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悪食の魔術師は美食を求める『毒は意外と美味しい。え? 魔術で治るから食べ放題です』  作者: 地雷源のチワワ


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第23話 それを貸してよかったのか

 穏やかな日差しの下。


 こんな日に舗装された道を堂々と歩くのはなかなか気持ちが良い。


 一歩踏み外せば崖、獲物を待っている飢えた魔物とかそう言うのがいないんだから住みやすい。


 退屈な午前の座学を終えて、そそくさと寮へ戻っていた。


 戻ってきたのは、お昼を摂るためじゃない。


 これは、つい先日の事だ。


 この大きい男性寮の最上階の並びに俺の部屋がある。


 そこそこ見晴らしが良くて学院を見渡すことができる良い部屋だ。


 学院寮は区画毎に学院生の借りることのできる場所が決まっていて俺のいる場所は特待生の寮室なのだとか。


 寮は、大きいせいで迷路と言うか迷宮のように入り組んでいる。


 だから若干不便。


 それは別に良いとして……


 向かいには女性寮。


 そして男性寮との間を挟む大きな通りがある。


 その通りの脇には花壇やら噴水やらがあって景観も良い。


 夜には街灯が仄かにレンガの道路を照らして、これまた綺麗な光景を作り出す。


 しかしだ。


 そんな景観が良くて入念に手入れも施されているにもかかわらずだ。


 鬱蒼とした一画があった。


 そこをじっと見ていたら木々の隙間から広い花壇……もとい農地があった。


 そのいかにも手つかずの花壇。


 興味が出ないはずがない。


 俺はそこへと向かっていた。


 レンガの道路を超えて古くなった石畳に変わる。


 そんな変化を横目に、どこか趣深さのある道を歩く。


 囲いの柵は古く、温かな春の日差しを一心不乱に受けた植物達で乱れていた。


 風にのってくるのは青臭さと仄かな花々の甘い香り。


 都会らしさがいっぱいにつまった学院の敷地内にも、こういう自然が残っているのだから、なんだか不思議。


 そんな植物達が乱れに乱れた背の高い柵の間を抜けると広々とした花壇が見えた。


「ここか……」


 そのまま足を踏み入れる。


 生命力の強い雑草達が広々とした花壇を我が物顔のように占有していた。


 乱雑に置かれた園芸道具。


 少し崩れかけた倉庫。

 

 かつての面影を、そのままに放置されてから大分、時が経っているようだ。


 おもむろに雑草を引き抜いて土を触る。


 そして土をすくいあげて軽く指で押した。


 手を入れた感触は柔らかく押せばポロリと軽く崩れる。


 良い土だ。


「使えないかな……」


 ふと、そんな独り言をつぶやいていたら後ろからゆっくりとした足音。


「ここに何の用だい?」


 その言葉の後に振り向くと杖を突いた老婆がそこにいた。


「広い花壇が見えたから気になって……入っちゃだめでした?」


「ダメという事はないさね」


「なら良かった」


「こんな誰も寄り付かない場所に……変わった子だねぇ?」


 そう言うと老婆は言う事をきかなそうな、ぎこちない体で落ちているスコップをなんとか片付けようとし始めたのだ。


 案の定、よろける老婆。


「ああ!」


 危ないと言う間もなく俺は老婆を支えた。


「っほ……すまないね?」


「大丈夫か? 無理するもんじゃないぞ」


「そうだね。でもね。こうも荒れてしまったのをね……見るに耐えられなくてねぇ」


「ばあさんが、ここを手入れしていたのか?」


「ふふ……まあね?」


「……そうか」


 すると老婆は土で汚れた花壇の淵を払って腰かける。


「ここはね。私と……私の夫との、思い出の場所でもあってね? 昔はもっと綺麗だったんだよ?」


「ふーん。花とかそう言うのを育ててたの?」


「そうねぇ。綺麗なお花でいっぱいだったわ。でもお野菜とかも育ててみたりもしたわよ?」


「おお。野菜!!」


「ほっほ。目の色が変わったね? 野菜が好きなのかい?」


「そりゃ大好きだよ。美味しいもん」


「今どきの若い子は嫌う子が多いというのに……やっぱりあんたは変わってるね?」


「そうなのか? 朝一の野菜とか格別じゃん」


「ほっほっほ。そうだねぇ」


「ところでさ。ばあちゃんがここを片付けようとしていたけど、なんでここだけこんな手つかずなんだ?」


「それはね。ここで幾度も学院生の失踪事件が起きたからなんだよ」


「わぁ。物騒……」


 やっぱり都会は怖いところだ。


「ほっほっほ。根も葉もない噂だよ」


「ああ、なんだ噂か。驚かさないでよ」


「あんた面白いねぇ? これは、からかい甲斐がありそうだ」


「え……からかう?」


「それにね? 他にも死んだ者の声がするだったり、踏み入れた者が怪我をしたり、呪われたりと悪い噂が後を絶たなくてねぇ」


「ふーん。そんなことが……それこそ管理するべきなんじゃないのか?」


「ほっほっほ。そうだね。この私も『呪われてる』なんて言われたこともあったわ」


「呪われてる?」


 年相応のしわに白髪。


 眼も濁り、関節のふくらみも見える。


 動きずらさは加齢による身体的な原因があげられそうだ。


 呪われているかと言われれば仕方ない部類に入るだろう。


 どうみても呪術の類に犯されてるようには見えない。


「私がどんどん弱っていっちゃったからね。年老いた身体のせいさ」


「そうか。まあ老いるのはしょうがないよ」


「本当に……そうだね」


「それで管理できずに手つかずなのか。もったいないな?」


「身体が言う事を聞いてくれていれば、もっと良くできるんだけどね。困ったもんだよ」


「ならさ。俺がここ使って良い?」


「おまえさんがかい?」


「うん。掃除したり野菜育てたりする」


「良いのかい? 園芸仕事はかなり疲れるよ? 学業もあるだろうに」


「ああ、慣れてるから大丈夫。じいちゃんの家で野菜育ててたし」


「ほぉ。だから野菜の美味しさをねぇ?」


「うん。やっぱり採れたては美味いからな」


「そうだね。いいよ。ここを使いなさい」


「お! いいの?!」


「遠慮することはないよ。好きにお使い」


「よっし!! ありがとう! 野菜出来たら教えるね!」


 こうしてはいられないぞぉ。


 早速作業に取り掛からねば……


「ほっほっほ。気長に待ってるよ」


 それからは、ばあさんが近くで見ている中で花壇の掃除に奔走した。


 


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