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悪食の魔術師は美食を求める『毒は意外と美味しい。え? 魔術で治るから食べ放題です』  作者: 地雷源のチワワ


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第6話 屋台巡り

 俺が食欲を満たす算段を立てた時に後ろで騎士風の女。


「ネリ……ネィル様! それは」


 その言葉を片手で制するネィル様……


 さっきまで呼ばれていたネリエル様はどうやら禁句みたいだ。


 うかつにも程があるだろに。


「アリス。彼は身を挺して私達を助けて下さったのです。お礼をしないのは大変失礼にあたります」


 そんなお嬢様の言葉にぐっと何かをこらえるようにアリスはかしこまる。


「……ネィル様の仰せのままに」


 何この二人の関係……


 それよりもこの人に飯をごちそうになるってだけでそんなにダメなことなんだろうか。


 まあどうでもいいけどね。


 さっきの串焼きが食べられると思えば二人を助けるという面倒くさくなるような行動にも意味があったのだろう。


「なんかいろいろありそうだけどありがとう。ちょうど財布を忘れちゃって困ってた所だったんだよ」


「あら、お財布を忘れていらしたのですね?」


「我ながら間抜けな話だよなぁ……お礼がしたいって言うのなら! お言葉に甘えさせてもらうね。さて……何を食べようか」


 するとお嬢様は胸を張って。


「はい! 遠慮なくおっしゃってください! なんでもごちそういたしますよ?」


 さぁ、なんでもとおっしゃいました。


「ふっふっふ……言ったね?」


「え? ああ! えっと、その……あの、さすがになんでもは言い過ぎたかもしれません……その、すみませんが私にできる範囲でですよ?」


 お腹が減ってるせいで溢れるよだれを必死に飲み込む。


「貴様、ネィル様に変なことを要求したらただでは────」


「アリス!」


「屋台の串焼きが食べたい!!」


 女騎士の話をお嬢様と俺で遮り、よだれがこぼれそうになるのを我慢しながら申し出る。


 するとびっくりしたような表情のまま固まるお嬢様。


 再び沈黙。


 そして、お嬢様は耐えられなくなったのか……


「……っぷふ」と、またも笑い出すのだった。


 なぜ笑うのか理解できずにいると、そのままお嬢様は続ける。


「すみません。もっと……違う答えが返ってくるのかな? なんて思ってました」


「違う答え?」


「はい」


「それって?」


「内緒です」


「なぜ内緒……?」


「いいんです! はい! では行きましょ? 屋台の串焼きが食べたいのですよね? 私も食べてみたかったんです!!」


「え、そうなの? それなら話がはやいな! あれすっごく美味そうなんだ!」


「そうですよね?! 匂いが香ばしくってとても美味しそうなんですよね?」


「あんたわかるやつだな?」


 ギロリと女騎士の光る眼光に気を付けながら路地裏を出て屋台のある通りへと出る。


 そこでお嬢様。


「そうでした。申し遅れてすみません。私はネリ……いえネィル……ネィル・アムリットと申します。あなたは?」


「ああ、俺はノエルだ。ノエル・グラトリス。適当にノエルで呼んでいいよ」


「はい! ノエル! 私の事も……ネィルとお呼びください!」


「ああ、よろしくなネィル」


「はい! よろしくお願いします!! そして、こちらが私の友達、アリス・ガーディエットです」


 なぜか、まだ飯も食べてないのに笑顔で上機嫌になったネィル。


 そんなネィルとは対照的に緊張感のある顔つきのアリスは続けた。


「アリスと申します。以後お見知りおきを」


 そんなアリスを一瞥して俺はいらないことを口走ってしまった。


「お友達……ねぇ?」


「そこに何か?」


 アリスよりキリっと冷ややかに返される。


「他人の事情に詮索はしないけどさ」


「詮索……?」


「いやね。お友達というには雰囲気がさ? さっきのゴロツキ達もなんかおかしかったし」


 するとネィルは「そ、それは……」と言い、そのまま俯いてしまった。


 これはいよいよ何かありそうだと思ったところで、それをフォローするようにアリス。


「あの輩達はきっと、我々がお金を持っていると思ったのでしょう」


「お金……か。確かにネィルは綺麗だし、どこかのお嬢様って感じがするもんな。そりゃ災難だったね?」


「ああいう輩は珍しくありません。迂闊だった……ネィル様を危険にさらしてしまうなど……」


「ふーん。ま、どうでもいいんだけどさ」


 それから俺達は、よりどりみどりに立ち並ぶ屋台と人混みの中を通り抜けて目的の匂いのするところへとまっすぐに歩きたどり着いた。


 食べるならここだと決めた屋台。


「あったあった!」


「ここ……ですか?」


「うん! 通りかかった時にめちゃくちゃうまそうな屋台を見つけてさ。忘れられなかったんだよ」


「そうなのですね……?」


「普通の屋台のように見えるのだが……」


 炭火がチカチカと焚かれ甘辛い風味を連想させるタレがしたたり落ち蒸発する。


 もう匂いだけで俺の食欲を掻き立てるのに十分強力な物となっていた。


 そして、いくつか種類のあるお肉の中でひときわ異彩を放つものがあるのが一目でわかった。


「あれ!! あれにしよう?!」


 するとネィルは何故かまた上品に笑う。


「ふふ、ノエルってなんだか子供みたいです」


「子供?」


「はい。とてもはしゃいでて、さっきまでの真剣な顔つきがまるで嘘のようですよ?」


「あったりまえだろ? こんなうまそうなものを前にして平然としている方がおかしい」


 するとまた笑ってネィル。


「本当に……そうですね」


「あ、ということでおっちゃん串焼き三つ!」


「はいよ! 兄ちゃん。今の聞いてたぜ?」


「聞いてたって何を?」


「こんなうまそうなものを前にして平然としている方がおかしいってさ! くぅ、嬉しいね?!」


「いや、あたりまえだろ? 炭もそうだが扱う肉……家畜じゃなくて魔物のポークスを使ってるよな?」


「お?! これだけでわかるのかい?」


「まあな。ポークスの甘みと旨味のある肉質……草食でいてなおかつ果実を好んで食べる個体のおいしさは異常だからなぁ」


 ポークスは平原に集団で生息していることの多い寸胴体型の魔物だ。


 皮下脂肪が熱く鎧のように熱い毛皮で獰猛な他の魔物をも寄せ付けない。


 加えて大きな潰れた鼻の両側から伸びる鋭利な角が厄介でとてつもない突進は死人が出るほど。


「へぇ、兄ちゃん詳しいな?」


「たぶんだけど、その育ちのポークスが一番美味いよな」


「そう! そうなんだよ! だから仕入れにも苦労してな? 冒険者に頼んでこうやってようやく店を出せてるってもんだ!」


「それにだ。この匂い……タレも大分試行錯誤を繰り返したと見た。肉の質だけならとても美味いだけで終わる所、それで終わらせるつもりがないって心意気が本当に職人なんだな? って伝わるよ。来てよかった」


「ぉおぉおぉお?! なんか……なんかよ。ここまで褒めてもらえるなんて思ってなかったぜ。今日は気分がいい!! さあ持ってきな!」


「え、いいのか?!」


「お代はいただくけどな? 一本おまけだ!」


「よっし!」


 受け取った串焼きをネィルとアリスにも渡すと二人は俺の顔をじっと見て唖然としていた。


「どうした? まさか! お金ないって言うのはなしだよ?!」


「い、いえ……そうではないのですが、ノエルって食べ物……いえ美味しい物? に目がないのですね?」


 俺がそう聞かれてる間にアリスが店主へと硬貨を渡す。


 すると周囲にいた人々が次々と俺達が買った串焼きを頼んでいくのを横目に屋台から少し離れる。


「美味しいものに目がない?」


「はい。そのポークスの事といい、かなり知識が深く見えましたので」


「美味しいものに目がないってさ。皆、共通の欲求なんじゃないのか?」


「そうではありますけど……あなた程、執着している人は見たことがありませんよ?」


「ふーん。そうか」


「ふーんって」


「まあ、それよりさ。ほら! 焼きたてが一番美味いから食べてみて!」


「わ、わかりました」


 そして。


 ごくりと喉をならし、いかにもお嬢様と言わんばかりの小さなお口で、お肉を噛み一生懸命に引っ張った後に口の中へと頬張った途端。


「ん?! んぅぅ!!」


 とても幸せそうな顔をしていた。


「すごい……さっきノエルが言っていた内容だけでも十分美味しそうに聞こえてたのですが……確かに店主さんの努力の結晶が見えるような美味しさですね?!」


「だろ?!」


 俺も一口頬張る。


 やっぱりだ。


 噛んだ瞬間に飛び出す肉汁はまるで脂ののった果実。


 加えてタレの酸味と旨味が肉を極上な物へとコーティングしてくれている。


 それのこの果実味のある甘みが余韻をより引き立たせてるんだ……


 これは俺でもすぐにマネできないな……


「ほらほら! アリスも早く食べてみて?!」


「ネィル様、そう急がずとも……屋台の串焼きでしょう?」


 どこかそれを小ばかにしたような言いぐさのアリス。


 しかし、一口頬張った瞬間、それは全て間違いだと言わんばかりに頬が緩んでいくのが分かった。


「ね?」


「本当……ですね? すっごい美味しい……」


「美味しいよね?!」


 ふと……そんな二人の喜ぶ顔を見て和んだ。


 これが人とのつながりというものなのかと。


 じいちゃんが言っていたように、これは外へ出なきゃわからない体験だ。


 なるほどな……


 こういう顔がみれるから人との繋がりは面白いんだろうか。


 それから俺達は屋台巡りをしていろんなものを食べて回った。


 いまいちの物もあれば、ポークスの串焼きみたいに磨きのかかった宝石のような食べ物まである。


 粒野菜の丸焼き。


 穀類の蒸し焼き。


 食べていて飽きがこない。


 ただここで一つ釘をさしたことがあった。


 海鮮系については後の楽しみにとっておくため今は食べないでおくことにした。


 それから一通り歩きつくして、そろそろ寮へと戻ろうかとネィル達に別れを告げる。


「今日はありがとう。御馳走になったよ」


「いえいえ、こちらこそ助けていただいた上に、とても楽しい時間を過ごさせていただきました。本当にありがとうございます」


「また会えるといいな?」


「本当に……そうですね!」


「じゃあな」


「はい!! それではお元気で!」


 これがリトアリス王国、王都アルセリアスにあるリトアリス王国魔術学院に着いた日の出来事。


 思いの外、自室に籠っていた時も楽しかったけれど……それ以上に味わえない体験をしたようで楽しかった。


 そして、入学式当日。


 リトアリス王国魔術学院の正装である魔術師の制服を着て校舎へと向かうのだった。

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