第12話 下処理は水魔法で!
宙をぴちぴちと舞う背の斑点模様が特徴的な魚。
その魚の口元をグイっと持って岩の上へと置く。
「すっごい!! おっきなカルリエですね?!」
「ふむ……確かに、これは見事な大きさだ」
二人の熱い視線がぴちぴちと跳ねまくるカルリエに注がれた。
「まさかいきなりちゃんと食べられる魚が釣れるだなんてな……よし食べるか」
「このまま料理をするのですか?」
「いや……でも三人なら食べきれるかな?」
「ん? 食べきれる……ですか?」
「まあいいか。一旦いつものようにやるけど……ネリエルは見ない方がいいと思うぞ?」
「見ない方が良いというと?」
「温室育ちの王女様には刺激的じゃないの? こういうのって」
「な! 私を舐めないでください。全然大丈夫です! それに温室育ちじゃないです」
「温室育ちも美味しくなるから一概には馬鹿にできないけどな。まあいいや」
しかし闇魔法は見られるとまずい。
なら……あまり得意じゃないけど水魔法でやるしかないか。
右手でぴちぴちと暴れるカルリエを抑え左の指先に炎の文字を刻む。
方向は一点に。
速度は魔力を絞り肉を貫く程度に……そして詠唱。
「ニードルウォーター」
静かに指先より生成された水が勢いよく射出しカルリエの眉間よりやや上の頭にあたる。
狙い通り。
瞬間、魚はピンっとなりガクガクと震えながら動きを止めた。
カバンより包丁を取り出し魔法で水を出しながら包丁を洗う。
「よし……角度はこれくらいかな」
包丁をすっとエラの隙間に刺し込んで切ると血が溢れ出てきた。
「なぜこのようなことを?」とアリスからの質問。
「あぁ……どの生き物にも言える事なんだけど結構、血で臭くなっちゃうんだ」
「血で……ですか?」
「うん。理由はよくわからないんだけどな? それで美味しくするために、いきなり調理に入るんじゃなくってこういう絞める工程をはさむ必要があるんだ」
「へぇ……」
「それでドバドバ出てきた血を海水……でいいのかな? まあいいか。海水で洗ってと」
海水にジャバジャバとピクピクしているカルリエをつけて血を念入りに洗い流していく。
すると恐る恐るネリエル。
「私も触ってみていいですか?」
「ネ、ネリエル様?!」
「い、良いじゃないですか! こういう時でもないと……こんな体験できないでしょう?」
「それは……そうですが……」
「ん、何か問題でも……? まあ良いけど……なんならこのまま洗ってみる?」
「え? 良いのですか?!」
「ああ、いいよ。このまましばらくは血を抜くのに時間が必要だし」
「ありがとうございます!」
ネリエルは靴を脱いで裸足になり俺のところへとやってくる。
「多分……この大きさだから6分くらいやって様子をみるか」
「わかりました!」
ネリエルへとカルリエを差し出す。
「歯が少し鋭いから気を付けてね」
「は、はい!」
「顎らへんをくいって持つと持ちやすいよ?」
「こ、こうですか?」
「うん。そうそう上手いじゃん」
「お、おおお?! 重いです……あ、ちょっとプルプルしてる」
「痙攣してるんだよ。この状態のままにするのとしないのとだと何故か味がちょっと違うんだよね……だからこの後血を抜いたらそれを抑える工程を挟む」
「へぇ……」
「それで、そのまま海水にぽちゃぽちゃ浸す」
「ポチャポチャ……こ、こうですか? ノエルがやってた感じを真似してみてます」
「うんうん。いいね。まあやり方なんて適当でもいいんだけどな」
「ええ? そんな適当でいいの? あ、また動いた」
カルリエがぴくぴくするたびにピクピクと震えるネリエルがなんだかおもしろい。
「このエラの色が血の気の引いた感じになったら終わりだ」
「はい……」
ふと……真剣に魚の血抜きをする王女様ってレアな光景では? と思いながらその様子をまじまじと見守ること4分程。
「ちょっと上げてみて?」
「わかりました」
「うん……ピンク」
「え?!」
何故か驚きながら下を見るネリエル。
「え? どうしたの?」
「い、いえ?! あはは……ちょ、ちょっとびっくりしただけです」
「んー? それで、このエラがさっきより赤くないと思うんだ。それが良い感じの目安」
「そ、そうなのですね……」
「大丈夫?」
「は、はい!! 大丈夫です! 大丈夫、大丈夫……」
「よし、それじゃ貰うね」
「はい。ありがとうございます」
「いや礼を言うのは俺だよ。洗ってくれてありがとね」
「……はい!!」
「そして、この痙攣を止めるのに……」
ああ……闇魔法使えないのは不便だ。
手を当てて中の神経に闇を出して圧縮して潰すだけなんだけどなぁ……
闇の性質は引力にある。
魔術で顕現させるとそこにあったものが何もなくならせるようなことができる。
光も何もかもを引き寄せ全てをなかったことにすることができる破壊の魔法……
悪魔はそれこよなく愛して使うのだからたまったもんじゃない。
だから嫌われる。
闇魔法を使って引力を強めてから人を立てなくし膝間づかせるのはあいつらの性格の悪さがわかるよなぁ。
だが、そんなつまらん使い方をしてるようじゃ二流だろう。
まったく……迷惑この上ない。
まあいいか。
水魔法で押し出すか。
さっきの要領で神経があるだろうところが頭からわかりにくいから尻尾……
「ニードルウォーター」
水が収束し尻尾から神経があるだろう所へと入るとそのままスパッと何かが押し出される。
スポッと海へと抜けていくのが見えた。
ああ……もったいない。
それを即座に拾って下処理がうまくできたことを確認した。
「これで完了だ。これから調理に入るよ」
「下処理って……大変なんですね。私こんな事できる気がしませんよ」
「まあ、最初は失敗ばかりだとは思うよ。俺もこんなにできるようになるまでは試行錯誤にそこそこ時間をかけたし」
「ノエルはいつからこのようなことを?」
「いつから……?」
「はい」
「そうだなぁ……」
小さい頃の記憶……か。
明日食う物もなかったあの時に街中にすばしっこく歩くネズミだとか……かな?
臭くて……
まずくて……
とても食えたもんじゃなかったけど……
腹を満たして体を動かすのにはちょうどよかったな。
「物心つくころからかな?」
「両親は……いらっしゃらなかったのですか?」
「いたよ」
「いた?」
「とっくの昔に死んでるよ。内乱があったじゃない?」
するとなぜかネリエルの表情が一変した。
「……はい」
「俺の住んでたところとか占拠されて、そのまま外に行けずに孤立」
「あれで……たくさんの方が亡くなったと存じております」
「占拠されたせいで明日食う物すらなかったからなぁ。その時にネズミとかを取って焼いたりして食べたのが最初かな」
「……」
「まあそんなことよりカルリエだ。カルリエ。まずは生で……え?」
気が付くとネリエルの頬に流れる物が見えた。




