第19話 虐め?
また一人、また一人と横目に通り過ぎる学院生。
周囲の視線が俺に刺さる……気がする。
また一人、また一人。
チクチクと……
改めて周囲を観察するとどうしてこんな反応をするのか面白い。
そして、俺はと言うと……フードを掴まれ無様にもずりずりと引きずられている。
学園指定のローブに付いているフードはどうやらリードの役割もあるようだ。
うん……勉強になる。
多分……
それは冗談として捕食されてる時の獲物って、こんな気分なのかな。
そんな俺の心境とは裏腹にネリエルとアリスも何故かついて来ている。
そこで俺はふと思いついた。
「ネリエル」
「はい。どうしましたか?」
「助けて」
沈黙……
すると、とても困った目をしてから答える。
「それは私には……」
「今こそ王女様権限を……」
「ノエル……この学院は中立です。それに実力至上主義でもあります……ハルトさんを止めることはできません。それに……私にそんな権限はありません」
「そっかぁ……」
「あっはっはっは!! ネリエル様には申し訳ありませんがこれはやめることはできませんな!」
「ちくしょう……」
「なんだノエル。わくわくしないのか?」
これだ……
この人は昔からこうなんだ。
「これからボコられるのに……わくわくするわけないだろ?」
「まったく……相変わらず弱気な奴だな?」
「ん? 昔からそうだろ」
「そうだったかな。ところで先生は元気か?」
「ああ。じいちゃんは元気でやってるよ」
「へへ。そのじいちゃん呼びもかわんねえのな? まさかノエルが学院に入学するとは思わなかったぞ」
「じいちゃんに無理矢理、入学させられたんだよ。行きたくないって言ったのに」
「そうかそうか。無理矢理か……ノエルは期待されてんだな?」
「ん……期待?」
「ああ。リリィが最後の弟子だって言ってたのに……お前が来たからな?」
「ハル兄は……まあいいとしてどうして?」
「さあな。それは師匠に聞いてみない事にはわからねえ」
ここで人通りが多くなる。
学院の中央廊下。
各棟に分かれた教室や研究室棟に向かう学院生達とすれ違っていく。
そんな場所だからこそ無駄に集まる注目。
すれ違う人達が俺達を見て次々に口にするのだ。
「おい。閃光がまた何かしているぞ?」
せんこうという名前を。
「誰だあの男?」
「閃光に目を付けられるだなんて可哀そうに」
「後ろの御方ってネリエル様じゃないか?」
「あ、本当だ」
「まさか王女様に……」
「何かしでかしたのか?」
なんて俺を憐れむんだかわからない声とハル兄の事を閃光と呼ぶ声が目立つ。
そしてなんとなくハル兄へ。
「なんだか有名人みたいだな?」
「まあな。ここで魔術戦闘の研究もやってるからだろう」
「魔術戦闘……ってことはヴァルト先生とも知り合いなの?」
「ん? そうだけど……先生ってことはノエルまさか」
「なんだよ」
「ヴァルトさんの教え子になったのか?」
「うん。すっごい暑苦しい先生だったぞ」
その会話にネリエルも入る。
「そうですね。あの熱気はなかなか……ハルトさんは、お知り合いなのですか?」
「はい。昔からあのような人です。ですが後輩への面倒見はとてもいいですよ」
「そのような先生なのですね」
「ふーん。さん付ってことはヴァルト先生の方が上なんだ」
「上……かというとちょっと違うけどな。まあ俺の先輩ってところだ。噂話しかあまり聞いてなかったがなかなかの腕前らしいぞ?」
「そうなんだ。ところでさ」
「ん……なんだ?」
そこで俺はずっと気になっていたことを切り出すことにした。
ハル兄が俺をずっと引きずっている。
そして……この姿をずっと見ながら着いてくる女性がいた。
気だるげな青白い瞳に淡い水色の短い髪。
ハル兄と同じ格好をしているから知り合いなんだろうけど……ちゃんと着こなしているからハル兄よりしっかりしてそうな人だ。
こんな哀れな俺を見て何を思っているのかわからない。
けど、ずっと目が合っていたのにもかかわらず助けようともしないから、きっと薄情な奴だ。
「ん? ああ。ミアじゃないか」
「ハルト。また変な事している」
「いや、こいつと模擬戦しようと思ってな? こうやって捕まえておいてるんだよ」
「ふーん……王女様。下がって……です」
「へ? は、はい!!」
右手を俺達の前に突き出すと「虐め……良くない」と言い出した途端にびりびりと空気が震えるのを感じた。
雷属性の魔法だ。
「ミア待て! 別にとって食いはしないぞ?!」
いつになく慌ててるハル兄。
内心『そーだ、そーだ。いじめは良くないぞぉ』って心の中で救済されるのを心待ちにしていたけれども。
あることに気づく。
「って! それ撃ったら俺も痺れないですか?!」
「あ、失念」
そう言うと俺達へと向けられた右手は下ろされた。
本当に危ないところだった。
しかし、こんな状況でも一瞬だけ足を止めただけでハル兄は容赦なく俺を引きずる。
するとミアという名の女性はそっと、か細い声でハル兄に聞いた。
「どこいくの?」
「闘技場だよ」
「やっぱり……いじめ?」
「違う違うって、お前も来てみればわかる」
「ふーん……あと王女様もつれて?」
「うーん……」っとハル兄がポリポリと頬を人差し指で掻いているとネリエル。
「あ、えっと申し遅れました。ネリエル・エトレ・フィーリスです。こちらはアリス・ガーディエット」
軽くアリスも会釈をすると事もなさげにミア。
「知ってる。いや……知ってる……ます?」
「え? えっと……」
その返答にキョトンとしてしまうネリエル。
そしてハル兄が弁明する様に「申し訳ありませんネリエル様。こいつ口下手というか……あまり話に慣れてませんでして御無礼をお許しください」と丁寧に答えた。
「ごめん申し立てまつる」
「それどこの国の謝り方だよ」
「面白い言い回し……ですね? 私は気にしておりませんので……お構いなく」
「お構いなく。だって?」
「だって。じゃねえよ……少しは戦いだけじゃなくコミュニケーションにも慣れてこい」
俺を引きずりながら挟まれる会話。
この間に、こっそり逃げようかとも考えたがフードだけでなくワイシャツの襟も、がっしりと掴んでいるハル兄の握力がそれを許さない。
それから階段を上りに上り、しばらく引きずられると静かな場所へと出た。
ギギギィっと大きな扉が開く音が聞こえる。
「なぁ? ここまで来たら戦いたくなっただろ!」とハル兄。
ちなみに俺には廊下しか見えてない。
けど何を問われているのかわかる……だからこそ今の心境を声高に。
「俺、戦いたくないよぉ!」
そう言っているにもかかわらず「遠慮すんなって!」とぐいぐいと引っ張られ場内へと無理矢理に。
いつの間にか立ち見のところにネリエルとアリス。
そのほかにも何故かちらりほらりと何人かの学院生やら教師っぽい人も見えた。
広さはかなりの物で円形状に広がる闘技場。
1階席と2階席があり興行的に観戦できるような作りとなっている。
「なんて大仰な……」
壁には所々魔術を行使した結果と思われる傷がある。
そして中央へと来たところでぐっと持ち上げられ無理矢理立たされ……
「久しぶりの再会なんだ! 兄ちゃんがお前の実力を見ようってわけだ。ありがたく思うんだぞ?」
「やだ!!」
するとここまで付いて来ていたミア。
「極光の魔術師様の弟子?」
「ああ、そうだ。俺の弟弟子だ」
「……ハルト。大人げない」
これは好機かもしれない。
「そうだそうだー! ハルト大人げないぞー? ミアさん助けてー」
「うん。助ける」
そう言うと瞬く間に雷の術式を展開し右手を俺達に向け始めた。
また俺ごと屠ろうとしてる……
けど……魔術の構築から展開までの初動がかなり速い人だ。
かなりできる人なのは間違いない。
「おいおいおい!! 言っておくがこいつを舐めたらミアでも痛い目をみるからな?」
ハル兄の言葉を聞いた途端に「ふーん……わかった。がんばって弟君」とあろうことか俺をあっさりと見捨てたのだ。
場外へと向かうミア。
「ええ?! 助けてくれるんじゃないんですか?!」
「話が変わった」
「コロコロ変わらないでください?!」
「ハルト。うーん……閃光の魔術師がそう言った。その痛い目が私は気になる」
閃光の魔術師……だから閃光って呼ばれていたわけか。
そして無慈悲にもミアさんは俺を置いて行ってしまった。
「まったく……ずいぶんとかっこいい二つ名があるね?」
「ちょっとこそばゆいけどな?」
「閃光と言うからには……さっきのもそうだけど」
「ああ。光の速さを体現するってのはなかなかに大変だったぞ?」
「やっぱり……光の速さか。ここまで来るとか命がいくつあっても足りなかっただろうに」
「まあな? さて……始めるとしよう。けど、まずは……」
そう言うとハル兄はおもむろに両手をあげると、ふわっと宙に光の文字を次々と書きだしていった。




