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悪食の魔術師は美食を求める『毒は意外と美味しい。え? 魔術で治るから食べ放題です』  作者: 地雷源のチワワ


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第20話 閃光の魔術師

「エーテル・シールド!」


 ハル兄の詠唱した声が響く。


 すると場内全体に白い透明な膜が上から下へ降りる。


「さあノエル! いつでもいいぞ?」


 意気揚々と……燦燦の笑顔で仁王立ちをしていた。


 正直……


 何をしようにもさっきの光の速さとやらで動かれちゃ俺の魔法も空を切るだけで終わるのは目に見えている。


 本当にどうしたものか……


 まずはそうだな。


 付き合わされてるんだ。


 さっきウィザドリスとやった決闘みたいにマギア・スフィアで……


 俺は右手を前に突き出す。


「ん? さっきの決闘の続きか?」


 一瞬で俺のやりたいことを理解してくれたようで……


 ハル兄はやれやれと言わんばかりに不敵な笑みを浮かべた。


「覚えたことは実践してみなきゃね?」


 体から湧き出る魔力が走る。


 ハル兄へと出した右手へと熱い力が流れる。


 そして宙に顕現する炎の文字の羅列。


 魔術式、展開。


 左腕に焼ける感触はいつものこと。


 宙へと螺旋状に次々と魔法陣を展開させた。


 こんなに準備を進めてもなおハル兄何もしない。


「マギア・スフィア……魔術師にとっちゃ基礎中の基礎。だが……一気に43個も展開するなんてな? よし!! 負けないぞ?!」


 組んでいた腕がバッと開く。


 瞬間、金色に輝く光の術式は瞬く間に形成されていった。


 ハル兄の光の魔力コントロールの良さも相俟って術式の展開速度が尋常じゃない。


 一気に4つ、8つ、16もの魔術式が倍倍に展開されあっという間に50以上の術式が出来上がっていた。


 これだから光の魔力の素質を持つ人というのは……


 生まれながらのスタートが違う。


「マギア・スフィア!!」


 俺は唱える。


 精一杯に。


「マギア・スフィア」


 余裕を含む詠唱はさながら嘲笑か。


 次々と飛び出す魔力弾。


 対しハル兄の魔力弾が雨のように迫りくる。


 それらはぶつかり合い爆風を呼び起こした。


 40発じゃ足りない。


 もっと……もっと必要だ。


 右手でも術式を再度展開する。


「マギア・スフィア!」


 何倍にも膨れ上がった特大の物を構築し放つ。

 

 しかし「ひゅー」っと口笛を吹いてハル兄。


「良いコントロールだ。マギア・スフィア!!」


 同じかそれ以上の魔力弾が迫る。


 ハル兄に当てるどころの話しじゃない。


 打ち消すだけで精一杯だ。


 精一杯打ち消した。


 けれど結果は無情に次第に追い込まれる。


 無情でもない。


 これは当たり前だ。


 そしてこの打ち合いの終わりは唐突に。


 大きな魔力弾が目前へと迫る。


 咄嗟に左手を地面へと突き立て前面に術式を展開。


「ファイア・ランス!!」


 赤く光る魔術式より大きな槍がまっすぐに上へと延びる。


 業火が立ち上り天上の光の盾へとぶち当たると炎は霧散。


 ぶち当たったファイアランスの断片が火の粉となり落ちてくる。


 打ち消すのはこれで十分……だけど。


「これで白黒はっきりついてない?」


「まだまだこれからだろ?」


「いやいや終わってない?!」


 そんな俺の発言を無視する様にハル兄は構える。


「来ないならこっちから行っちゃうぞ?」


 そう言うとハル兄は両手をパンっと合わせて祈るように言った。


「ルキス・グラディウス」


 瞬間、溢れんばかりの輝きが手の平から漏れ出す。


 両手をゆっくりと離すと次第に、その手の内より出てきた光の剣が顕わとなる。


「え……? 殺す気か?!」


「安心しろ。かわいい弟弟子を殺すつもりなんてないからさ?」


「でも、そのにやけ顔は……」


 殺しはしない……が半殺しにはするつもりだ。


 半殺しですめばいい。


 光の剣はそれだけまずい魔術だ。


 じいちゃんの得意魔術の一つ。


 光の質量でありながら実際の剣となんら変わらない性質を持つ質の悪い代物。


 にもかかわらず頑丈。


 加えて刃先は光の薄さに加え微弱な振動を発生させているもんだから少し力を入れるだけでなんでも切れる化け物級の剣だ。


 欠点は顕現させ続けるだけで魔力が馬鹿みたいに削られるくらいしかない。


 あれで肉を切ったらさぞ薄切りの良い肉ができるだろうに……


 じいちゃんはあまりそう言うことに使いたがらなかったなぁ。


 防ぐ手段なんて……


 あるにはあるが。


 ちらりと周囲を見る。


 いいや……もう仕方ない。


 姿勢を低くし左手を真下に向ける。


 そして右手の先を相手に向け構えることにした。


「おお?! 俺はやる気になってくれて嬉しいぞ?」


「やる気なんかないって……」


「なら、もっと追い詰めるまでだ!!」


 せっかく作り出した光剣を俺めがけ投げるハル兄。


 姿勢を横へ落とす。


 空を切り裂きながらすれ違う光の剣。


 それを紙一重で避けた刹那。


 その柄に光の術式がチラッと見えた。


 何故術式が……


 そんな疑問よりも予想外な事に通り過ぎて行った光の剣。


 遥か彼方の壁に刺さるのではなく俺の真後ろで不自然に落ちて突き刺さった。


 あぁ……


「なるほど────」


 そして……気づいたころに真後ろへとハル兄は立っていた。


「策なし……か?」


 だから閃光……か。


 けど……俺はハル兄の問いに対し笑顔で答えた。


「ああ、なかったよ。イグニス・エクスプロージョン!!」


 散らばった火の粉に魔力を注ぎ込む。


 そして……一帯を爆発させた。


 自身の周りに高火力の炎を展開。


 舞い上がる風圧で爆風を相殺させなんとか生き延びる。


 土埃がそこかしこを覆い隠す。


 ハル兄がいない。


 結構、広範囲に爆発させたつもりだけど……


 周囲を見渡す。


 次第に土埃が晴れていったところで驚いた。


 いつの間にか、そこかしこに光の剣が刺さっていたのだ。


 しまった。


 あの光の剣を両手で出す行為は演出。


 爆風を利用するとか……


 抜け目がない。


 そして土埃の中から突っ走ってくる影が一つ。


「いやぁ、いい爆発だった!」


 そう言い放ち剣を構えるハル兄。


 絶対、斬るつもりだ。


「それはやばいって!!」


 見えている内に屈み軌道から逸れる。


 そして瞬きすら惜しむ間もなくハル兄が通り過ぎて行った。


 空を切り裂く光の残像。


 それが俺の頭があった場所に見えるのだから恐ろしいにもほどがある。


「ええ?! 避けるのかよ!! さすがノエルだ」と俺の真横を一瞬で通り過ぎたハル兄は驚く。


「ボコるんじゃなくて殺す気だっただろ?!」


「いや……《《髪一重》》を狙ったつもりだから大丈夫だ」


「髪がなくなってたかもしれないのか……」


「しかしだ……真面目に振ってよ。あれを避けるやつはいなかった!!! さて!! どんどんやっちゃうぞ?!」


 そこからは地獄だった。


 俺が走って間合いを詰めたのが馬鹿になる程の速さでハル兄は迫る。


 通り過ぎていく光の残像。


 一瞬で消えるハル兄。


 スパッと斬られた袖。


 この術の唯一の弱点。


 それは初動だけは必ず見える所だろう。


 しかし、弱点が見えたところでどうしよもない。


 どんどん追い詰められていく。


 けど……諦めるのは癪に障る。


 避ける間に飛び散った火の粉へと魔力を伸ばし術式を仕込む。


 よし……


 ハル兄が姿を現す。


 瞬間、横へと飛んで避け両手を地面へ。


「ファイア・ウォール!!」


 五つの方向へと大きく伸びる炎の壁。


「うぉお?! あちち!! まあ、そうするか」


「ああも剣と剣を光速で動かれちゃな?」


 するとハル兄は残念そうに言う。


「んー……ここまで磨くのに結構、時間を要したんだがな? お前相手だとやっぱりうまくいかないのは不思議だよ」


「何を言ってんだ……何度、死にかけたかわからないよ」


「結構本気でやってるはずだからな……だが、こうも避けられたことはない」


「ん? ちょっと避けるのにコツがいるけど……そうなの?」


「まったく相変わらず……」


「でも、それが本気なら覚悟しとけよ。移動手段は抑えた。さすがに反撃するぞ」


 姿勢を低くする。


 そして、そのまま俺は駆けた。


「ふむ……中遠距離では勝てる見込みもないからな。良い判断だ。来い!!」


 魔術師同士の戦いに、この間合いはどうかしてるとしか言えない。


「イグニスピア!」


 右手で射出するのは一点に火力を絞った業火の槍。


「うぉっと?!」


 じりじりと火花を散らし光の剣で受けるハル兄。


 そして軌道を逸らされる。


 ここだ。


 この一瞬だ。


 この一瞬だけ目を逸らしたタイミングだ。


「イグニス・ブレード」


 左手で一点に高火力の炎を集中させた炎の剣。


 これで────


 しかし、強い衝撃同士がぶつかり合う轟音が響く。


 受け止められた。


「あっぶねぇ!!」


 ぶつかる炎の剣と光の剣。


 じりじりと火花と光を散らして俺達は鍔迫り合う。


「……っく!!」


 けれど、これは長く続かず強い衝撃波と共に押しのけられた。


「うーん。堪能した」


「はぁ……なら、そろそろ────」


「これを見せてもいいかもな?」


「見せてもって……」


 まだ何かある。


 ハル兄が眼帯を外しニヤリと笑みを浮かべた。


 どうやら悪い予感は的中したらしい。


 見失っ────


 瞬間、強い衝撃が頭を揺らした。

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