↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
28/49

これはどこにでもある姉弟の話し(2)

 その後、見知らぬ男女が自分の親だと教えられたアキは自分が"見知らぬ氷結病患者(コキュートス)の暴走"で氷漬けにされたところを救助され、1ヶ月近く昏睡状態に陥ったと聞かされた。

 その間に皮膚移植をし、損傷した内臓の手術を行なったという。

 身体中が包帯やら点滴に繋がれているのはそれが理由かと納得するが肝心のなんで"見知らぬ氷結病患者(コキュートス)"が自分を氷漬けにしたのかが分からなかった。

 しかし、両親に聞いてもそれは自分たちにも分からないと言葉を濁された。

 あと、もう一つ分からないことがあった。

 時間を追うに連れて両親と名乗った男女が自分の両親なんだと言う事を記憶ではなく感覚で理解することが出来た。

 そしてその感覚がアキにこう告げる。

 足りない、と。

 父と母だけでは足りない。

 何か大切なものが欠けている。そんな気がしてならなかった。


「でも……思い出せなかった」

 アーモンド型の目が小さく潤む。

「何よりも大切なナツを……私は思い出せなかった」


 それから3ヶ月後、医師より許可をもらって条件付きでアキは退院した。

 両親は喜んだ。

 アキも嬉しかった。

 でも、やはり心は何かが足りないと訴えていた。

 家には戻らなかった。

 退院の前の日、父親が突然家族全員で海外に引っ越すと告げた。

 なんでもずっと希望を出していた海外への転属希望が通ったのだそうだ。しかも都合良くアキの通っていた高校の姉妹校への転校手続きまで済んでいた。

 おかしい、と思った。

 記憶を無くした娘がいるのに土地勘もなく、言葉も違う海外への引越しなんて決めるものだろうか?


 新しい環境でやり直しましょう。

 きっとお前も気にいるはずだ。嫌な事なんて思い出さず再出発しよう。


 両親は、嬉しそうな笑みを浮かべてアキを説得する。


 やり直す?

 嫌なこと?

 再出発?


 何をやり直して何が嫌で何を再出発すると言うのか?

 疑問は深まる。

 しかし、答えは出ず、両親の決定に逆らうことも出来ずアキは退院と同時に海外に飛び立った。

 何か大切な物をどこかに置き忘れてきてしまったような喪失感を感じながら。


 海外での生活は充実したものだった。

 元々、高校では英文学を堪能し、将来的な事を考えてTOEICを受けていた。何より記憶を失っても英語は覚えていたので直ぐに溶け込むことが出来た。事故のせいで髪の毛が金色に変化したこともプラスの要因して働いたようで更に親しみを持ってくれたよう。

 洋食が食べれないので食事には苦労したが今は日本の調味料が手に入りやすくなってるので現地の材料を工夫しながら自分で料理アプリを参考に作っていくうちに友人に振舞えるまでになった。

 身体に残った痕を隠す為に運動は出来ず、恋人も作れなかったが充実した毎日を送った。

 どちらかと言うと両親の方が苦労し、生活や言葉の壁を愚痴っていた。

 これで良く海外に転勤なんてしたな、とは思ったが日々の生活の中でそんな事はどうでも良くなり、いつの間にか忘れてきてしまったことも忘れてしまっていた。


「私は忘れた。忘れたことすら忘れて新たな生活を楽しんだ。楽しんで……しまったの……世界の裏側で……1番大切なものが泣いているなんて気づきもしないで……」

 アキは、自分を痛めつけるように音を立てて奥歯を噛み締め、爪が食い込むほどに自分の手を手で握りしめた。

 真冬は何も言うことも動くことも出来ず、アキが言葉を発するのを待った。

「……それから私は高校を卒業し、大学に進学した。そして……思い出したの。ナツのことを」


 姉妹校でも十分な学力を発揮したアキは国立大学の経営学部に進学した。本当は医学部に入りたかったのだが何故かそっち(医療)方面の知識が頭に入らなかった。

 経営や経済に関する理論は一度で理解出来るのに医学的知識は何度聞いても覚えられなかった。

 これは単純に才能の問題だなとアキは早々に見切りをつけ、大学で養った知識を使って学生の間に起業し、記憶を無くしても変わらない愛情と自分たちの生活を犠牲にしてアキに持てる力を注いでくれた両親に恩返しをしようと思った。

 そして同じように起業を考えている友人達とアイデアを練っているとふと友人の1人がこんな事を言った。


氷結病患者(コキュートス)の支援をしないか、と。


 その言葉に誰もが誰もが首を傾げた。

 アキに関しては露骨に顔を顰めた。

 何故、起業の話しをしてるのに氷結病患者(コキュートス)の支援の話になるのかと誰かが疑問をぶつけた。

 友人は、少し言いずらそうに口を開いた。

 親戚に氷結病患者(コキュートス)の女の子がいる。

 生まれた時から氷結病が発症し、隔離されて生きてきた。頭も良く、容姿も整っていて病気さえなければ充実した人生を送れた。人権こそ守られ、通信で学校に通えるがこのままでは就職もままならず、国から与えられる微々たる補助金と支援だけで人生を終えてしまう。

 だったら彼女達が働ける会社を作らないかと考え、経営学部に進学し、今、仲間に話しを持ちかけたのだ。

 その結果、全員が反対した。

 氷結病患者(コキュートス)は世界の忌みであり恐怖と侮蔑の対象。彼らを雇用する会社なんて成功どころかバッシングの対象にしかならない。

 そしてそれは裏を返せば仲間(彼ら)自身も氷結病患者(コキュートス)に強い忌避感を感じていることに他ならなかった。

 仲間達の反応に友人は酷いショックを受けていた。

 アキは、友人を憐れと感じたが同情は出来なかった。

 アキ自身が氷結病患者(コキュートス)に酷い嫌悪感を感じていたから。

 彼女達(氷結病患者)が悪い訳でないことは分かってる。病気になったのだって不幸に不幸が重なっただけだ。

 罪なんて欠片もない。

 それでも……彼女達(氷結病患者)の誰かが自分を氷漬けにしたことには変わりない。

 髪の色が変わった。

 内臓が弱くなった。

 人に見せれない身体になることもなかった。

 そして……記憶を失うこともなかった。

 別に現在(いま)が不幸な訳ではない。

 それでも翻弄された事実に変わりない。


 私は……彼女達(氷結病患者)を許す事は出来ない。


 友人は、アキ達の反応に強い失望を感じながらも諦めなかった。

 今日のプレゼンテーションの為に用意してきたのだろう氷結病の資料と氷結病患者(コキュートス)に対する風評被害、彼らが関わる事で起きたとされる事件が掲載された各国の新聞記事やネットニュースのコピー、更にはパワーポイント資料まで作ってパソコンに流し始めた。

 しかし、それを見ても仲間達の誰も心を動かさなかった。

 むしろ悪足掻き、独り善がり、やりたいなら1人で勝手にやれ、俺達を巻き込むなと言う気配(オーラ)がだだ漏れだった。

 アキも同感だった。

 やりたいなら1人でやって。

 これ以上、私を巻き込まないで、氷結病患者(コキュートス)と関わらせないで……と少し前までは好感をいだいていた友人に嫌悪を通り越して憎悪すら湧き上がりかけた。

 しかし、その考えと感情が一変する。

 友人が流したパワーポイントの一場面。

 氷結病患者(コキュートス)が関わったとさせる事件記事が目に止まる。

 その記事は一瞬で直ぐに別の記事に変わったがアキの目には深く焼きついた。

「まって!」

 アキは、声を荒げて友人に寄るとさっきの場面を見せてとお願いした。

 友人は、戸惑いながらも場面を戻す。

 それは日本語で書かれたネットニュースの記事。


"氷結病患者(コキュートス)の少年(5)が実の姉を池に沈めて凍らせて殺害!"


 大きく書かれた見出しと共に事件の内容と信憑性の無い推理予測が書かれている。

 しかし、アキが目に止めたの記事ではなく記事の最後に貼られた画像。

 凍りついた大きな池に彫像のように白く凍った女性と思われる手。そしてそれに縋り付いて泣く雪色の髪の男の子……。

 男の子の顔を見た瞬間、頭の中が掻き混ぜられる。

 脳の奥の壁に張り付いて取り出すことの出来なかった記憶が一気に剥がれて濁流のように流れ込んでくる。

 アキは、スカッシュのように脳の中で飛び交い、シェイクする記憶に耐えられず、膝を突き、余りの痛みと気持ち悪さに吐いてしまう。

 友人と仲間達が慌ててアキに駆け寄り、声をかけ、背中を摩り、救急車の手配を始める。

 しかし、アキの耳には友人も仲間の声も届かない。

 視界にも入らない。

 触れられても気づかない。

 ただ頭の中に浮かんだ1人の男の子の姿に涙する。

「ナ……ツ……?」

 それは3年ぶりに口にした最愛の弟の名前だった。

「ナツ……ナツ……ナツ……ナツ……!」

 アキは、泣き叫んだ。

 胸を押さえ、身体を丸め、頭を床に押し付け、ナツを思い出した喜びと忘れていた罪悪感と後悔。そして絶望に打ちひしがれた。


 なんで!なんで!なんで!


 何でナツを忘れてたの!?

 なんでナツはここにいないの!?

 なんでナツは泣いてるの!?

 なんでナツが……氷結病患者(コキュートス)になってるの!?


「アキ……」

 友人が取り乱すアキに戸惑いながらも声をかけるとアキは涙に濡れたアーモンド型の目で友人を睨み、彼の足を掴む。

「お願い……」

 アキは、友人の足に縋り付き、救いを求めるように涙に濡れた顔を上げる。

「この子のこと……教えて」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。