第7話 魔術学院入学式
華やかな彫刻のある門を潜れば見渡す限り同じ服を着た人の群れ。
新入生は一か所に集められ誘導されてから大きなホールへと通された。
なんだか、とても異様な光景だ。
みんな同じような恰好をしている。
右胸に刺繍されてるだろう、この学院の象徴たるシンボルが刻まれたクリーム色のワイシャツを着る。
加えて、そのシンボルが背にも描かれた深い紺色のフード付きのローブを皆一様に着用。
男はネクタイ。
対して女はリボンかネクタイ。
性差で、こういう選択肢もあるのかと驚くが……
みんな同じような恰好をしているせいか普段感じることの無い違和感に何故か目を止めてしまった。
それに男は長ズボンで統一されているのに対し女のスカートの長さといったら……人によりけりと言うのもよくわからない。
短い者と長い者、中間くらいの者と様々。
ああ、なんか疲れた。
制服って統一感を出すためのものではないのだろうか?
まあ、そんな事はどうでもいいんだけど。
それよりもだ……
皆が定位置へと誘導され入学式も始まった。
そして、いろんな人が壇上に上がっては挨拶しなんと御高説を述べられる。
独り言も嵩むというものだ。
それに締めは……
「えー、これからの学院の方針として、この大魔導時代における周辺諸国との魔導競争を勝ち抜く人材を、えー」
時折『えー』を挟む学院長の御高説がとても眠い。
「あぁ……早く終わんねえかなぁ」
ついボソッと言ってしまった。
まあでもありがたいと言えばありがたい話なんだろう。
要約したら『魔術を習う者は心が大事! みんなで競い合う時代だからこそ我が学院、延いてはお国のために誰かがんばれ! 活躍するのは君かもしれない!!』って内容だ。
頭の中を一方通行で抜けていく学院長のお話から目線を外す。
こんな御高説はじいちゃんの説教だけで十分だ。
制服の差異について思う所があったけど……
周囲をチラッと見る。
特待生と一般の学生で、どこか区分けされているのだから目立ってしょうがない。
それも特待生はどうやら文字通り特別待遇なようで専用の椅子が設けられ一般の学生が立っているのに対して俺達は座ったままという優遇っぷりだ。
回りは、なんだか皆育ちのよさそうな外見をしているしなんだか気位が高そう。
姿勢を正して皆一様に前を向いて目を輝かせているように見えるのだから、なんだか気持ち悪い。
それと、驚いたことに……ネィルがいることに驚いた。
なぜ今の今まで気づかなかったのだろう……
わかりやすいことにネィルは一番前の席に座っていたからなおのことだ。
俺……気を抜いているのかな。
その横にはアリスまでもいるし……
まさか同じ学院生になるだなんて思いもよらなかった。
『また会おうな』なんて言っておいて、それっきりだろうと高をくくっていたのにとんだ見当違いだ。
学院内ではあまり関わり合いにはなりたくないな。
それに最前列の席に座っているのだから結構な、お嬢様なのだろう。
まあ、俺は極光の魔術師のおまけみたいな弟子だから特待生になってるってだけで片田舎の平民である俺にはそもそもお近づきには慣れないだろうからひとまず安心といえば安心か……
けど……不思議だ。
二人は特待生で、この学院に入学できるほどには魔法を修めているはずだ。
なら、あれくらいのごろつきなんてどうということもなかっただろうに……
まあ、いっか。
そんな過ぎたこと正直どうでもいい。
早く飯食いたい。
昨日は、いろいろと思いつくことが多かったから、それを逐一書き溜めてたせいで寝不足だ。
んー……一度、寝てから飯を食うのもいいな。
寝不足は食欲と味覚をおかしくさせる。
でもなぁ……午後は《《あれ》》をやりたいよなぁ。
迷う……
それから学院長のお話も終わると魔術の刻印が施された拡声器によるアナウンスが響いた。
「エヴァン学院長、ありがとうございました。続きまして、これからの予定について一年学生総轄責任者のジャック先生よりお話があります。それではジャック先生お願いします」
すると一人の気だるげな眼をした教師が壇上へと向かうのだった。
今にも眠りそうな目をこすり壇上の拡声器に手をかけると「あー」と拡声されてない声が小さく響いた。
「んんん?」
何度か拡声器をぽんぽんぽんっと軽くたたいたり触ったりしてようやく、ボンボンボンっとうるさく叩く音が拡声された。
「あー、あー、よし。新入生の諸君、入学おめでとう。私はジャック・アンガス・アルトレアだ。水魔術専門と建築部門にて教鞭をとっている。君達の新入生の総轄責任者となった。よろしく」
水魔術専門と建築部門かぁ。
一応パンフレットにある学院の概要を見ると学生はそれぞれが各々に合った講義を選択で選ぶ選考科目。
魔術に関する基礎知識を学べる基礎科目の二種に大別された科目で魔術に関する学びを得る。
建築部門と言うのは午後に選択で選べる選考科目だ。
この学院の一年次のカリキュラムは午前は基礎知識、午後は選考科目で専門性を学ぶと言った具合になっている。
そして、ここが重要らしい。
前期と後期にある魔術師試験だ。
試験は五級から一級まで分かれていて年に二回の試験のチャンスがあるのだそうで……
「であるからして……魔術をいかに修めたかを表す五級から一級までの魔術師試験は特別だ。気が付けば横にいるやつが一級魔術師になっているなんてことも起きるだろう……」
一級魔術師ねぇ……
学院自体は3年で基礎魔術を修めることができるって言ってたし。
きっと3年だけいて俺はじいちゃんのところに帰るだろうなぁ。
関係ないだろう。
「では、話は以上だ。これより新入生諸君にはクラス毎に別れてもらい親睦を深めてもらう」
『なに?!』
つい壇上の先生を二度見してしまった。
あれ、こんな予定だったっけ……
「では君たちの学び舎に向かってもらうとしよう……はい! これで私からの話は終わりです。お疲れさまでした。がんばってね」
そんなやる気のない言葉を残してジャック先生は疲れ切った姿を隠すことなく壇上を降りるのだった。
それから俺達は係の人の誘導に従ってそれぞれの教室に割り振られていくのだった。
何故か足音が反響しない長い廊下。
まるで聖堂なのではないかと思わせる石材建築の支柱を一本一本横目に見送りながら歩いていく。
教会なんかは反響する様に作られてるけど真反対のつくりでびっくりさせられる。
無駄に美しい彫刻の前を通り過ぎて反響はせずともがやがやとした話し声は聞こえた。
そして陽光も差し込まない重厚感のある廊下を抜け教室へとたどり着く。
ここが基礎魔術を履修する場所となるのだそうで……
両扉を開けると教室の中は太陽の光が優しく差し込むとても心地の良い雰囲気のある大きな部屋だった。
風に揺れるカーテン。
座りやすそうな椅子に程よい高さと広さのある机。
教壇も見えやすく板書される板もとても大きい。
それから教室の後方へと行く度に段々と階段状に設計されているから板書を見やすくする配慮も見てとれる。
そこで俺達は定位置とされる場所に着席させられ担当の教師が来るまで待つのだった。
そこに集まるのは一般生徒10人……そして、俺を入れて特待生が6人……か。
つい溜息をもらしてしまった。
残念なことに俺を含めた特待生6人の内2人はネィルとアリスがいる。
そんな俺の心境とは裏腹にネィルと目が合った瞬間、小さく手を振ってくれた。
俺も片手を小さくあげて挨拶を返す。
いるのはちゃんとばれてるようだ。
前日に会ったと言うだけでもびっくりなのに今日こうして同じ学院で同じ学生で同じ部屋に割り振られるってのはなぁ。
面倒ごとが舞い込んでこなきゃいいけれど……
教室の中は、さほど静かではなく初対面なのか、そうでないのかはわからないがそこそこ話し声が聞こえてくる。
知った仲だったりするのかな?
そんな和気あいあいとした中で教室の前の扉がバン!!っといきなり大きく音をたてて開くのだった。
「やあ!! みんな!! おはよう!!!」
もう、こんにちはだよ。
一瞬で沈黙する教室内をおきざりに威風堂々たる面持ちで入る男が一人あらわれるのだった。




