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悪食の魔術師は美食を求める『毒は意外と美味しい。え? 魔術で治るから食べ放題です』  作者: 地雷源のチワワ


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第4話 空腹に狂う

「おや、新入生ですか?」


 俺を見下ろす目線は、ただ淡々といつもの事であるようにそう言った。


「ああ……はい。そうですけど?」


 俺は恐る恐る事前に配られていた学生証を見せる。


「おお?! これはこれは……申し遅れて申し訳ございません。私は学寮長を務めさせていただいておりますナルスと申します」


「あ、どうも……ノエル・グラトリスです」


「以後、お見知りおきを」


「あ、はい」


「それでは!! 手短に寮についてご説明いたします。あなたが本日いらっしゃる事については我が学院長であるジエンから聞いております。さて我が学生寮は!!!」


 いきなり劇団口調になった。


 待ってよ。


 なんだかついていけない。


 都会の人ってこんな人ばっかりなのかな?


 そんな不安のおかげで淡々と話し続けるナルスの話した内容のほとんどをスルーしてしまったのだけれども……


「そして!! あちらが麗しの女生徒たちの寮になります!」


「女性……」


「はい……興味がおありで?」


「いや、まったく……」


「それは良かった!! 基本的に男性は立ち入り禁止となります。同じく女性もこちらは立ち入り禁止となりますので……入ろうなどとは思わないでくださいね?」


 わざわざ「そんなところに行くやつなんているのか?」と言いたいところだけれども……


 そんなこんなと長かった説明も終わり最後に「ノエルさんのような特待生は特別なお部屋を用意してございます」


 これは聞いてなかった。


 とても……いやすごい気になる。


 そのままナルスの言う通りに案内され、ついていくと寮の7階に通された。


 階段が億劫で面倒くさいとしか言えないけれども……


 「こちらが本日よりノエルさんがお使いいただくお部屋にございます」


 そう言われ扉をけてもらった時に見た光景の部屋は結構な広さだった。


 シャワー完備。


 お手洗い、そしてキッチンまである。


 これは素晴らしい。


 そして空の本棚や机と…… 


 想像していた宿屋の物よりすごい違いがあるから少し面をくらった。


 もっと雑魚寝でひどい居住スペースを提供されるのだと覚悟していたのでとても嬉しい。


 しかし窯焼だとか、焚火だとか、持ち帰った魔物の解体と研究とか、そういうことは出来なさそうなのが残念だ。


 これは……早急になんとかせねばなるまい。


 部屋の説明を一通りを終えて学寮長と別れ一人。


 静かな部屋。


 ふかふかそうなベッド。


 清潔で清潔な部屋。


 慣れるには時間がかかりそうだ。


 加えて学生服という衣服も用意されていてベッドに折りたたまれ用意されている。


 これを明日着て入学式に臨むのか……


 それからは荷物という荷物も持たずに来てしまったため俺は、この自由時間にどうしようかと思案していた。


 このベッドは大の字で寝れるくらいに広い。


 見慣れない天井。


 魔術で自動化された照明。


 この便利の裏側に燃鉱石がふんだんに使われてる証拠だ。


 少し前……といっても40年くらい前までは奴隷の魔力を吸い上げて貴族や王族がこういう暮らしをしていたというんだから残酷な話だ。


 まったく……人の歴史ってのは魅力的でいて嫌なものだよなぁ。


 そんな暇を持て余してしまったので俺はひとまず街中へと繰り出すことにした。


 丘の上にそびえたつ学院寮を離れてトボトボと徒歩で移動する。


 そして何が起こるでもなく街中へと到着した。


 気が付くと俺は圧倒されていた。


 見渡す限りの人人人人人。


 人と言う文字がひどく歪んで見える程に世界には人がいるのだと気づかされる。


 加えて別の人種もいた。


 エルフ……ドワーフ、獣人に鳥人種バーディアまで歩いている。


 エルフやドワーフはたまに見るし獣人はよく見るけどバーディアを見るとは思わなかった。


 目が回りそうだ。


 そんな情報過多の世界で俺は唯一、普遍的で本能に訴えかけるような情報をつかみ取った


 匂いだ。


 香ばしい匂いがしたのだ。


 甘く……


 そしてとろりとしたお肉の焼ける匂い。


 そのまま歩みを進めると一面屋台の海が広がっていた。


 海の幸、山の幸……果てはデザートまで。


 これら全てを覆すほどの匂いを俺に与えるとは……


「すまん……じいちゃん。軽視していたよ。王都を……」


 そして俺は歩いた。


 ひたすらに歩いた。


 匂いの根源が近づくにつれて俺は心臓の音が高鳴るのを感じ足早にその根源へと向かう。


 とうとう目にした。


 溢れ出る肉汁が炭に落ちて燃え上がる匂いが格別。


 甘く味付けされただろうタレの匂いも相まって食欲にとどめをさしてくる。


 その根源を……


 だめだ。


『我慢できない』と、俺は幼少期に戻ったような気持ちで走り出してしまっていた。


「おっちゃん! その串焼き一本おねがい!!」


「はいよ!」


 すると焼きを見せてくれる。


「一本3カッパーね」


 そう言われた。


 安すぎる。


 これを取るなら1シルバーは固いだろうに……


 そう思いながら自然とポケットに手を入れた瞬間。


 絶望を味わった。


 ここまで来て……


 本当にここまで来て……


 財布を忘れたことに気が付いた。


 ダメだ。


 力が出ない。


「おっちゃん……」


「なんだ?」


「財布……忘れた」


 するとさっきまですごい笑顔だったおっちゃんは豹変する。


「っち!! 金なしかいあんた。金のない客は用じゃないんだ帰ってくれ」


 下げられる串焼き……


「あぁ……」


 情けなく零れた俺の声。


 それからはショックで俺は大通りを抜けて裏路地へと来てしまっていた。


 しゃがみ込み階段で休む。


「腹減った……」


 ここまで来て財布を忘れるだなんて不覚だ……


 不覚にも不覚すぎる。


 屋台で味わったのは肉の味じゃなく絶望の味……


 苦いより心に響く……本当にひどい。


 そんな絶望の淵に立っていると目の前を通り過ぎる二人の影。


 それを追いかけるは三人の男。



「ん?」


 そんな俺の注目を無視する三人の男はただならない表情。


 なんか事件性が漂うけれど正直……興味がわかない。


 こういうのって兵士か自警団の仕事だからなぁ。


 俺には関係ない。


 そう思っていた。


 けれどだ……逃げていたのは同い年かそこらの女二人。


「っく! 行き止まりか……」


「アリス……」


 勇ましい声と不安げな声が聞こえる。


 アリスと呼ばれた女は前へと出る。


 すると追っていた男の一人が言うのだ。


「もう逃げ場はないな? ここまでだ」


 こんな状況を見て聞いてる俺の逃げ場もなくなったんだけどな……


 極めつけにもう一人の男。


「悪く思うな。これもリトアリス王国の未来のため。さあ、その後ろの女を渡してもらおうか。さもなくば……」


 腰からこすれる金属の音。


 刃物を取り出したのがわかる。


 加えて匂い……仄かにかおる薬品臭がした。


 毒物……か。


 穏やかじゃないなぁ……


 それにリトアリス王国の未来のためだ?


 なんだか込み入った話になってる。


 すると赤色の髪を結わえた女の一人が勇ましくも剣を抜くのだった。


「貴様らの好きにはさせん。私は……ネリエル様をお守りする騎士。たとえこの身が滅びようと心と体は常に!! ネリエル様に捧げると誓った!!」


 なにこれ……すっごい介入しずらい。 


「さて……となれば命を盗られても文句は言えんな?」


 劇団口調で事を構えるのもどうにかしてほしい。


 こういう暗殺みたいなのって一瞬で終わらせるもんだろうがと突っ込みたくなる。


 するとアリスと呼ばれた女騎士。


「来るなら来い!! 私はいつでも覚悟はできている!!」


 一触即発の状況。


 さすがに血を見そうで気分が悪くなると思い俺は声をかけた。


「あのー……?」


 その言葉と同時に5人が一瞬で俺へと視線を向ける。 

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