第2話 魔術師として
「解毒と治癒魔術を己の肉体に刻み込み。毒物の摂取を自分で実験するような弟子を持つのは気が気ではないが……ノエルらしい答えだよ」
「あれ? 俺、褒められてる?」
「呆れもあるがね。それで本題だ。お前もいい歳だ」
「いい歳? いやいや、じいちゃん程じゃないよ」
「戯け! わしとてまだまだじゃ!! って、そうじゃない! あぁ……王立魔術学院への入学年齢は18からだ。お前は今年で17歳になるだろう?」
「ん? ちょ、ちょっと待って」
「なんだ?」
「学院って……まさか俺が?」
「何を言っている。あたりまえだろう」
「えええぇ……」
「露骨に嫌そうな顔をするでない」
「断ることは?」
「あるわけないだろう?」
いやいやいや冗談じゃない。
せっかく、ここらの魔物の生態や美味しいものの研究に加えて調理法にも磨きがかかってきたところで学院?
たしか学院と言うとリトアリス王国がつくる国立リトアリス魔術学院だったか?
都会も都会じゃないか!
前にじいちゃんに連れて行ってもらった事があるけど魔物の魔の字もなければ研究しがいのある物もない。
王都内のお店には……ちょっと……
いや結構……いやすっごい興味のある屋台とかも並んでいたけど……
だがしかし!!
この家の周辺の、この面白さに比べればささいなこと。
それに人が多いのは落ち着かない。
「まあ、学院へと通うこととなれば寮に入ることになる。それが心細いのはわかる。私も長くノエルとここで住んできたからな。私も寂しい気持ちはあるがね……」
あ、ごめんじいちゃん。
俺、あんまり、それ考えてなかった。
いや……まてよ。
「そうだ! そうだよじいちゃん!! 俺は寂しいよ!!」
「うぅ……ノエルよ」
「じいちゃん!!」
すると目頭を押さえてたじいちゃんは真顔になった。
「そんなこと考えてなかっただろう?」
「っう……」
やべぇ……見透かされてる。
「いやでもじいちゃんに、ここまで育ててもらった恩も感じているんだよ? あの時の空腹を俺は忘れてない……そんな俺を拾ってくれたことは感謝しているからね?」
「……お前を拾ったのは成り行きだ。あまり気にするでない」
「気にするでないじゃないよ! だからほらね? 入学は……」
「だめだ。次の年の初めの月。お前を王都へ送る」
「えええぇ! まさか……この前に出かけてくるって言って数日、家を空けてた時にその話をしてきたの?」
「まあな」
「そんな……」
「しかしノエルよ。リトアリス王国にいる魔術師であるなら誰しもが通る道だ」
「えー……」
「そう嫌そうな顔をするでない。今のお前は学院へ出てないというだけで力があるにもかかわらず一人前の魔術師とは呼べんのだからな。名誉のためにもな?」
「名誉があったってお腹は膨れないよ……」
こんなことになるとは思わなかった。
俺はただ、ここで食の探求と魔術の研究ができればそれで十分だったのに……
しかし、学院かぁ。
学院……
がくいん……
あれ?
学院って入るために選抜試験とかなかったっけ?
そうだよ。
試験だよ!!
「ちょっとまてじいちゃん」
「師匠だ」
「師匠! 世の中、そんなに甘いはずがない」
「甘い……だと?」
「そうだ! 学院と言えば学生となるために選抜試験というものがあるのを聞いたことがある!」
「ふむ……そうだな」
「それを通過しなければ例え極光の魔術師様の弟子だからと言っても早々、入学できるような────」
「ノエルなら受ける必要もないだろうて、それはもう書類審査のみで通した」
「甘い世界じゃ……え、試験ないの?」
「ない」
「え……なんでないの?」
一瞬で俺の目論見が崩れた。
適当に受けて『落ちちゃった! ごめん!!』 って言って帰ってくるという完ぺきな計画が……
「貴族の出の者や王族の者も書類審査で入学するからな。まあ実力に見合わなければどうなるかは後々じっくり効いてくるだろうがね」
「そんな! 横暴だ! 強権だ!」
「何が強権だ。どうせおまえさんの事だから適当に受けて『落ちちゃった! ごめん!』なんて言って帰ってくるつもりだったんだろう?」
「んな?! なぜそれを……」
「なぜそれをじゃない。はぁ……馬鹿と天才は紙一重とは言うが……いいかノエルよ。真面目な話をする」
「え、ずっと真面目じゃなかったの?」
「戯け者!! 私はずっと真面目だ!! お前さんが変にのらりくらりとこの件を避けようとするのがいけないんだろう!」
「あ、はい……」
「いいかノエル。今まで友達はいたか?」
「友達……?」
「そうだ友達だ」
「そうだなぁ……ヒュエルバードが最近チュンチュン飛んできてちょっかいかけてくるくらいかな? 最近、研究結果を待ってる時の遊び友達だね」
「ヒュエルバードを……はぁ。そうだ! 村におったあの娘はどうした?」
「あー、ミーリアか。兵士の父親が出世したとかで王都に引っ越すって言ってそれっきりかな。度々遊びに来られて気が気じゃなかったのは覚えてる」
「寂しくは……ないのか?」
「ああ、いや全然? むしろ危ないから来るのはやめてほしかったくらいだ」
「……はぁ」
何度溜息をもらすんだろう……
「私がお前くらいの時はもっとなぁ……」
「また昔話?」
「うるさい。だがなノエルよ」
「うん」
「確かにお前が魔術を学ぶには学院だと物足りないだろう。基礎も何もかもを私が叩き込んだんだ。お前にとってそこは退屈の毎日になるだろう」
「じゃあ、ならなおさらいかなくてもいいじゃない?」
「だがな? 人と人とのつながりや、そこでの魔術のあり方、考え方についてはそこでしか学べない……もし、そこを違えてしまえばお前は本当に一人になってしまう。だからな?」
「うーん。言いたいことはなぁ……なんとなくわかるよ。知見を広める場としてはとても良いと思う。でもなぁ……」
「私がここまで言ってお前さんは、この申し出を拒むか」
「ここでの俺の研究がなぁ……」
俺のこの一言は魔術のように沈黙を作り出した。
魔力なんて使ってないのに……
「お前を引き取った時、ここまで魔術馬鹿に育つとは思いもよらなかったよ……」
「魔術馬鹿とまではいかないんじゃない? 現にじいちゃんの足元にも俺はまだおよんじゃいないでしょ」
「お前は……そう思うのか?」
「俺は俺の速度で知りたいこと、試したいこと、見たいことをやってきてるだけだ。怠惰だと言われればそれまでだけどね」
「ふむ……一つ考えを改めておけ」
「考え?」
「今のおまえさんの速度は怠惰と呼ぶには相応しくない。それだけは自覚しておくのだぞ」
「あれ、俺って怠惰じゃない? それなら学院の話は!」
「だめだ!」
「ちぇ!」
こうして俺はじいちゃんの強権により無理くりに国立リトアリス王国魔術学院への入学を強制されてしまった。




