第3話 イヤイヤ期、後に期待?
全力の入学イヤイヤ期に突入しながら日々を送る。
時折じいちゃんの魔術指導を受けながら研究、飲食、研究、飲食、たまに野外調査。
美味そうな物を見つけては口に入れて後悔する連続だ。
俺の見立てでは大きい魔物だとかは結構大味だったりする。
だから小さい魔物なら美味い可能性が残っている。
……と信じてる。
この前の英雄の谷にいたトカゲはダメだった。
どういう分類で、なんて名前もわからない。
わからないけれど生のもも肉をかじってみることにした。
するとどうだろうか。
硬い云々の前にひどく渋みのある苦い汁が出てきたのだからたまったもんじゃない。
口の中がきゅっとするような渋くて苦い汁を堪能したと思いきや胸が焼けるように熱くなった直後、痛みだしたのだから完全に毒だ。
けど麻痺したりとかじゃなく物理的に俺の中を食おうとするような不思議な毒だったから解毒に加えて治癒まで入れなくてはならないのは面白い。
そんな運に見放されたのか愛されてるのかわからない経験をしながら時折俺を魔術指導と言う名目でじいちゃんがあやしにくる。
「こういう魔術を使うやつもいるぞ?」
そう言って得意げに紙に描いた物を呼び出すという奇怪な魔術を使って見せるじいちゃん。
「式神ってやつだったっけ?」
「なんだ知ってるのか」
「そりゃ、じいちゃんが持ってる蔵書に魔導書、魔術書は目を通してるからね」
「勉強熱心なのはいいが俺は悲しいぞ」
最近はこんな感じにしょんぼりする瞬間が多い。
べつにどうでもいいのだけれど……
「確か契約した神獣とか意志を持つ上位存在に俺達が持つ物を代償に力を行使してもらうんだよね?」
「ああ、そうだ」
「じいちゃんは何を代償に、それを呼び出したの?」
俺をあやすじいちゃんとの生活も終わりを告げリトアリス王国魔術学院の寮へと行かなくてはならない日がやってきた。
他の街なんかにも魔術学院の
「とうとう、この日が来たな……」
師匠の意味を含んだような物言いに俺は眉間にしわを寄せることしかできない。
こんな寂しそうな顔をしてるくせに俺を学院に送り出すだなんてひどい。
でも……
俺はじいちゃんと過ごした邸宅前でカバンを握りしめ空を見る。
本当の親は、とうに死んでいる。
だからよくわからないけど……生きていたらきっとこんな感じで送り出したのかな。
そんな思いに馳せながら荷馬車でいろんな人と一緒に揺られながら俺は長い道のりの旅に出た。
俺の研究資料やらなにやら全部そのままにして……
残ったのはノートと手帳……そして魔道具の数々。
必要な物は手紙をくれたら送るって言ってたけど……畑の手入れとかちゃんとやってくれるかすごい心配だ。
あそこで採れる野菜や穀類は美味くするのに改造してるから万が一外に漏れ出でもしたら生態系を壊しかねない……
山一面にすべての植物を押しのけて改造した芋が育った時はどうしようかと思ったなぁ。
今となっては良い思い出だ。
ああ、美味しく確実に食べられるためにいろんなところに行って種を持ってきて小さい頃から何世代も重ねたのになぁ……
それから盗賊やらに襲われる事もなくあっさりと荷馬車はスムーズに進んだ。
悪天候に晒されることもなく。
一日、二日、三日と中継地点で乗客を降ろして乗せてを繰り返し……
いよいよリトアリス王国、王都アルセリアスへと到着した。
地続きだった田舎から一変して地平線の彼方まで広がって見えるのは海。
目が痛くなるほどに綺麗だ。
小さい頃に一回だけ来た時に見たっきりだったけどやっぱりいいな。
王都アルセリアスは海に面にしており他国との貿易も盛んで目新しい物がたくさん入る。
物流も盛んだからいろいろな物を見るって言う点においては退屈はしなさそうだ。
やはり昔と今では知識の量の違いか……
心外ではあるけれどなんだかすごく楽しそうに思えてきた。
海……
正直、ここは俺にとって未知の領域だ。
書物で読みふける間に想像した。
けれどそれはまったくもっていいほど『よくわからない』で埋め尽くされてしまう程に神秘で包まれている。
例えば深海。
そこはとてつもない力が加わり体がもたないとされているんだそうだ。
故に防御結界で幾度か侵入を試みるも何度も犠牲者を出してきたという素晴らしく興味を惹かれる世界だ。
加えて海の珍味。
これは山では味わえない……
いっそのこと学院サボってずっと海でも潜っていようかな。
ま、そんなことはしないんだけどね。
こんな俺でも恩師の顔に泥をぶん投げるようなことはしないさ。
するならなんの意味もなくても直接、泥を投げつける。
それが俺だ。
だから無難に学院生活を送って魔術師として一人前になったと妄言を吐きながら研究にふける。
これが理想の魔術師生活だろう。
しかし、魔術師に一人前も何もないだろうに。
だって……自分達の事でさえわからないままの事なんか無限にあるんだからな。
まあ、それはさておき。
わかる事から考える事にしよう。
面倒臭くても学院生活は嫌でもおくらなくてはならない。
魔術師課程には午前と午後の部があって午後3時には終了するとあった。
つまり……それ以降は研究ができるわけだ。
海あるし、魔物の生態調査と学術書の分析……それよりも未知の物達の味を見るところから始めようじゃないか。
「ふっふっふっふ……」
自然とこぼれてしまった笑いを手で押さえ周囲を見る。
するとみんな顔を引きつりながら俺を見ていた。
そんなこんなと長い移動馬車の旅も終わり学院寮へと到着するのだった。
「やべぇ、でけえ……」
さすがに、この一言に尽きる。
庭……見渡す限りの手入れが行き届いた庭園。
野菜……植えていいかな?
そびえたつ学院は昔、遠目に見た城と見間違えたそれだった。
王様の一人や二人住んでそうな場所なのに学院らしい。
一歩、また一歩と学院寮内に足を踏み入れる。
これから俺は……ここでなんやかんやするんだと物思いに耽っていると寮の扉がガチャリと開いて一人の背の高い男がやってきた。




