「ここで本気で働きたい子はどんだけ緊張してもあの子達が出てくれば途端に笑顔になるの。なんでか分かる?」
「え……とぉ……」
「猫は正義だからよ」
アキは、割り箸を割るようにきっぱりと答える。
真冬は、呆気に取られてポカンっと口を開く。
ナツは、「ごめん」と小さく呟いて頭を抱える。
「正直に言いなさい。貴方本当に猫派?」
「えっ……と……」
真冬は、苦しそうに顔を歪める。
「犬派……です」
罪を認めるように呟く。
「認めたわね」
アキは、フッとニヒルに笑う。
真冬は、ガクッと崩れ落ちる。
なに?この三文芝居?
ナツとスタッフ達はジト目で二人のやりとりを見る。
「それでは厳選な書類選考の結果、この度はご期待に沿えることが出来なくなりました。貴方の今後のご活躍を心よりお祈り申し上げ……」
「店長!」
アキがお祈りメールそのままの原文を口にして止めを刺そうするのをナツが固い声で止める。
「悪ふざけはそこまでにして下さい」
「別にふざけてないわよ」
そう言ってプイッと違う方向を見る。
あまりの子どもっぽい仕草にナツは小さく嘆息して真冬を見る。
「悪いな。いつもはもっと大人な素敵女子なんだけど俺とスタッフが絡むとポンコツになるんだ」
「ポン……コツ?」
真冬は、意味が分からず呆然と呟く。
「それよりもお前……」
ナツは、くいっと顔を寄せる。
真冬の頬が小さく赤くなる。
「マジでなんでここで働きたいんだ?」
「なんでって……」
真冬は、モコモコと頬を動かして口籠る。
「お前なら駅近くのカフェだろうが小中相手の家庭教師だろうが何だったらコンビニだって働けるだろ?なんでこんな所で……」
こんな所で……と言う言葉にアキが反応するが無視する。
「それは……ここなら知ってる人来ないだろうし……」
「まあ……俺が働いてるし学校からも駅からも離れてるしな」
それで毎日たくさんの客が訪れるのだからアキの経営手腕と猫好きの狂い方には舌を巻く。
「そう言う意味じゃなくて……それと……ここ……時給がいいから」
「時給?」
「はいっ……もうお金が無くて……」
「はあっ!?」
ナツは、思わず声を上げる。
「来月のお家賃払えなかったら出ていかないといけなく……」
「おいっ本当にちょっとま……」
その時。
ギュルルルルルルルルルッ。
盛大な虫の声が店内に響き渡る。
猫達が目を丸くして一斉に振り返り、アキは顔を上げ、ナツは血色の瞳を剥く。
真冬は、ぺたんこのお腹を押さえて蹲る。
その顔は羞恥で真っ赤に燃えている。
アキは、アーモンド型の目をきゅっと細めて真冬を見る。
「貴方……」
アキは、すうっと立ち上がって真冬を見下ろす。
「ちょっと来なさい」
アキは、冷たく言い放つ。
真冬は、羞恥に染まった顔でアキを見上げた。




