第15話 杖は串焼きの道具
驚いたのはこっちなのだけれども……
それよりもまさか話しかけられるとは思いもよらなかったからなんだかそわそわする。
「あ、えっと……初めましてノエルです。よろしくです」
とりあえず初対面なので無難に挨拶をすると「は?」ときょとんとした表情になってしまった。
何か変なことをしただろうか。
変といえばいきなり手をはらわれたことの方がよっぽど変だとは思うけれども、そんな些細なことはどうでもいいだろう。
「あの、どうした……? んだですか?」
まずい……変な口調になっちゃった。
そのせいか男は「田舎者のくせに特待生になれるなんて極光の魔術師様の恩恵があってこそなのだな?」
確かに十分にあやかってるな。
ん?
いや、あやからされてる? んだけれども……
声の感じからして何故か怒っている。
綺麗なくるりとした茶髪に身なりは整えられ細身でありながら筋肉質な俺と同じくらいの背丈の男。
しかし、その男は、どこか俺を見る目が細く鋭い。
良いところの出なのはなんとなくわかる。
すると「ほらそこ、私語は慎むように」とアルデール先生に怒られてしまった。
「あ、はーい」と返事をしておく。
そして小声で「喋っちゃだめらしい……ですよ?」と言うと気にくわなそうに「バカにしているのか?」の一言。
次に彼は杖をさっと取って俺の肩にぶつかり、そのまま行ってしまった。
「んー」
何がしたかったのかがわからない。
悪くない挨拶だったと思うんだけどなぁ……
それからというもの基礎魔術訓練という杖による術式展開の実技講義が始まった。
「これより基礎魔術訓練を始める。皆に杖を持ってもらったのは他でもない。もう高等学部で遊びとしてやっている学院生もいただろう────」とさっきと同じような講義を天井が壁か空かの違いしかないような環境で始まった。
魔力の玉、『マギア・スフィア』を出して浮かして飛ばしている先生を背景に、ぼけぇっと空を眺める。
「今日のお昼は何食べようかな……」
そうボソッとつぶやいた時だった。
「では、一連の魔力の流れと本日、教えた理論を意識しながら、そうだな……ノエル。やってみなさい」
「え?」
「さあ、こちらへ」と誘導されるがままに何のことかわからず俺の目がすいすい泳いでしまう。
「どうした? どこか具合でも悪いのか?」
「い、いえ……悪かったら治せます」
「ん? さぁ、いいからこちらへ来なさい」
「は、はい」
そしてみんなの前に出ると「さあ、始めなさい」とアルデール先生。
いや、始めなさいって言われても……何をすればいいんだ?
まずい、ちゃんと聞いとけばよかった。
さすがに何をしてほしいかわからないのに相手の望む何かを実行するのはどんな魔術でも無理だ。
いや待てよ。
迷宮の奥深くに人の心を読むって言う魔物が────
「ん? 始めないのか?」
アルデール先生は腕を組み催促する。
いやしかし……止むを得ん。
「あの……」
「どうした?」
「何を……すれば?」と言うと学生側より「ふん」っと鼻で笑う声。
「はぁ……聞いてなかったのか?」と半ば呆れ顔の先生。
実際その通りなのだけれど真面目に応えたらダメな気がした。
「いえ、半分」
「半分?! はぁ……君は特待生であるという自覚を持った方がいいぞ? これだと一般学院生に落ちるのも────」とごもっともなお説教。
「はい。そのとおりだと思います。すみません」
素直に謝った。
「魔力の具現と術式による操作の実技演習をしているんだ」
「はい。そのとおりです……あ、もしかしてさっき先生が出してたマギア・スフィアの事です?」
「ん? ああ。それを実演してみてほしいという話だ。できるか?」
「それは、もちろん。ちょいちょいっと出して見せますよ!」
「ふむ。出すだけじゃだめだ。そしたら……」とアルデール先生は周囲を見渡すと「ちょうどいい。あの的に当ててもらおうか」
先生が指差す方には手前に腰ほどの柵の先にある丸い的だった。
中心が黒色で淵に白色が塗られた簡易的な物。
「あ、はい。わかりました」
その場で杖を構える。
「ここでいいのか?」と何故か先生は言う。
「え? だ、だめ……ですか?」と恐る恐る聞いてみると「いや……いいが。遠くないか?」の一言。
なんだか変な先生だ。
しかし杖を使うのは久しぶりだ。
これを使う時って魔力を大量に使ったりうまく術式を展開できずコントロールが定まらない時の補助のような時に使うからなぁ。
普段は串焼きの串にしか使えない。
幸い焼いても結構大丈夫だし。
他にも魔導書やら魔導玉、魔道具等々いろいろ道具はあるけれど、魔術師としてやることの基礎は変わらない。
まずは木の枝程の杖に魔力を集中させる。
浮き出てきた炎に宙で術式を書いて展開。
すると先生は「なるほど……」と何を納得したのかわからない様子で呟く。
それはさておき展開した術式にまっすぐ飛ぶように仕込む。
後は「マギア・スフィア」と引き金になる詠唱をすると魔力が流れて高密度の魔力玉が出来上がり空を切り裂く音を響かせながら的に命中した。
普段は指先から出してるから当たるか不安だったけどうまくいって良かった。
「おおぉ」と学生側より感嘆の声が漏れるのが聞こえつつ先生。
「ん? あたった……のか?」と半ば懐疑的に言う。
何を言おう。
正真正銘……「あたりましたね」と一応言うと「だが的は壊れてないぞ?」と目をこする先生。
壊した方がよかったのだろうか……
「あぁ……えっと一応備品ですし? 壊したらまずいかなぁ? って出力を下げてみました」
「あの術式にそこまで組み込むとは……さすがは特待生といったところか」
よくわからないけど感心されてるのかな。
「極光の魔術師様のお弟子さんなだけはある。良いお手本だった。皆拍手を」と先生に褒められ拍手をされた。
そこはかとなく良い気分だ。
それからは皆、各々思い思いのままにマギア・スフィアの練習をした。
的には当たらない者。
綺麗に当てる者。
何故か真後ろに飛ばす奇才もいた。
みんなからは笑われてたけどどうやったのかすごい聞きたい。
いやもう綺麗にターンしてったしそんな複雑な術式じゃなかったから気になる。
ネリエルとアリスはもちろん難なくこなして皆の注目を集めていた。
「さて、みんなお疲れ様。本日の講義はここまでだ。午後は各選考科目へと向かってくれ。まだ練習したい者はこのまま使用してもらって構わない。後片付けはしっかりな」とアルデール先生は一言残して生徒を置き去りにどこかへと言ってしまった。
さてと。
うっきうきのお昼のお時間だ。
早速、宿舎へ戻って飯を────
「おい、お前」とさっき声をかけてきた茶髪の男に後ろから肩を掴まれた。
「あ、はい。お前です」
そして、その茶髪の男は見下すような視線の後に舌打ちをした。
「お前、さっきは皆の前でうまくできたからと得意になってるんじゃないか? 田舎者」
「得意に? あぁ、確かに嬉しかった」
「は? お前、本当にむかつくな。私のような貴族を前に馴れ馴れしく振舞うその態度が気にくわん。誇りも、名誉もない下民が」
「えっと……馴れ馴れしくしたつもりはございませんでしたが……どこか気に障っちゃいました?」
だめだわからん。
なんでこの人こんなに怒ってるんだ。
「覚えが悪いな? お前の態度が気にくわないと言ってるんだよ。良いだろう。お前にこれから貴族の力と言うものを教えてやる」
「貴族の……力?」
なんだか知らないことを教えてくれそうだ。
「ああ、そうだ。俺と魔力弾で決闘だ」




