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悪食の魔術師は美食を求める『毒は意外と美味しい。え? 魔術で治るから食べ放題です』  作者: 地雷源のチワワ


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第24話 大書庫にて

 密集する雑草を次々に引き抜いていく。


 いろんな種類の雑草が生えているけれど食べられる物もいくつかある。


 美味しい物もあるのだけどよくわからない物はあまり食べない方が良い。


 ざらりとした舌に残る変な感触と苦味もあったり、ことさら不味い物になると確実にお腹を壊すだろう。


 もしくはどこか、おかしくなる。


 これをすすんで食べる日が来ないことを祈るばかりだ。


 そんないざと言う時の食料にもなる雑草でも農作業では利用する方法がある。


 まずは隅に置いて乾燥させておく。


 あとで全部、燃やすのだ。


 これが入れすぎには注意だけど良い肥料になる。


 花壇に影を作っていた木々の枝を風の魔術で衝撃波を作り出して斬り飛ばして、あらかた掃除が終わった。


 どうやら、ばあさんは女性寮の管理人なのだそうで管理棟まで付き添う。


 道中他愛のない話をしながら送り届けて、そこから書庫棟へと向かう事にした。


 大聖堂のような豪華さのある景観の廊下は涼しくて広い。


 窓から覗く広場は芝生の演習場が広がっている。


 この前、ウィザドリスと決闘した場所が目に留まる。


 あれから話したりするようなことはなかったなぁ。


 けど、なんとなく避けられているのかと思えば「次は絶対に負けない」と小声でさっき言われた。


 なんだかんだでちょっと仲良くなってるのかもしれない。


 講義を受けている学院生と教員が召喚魔術の練習をしているのがのどかで良い。


 そんな景色を眺めながら、ひたすらにコツコツと足音を響かせて歩いた。


 行き来する学院生達。


 様々な顔を見るだけで疲れるのだから早く慣れたいところ。


 そして情報量が多い中、すれ違い続けてようやく書庫棟へとたどり着いた。


 さも重たそうな焦げ茶色の大扉を潜り抜ける。


 すると一面に並べられた長方形の机達がまるで軍隊のように整列している奥には螺旋の階段が伸びていた。


 そこかしこにいる学院生達は各々が借りてきただろう本を置いて読みふける。


 白熱してるだろう議論、中には談笑している者達もいた。


 耳の端に聞こえてくる声は、ある種の探求めいたコミュニティーの楽しむ姿を想像させてくれるのだから面白い。


 聞こえてくる内容はと言うと……


 詠唱なく魔術を発動させた場合の安定性。


 魔物食、魔力を含んだ食による身体強化論。


 ここから上を見た時の女の子の下着の色について。


 魔術展開の効率化は魔力コントロールにある等々……


 なんか一つ、おかしいのが聞こえてきた気がしたけれど気のせいだろう。


 さっきから情報量が多すぎて混乱しそうだ。


 まあ確かに、この書庫棟は階層状の吹き抜け構造になっていて5階まである。


「見上げたら、そうだな……あぁ」


 それはさておき壁には一面の本だなと贅沢を尽くしたような場所だ。


 読み切るにはどのくらいの年月が必要になるかな。


 開いた口がふさがらないと言うのは、このことだろう。


「さて……」


 こんなに、あると目当ての本が見つかるかどうか。


 書庫棟へと来たのは他でもない。


 ここ王都アルセリアスの周辺の地理を調べるためだ。


 せっかく野菜が育てられるのだ。


 まず美味しい野菜を育てるためには土をよくしないといけない。


 あの雑草達を燃やして灰にして土に混ぜれば野菜の実のつき方が良くなったりする。


 物にもよるけれど……


 けど、それだけじゃ不充分だ。


 肥料にするのは学院食堂の残飯だの茶葉だのと、身近にいろいろあるにはある。


 昔、そういう物を試し過ぎて害虫の温床になったりとひどい目に合った。


 せっかく育てた野菜たちが虫達や魔物の餌になってしまうのは耐えがたい。


 近場で精霊粉でも手に入れば嬉しいかな。


 現地調査もいいけどあらかじめリサーチしてから探した方が効率が良いはずだ。


 まあ肥料だけじゃなくて美味い魔物や植物、水の在処を知るのに、ちょうど良い機会だ。


 だが問題は……


 広い。


 とてつもなく広い。


 ここからどう探せと言うのか。


 ひとまずここは管理の人に────


 その時だった。


 ちょんちょんっと肩をつつかれる。


「ん?」


「ノエル」と聞き慣れてき始めた声。


 振り向くと長い金色の髪を結わいて肩にかけたネリエル。


 二冊の本を手にしてアリスと一緒にいたのだ。


「あ、ネリエルとアリス……と?」


 ネリエルとアリスがセットでいる。


 この二人が一緒にいるのはわかるけれど……後二人、知らない女達がいた。


「あ、グラトリスさんだぁ! あの時の決闘すごかったよぉ?!」


 そう話しかけてきたのは背の低い赤毛の猫耳獣人。


 ひょこひょことちょんっととんがった毛が特徴的な耳。


 その中の白い毛のフワフワを見え隠れさせて尻尾をふらり、ふらりとさせている。


「あ、あぁ……」


 さっそくなんて挨拶していいかわからない。


 相手は俺の名前を知っている。


 つまり、この猫耳獣人女は同じクラスの人だ。


「ん? もしかしてだけど……私の事、覚えてない?」


 嫌な予感がした。


 ウィザドリスとの決闘の時、名前を知らなかったことに激怒された記憶がフラッシュバックする。


 ここで知らないと答えてしまえば……


 だが、しかし無用なトラブルは避けたい。


 ここは────


「いや……えっと? し、知ってるよ? うん。そこそこには……ね?」


「そこそこぉ? そこそこ知られてたかぁ……じゃあ言ってみて?」


「え?! えっと、そのぉ。えっと……ごめん」


 すると猫耳獣人は下から俺の顔を覗き込むように眉をひそめる。


「えぇー?! 覚えてもらえてなくてショックぅ」


「あはは……」と何故かネリエルの苦笑い。


「じゃ、じゃあ……私、私は?!」と、自信なさげに隣の青目のエルフ。


 長く淡い水色の髪の隙間からちらりと見える瞳は何故かウルウルさせていた。


「う……」


 これで知らんなんて言おうものなら罪悪感にさいなまれそうだ。


 だから、そっと目を合わせるのをやめた。


「な! なんで、そっぽを?!」


「もう、しょうがない人だなぁ。私はハオネ! ハオネ・シユラ。猫ちゃんビースティアだよぉ」


「猫ちゃんビースティア……?」


「そうそう。良い赤毛でしょぉ?」


「ああ、フワフワ……でいいな?」


「そこ? うん。いいよね? フワフワァ!」


「フワフワァ?」


「とても可愛らしいですよね?」


 にこやかにネリエルが言うと「おだてても何もでないよぉ」とハオネ。


「わ、私は……ミューリル・エルエット・アズス・ホーネスリア」


「なが」


 はっと自分の口をふさいだ。


 しかし、ミューリル。


「ふぁ?! ああ……えっと、ええっと。ごめんなさい」


 と何故か謝ってきた。


 こうしてみると隣に並んでいる小さいハオネとはずいぶん身長差がある。


 にもかかわらずだ。


 どんどん小さくなろうとする様は、なんだか不思議な感覚になる。


「なんで謝るんだ?」


「ミューちゃん引っ込み思案だからね。これでも治った方なんだよ?」


「そう……なのか」


「ミューちゃんはミューちゃんって呼んでいいからねぇ? 私の事もハオネでいいよぉ」


「ああ、覚えてなくてごめん。俺の事もノエルでいいよ」


「そうかノエルゥ。そんなノエルを寛大な私が許そう!」


「ゆ、許そうぉ~」と小さくハオネの後ろに隠れながらミューちゃんも続いた。


「あ、ありがとう? で、二人はネリエルの友達……なのか?」


「はい。ハオネさんとミューさんは私のお友達です」


 そう、にこやかにネリエルが答えると「お友達でぇす」とニコニコのハオネ。


 一方ミューちゃん。


「わ、私がフィーリス王女殿下と! お、お友達だなんて、ず、ずずっず頭が高いです! わ、私はただの背景にぃ……」


 おどおどしながら視線をころころと泳いで行ってしまった。


「頭が高い……か。実際、ネリエルよりは背が高いよな?」


「そうだねぇ。ミューちゃん頭が高いからなぁ」


「ひぃ。無駄に、無駄に高くて……ご、ごめんなさい!!」


「もう、からかわないであげて下さい。ミューさんはお友達です! 頭が高いなんてことはありませんよ?」


「フィ、フィーリス様ぁ……」


 よしよしとネリエルに庇われるミューちゃん。


 この二人、名前は知らなかったがハオネは見覚えがある。


 魔力弾の演習の時に普通に術式を展開していたように見えたのに真後ろに飛ばす、すごいことをしていた獣人だ。


 そして一通りミューちゃんをよしよし、し終えたネリエル。


「ノエルもお勉強ですか?」


「勉強じゃなくて情報収集だ」


「情報収集……? ですか?」


「周辺の地理をね? ただ……」


「ただ?」


「本がたくさんありすぎてどこへ行けばいいかわからない」


「ああ、それでしたら、あの場所に案内板がありますよ?」


 ネリエルが指差す方を見ると腕いっぱいに広げてもおさまらないくらいの大きさの案内板があった。


 書庫棟の階層に圧倒されてたせいで全然、目に入ってなかった。


「あ、本当だ。ありがとう!」


「いえいえ、どういたしまして!」


「そんじゃな!」


 とりあえず、にこやかに別れを告げて早速、案内板のところへと行こうとした時、くいっと袖を引っ張られた。

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