↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪食の魔術師は美食を求める『毒は意外と美味しい。え? 魔術で治るから食べ放題です』  作者: 地雷源のチワワ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/27

第11話 さざ波の音は心地よく

「入学初日から釣りですか?」

 

 さっきアリスより叱られた事など何もなかったかのように懲りずここにいる王女様から話しかけられる。


「ん? ああ」


 そっけなく『ああ』しか言えないけどなんて言えばいいんだろうか。


 不思議そうに俺の手元を見るネリエルの後ろからアリスが岸壁を上ってくる。


 そしてネリエルの肩を右手で掴むのだった。


 するとネリエルはやれやれとでも言いたげに「もう落ちませんから大丈夫です」と一言。


 そんなネリエル態度がいつものことなのか軽く流すアリスも俺に聞く。


「明日の授業もあるというのに、どうして釣りなんかを?」


 ああ……魔術を学ぶ学院生なら、きっと明日の学びを優先して勉学に勤しむのが普通なのだろうか。


 だが、残念ながら基礎魔術なら俺はとっくにじいちゃんから教わってるから特にやることはない。


「午後は暇だったからな」


 餌を針へとこねくり回していると横目にぷくっと頬を膨らませたネリエルが見えた。


「むぅ……」


 アリスに向けていた以上の不服そうな顔だ。


「な、なんだよ?」


「それなら私のお話の誘いをなんでお断りになられたのです?」と袖をくいっと引っ張られた。


 手元が狂いそうになるからやめていただきたい。


 心の中でため息が漏れる。


 この王女様がいったい俺に何を求められているのかがわからない。


 貴族やら王族様ならいざ知らず……一般庶民で田舎育ちの俺を王女様が気にかける理由なんてあるのだろうか。


 まあでも、じいちゃんがちょっと偉いだけで俺は偉くもなんともないのにな。


 うーん……


 うまいかわし方もわからないし……とりあえず、ありのままに……そのままに答えることにするしかない。


「あ、あー……えっと、まあ暇だけどね? 暇じゃないが正解だ」


「と……言いますと?」


 ネリエルがジトっと俺の目を見る……


 やめてほしい……なんて言って良いかわからないから誤魔化すしかない。


「……っと、と言うか何でネリエル……ネリエル王女様とアリスさんはここへいらしたので?」


 そんな慌てた俺を見て何故か鼻で笑うネリエル。


「ふふ。もう取り繕っても遅いですよ?」


「え? 取り繕う?」


「はい。もう、そのままネリエルで問題ありません」


「ああぁ……えー? でも失礼では?」


 そう言いながら話を投げ出したい勢いで竿をひゅっと海へと振った。


「お見事!」とネリエルが褒めてくれる。


 それからネリエルは、さっきの話をつつくわけでもなく波にゆらゆらと揺られている浮きをしばらく眺めていると……どこか寂しそうにぼそりと呟いた。


「……失礼ではありませんよ?」


「……いやー、いち平民の私めが王女様を呼び捨てにだなんてできませんよ」


「さっきまでしてたくせに……なら、こういう誰もいない時だけで結構です」


 一瞬だけ浮きがぴくぴくと反応する。


「ソンナオソレオオイ」


「ちょっと心が籠ってないですよ?」


「あー……ちょっと竿がさ? って……どうして私をそんなに気にかけてくださるのでしょうか?」


 するとネリエルは俺を見るのをやめて海を見てしまう。


「……なんと言えばいいのでしょうか」


 そこへアリスは溜息をつきながら「ネリエル様はノエルさんを大変お気に召されたからですよ」


 その言葉にポカンとネリエル。


「……え?」


 俺は揺れそうで揺れない釣り竿の感触を確かめつつ淡々と。


「ああ、お気に召されてしまいましたかー」


 まさか面倒事の主にお気に召されてしまうとは俺もほとほと運が悪いようだ。


「ちょ、ちょっとアリス?! それだとまるで私がノエルの事をす、好きみたいじゃないですか?! ち、ちがうから! ちがいますよ?!」


 やれやれと遠くを見つめるアリスに全力で否定しにかかるネリエル。


「あー……好奇心的な?」


「そ、そう! 好奇心! 好奇心ですよ? 決して好きとかそういう────」


「それでついて来たわけでございますかぁ……」


「もう! 違います!! アリスも意地悪しないで!」


 ジト目でそっぽを向くアリス。


 こういう時に悩まされてきたツケを発散しているのだろうか。


 それからネリエルはなぜか急に寂しそうな顔をしたのだ。


「対等に……私と対等に話してくださる方って……居ないんですよ」


「まあ、それは王女様だからね?」


「はい……それは私もわかっているつもりです」


「なら────」


「誰も……本当の私なんて見ようともしません。王女である……誰がそんな生まれを望みますか? ただそれだけなのに……そんなの……望んですらいないのに」

 

 気が付くと隣のアリスは耳を塞いでいた。


 望んですらいない。


 その気持ちは痛いほどわかるよ。


 俺だって……あんな餓死する淵を彷徨うような生まれじゃなかったら……


 うーん。


 過去をどうこう言うのは不毛だ。


 でも……こういう時に……なんて声をかけるべきなのかはわからない。


 偉い人が偉い立場であることにお悩みになられてる。


 でも……これって俺がどうこうできるような話じゃない。


 ネリエルもそれをわかっているはずだ。


 俺みたいな平民で弱い立場の人間にそんなことを話して何になるというんだろう。


「まあ……事情はわからないけど、こっそり俺についてくるくらいには何か溜まっていたのはわかったよ」


「それは! ……はぁ。こっそり着いてきてしまったのは謝ります……」


「別にいいけどね?」


 そんな俺のふとした言葉に安心したのか先ほどとは打って変わって微笑むネリエル。


 しばらく波と風の音だけが周囲を包み込む。


 するとネリエルは深呼吸をした。


「それで、どうして海釣りをしにきたのですか?」


「……不思議なことを聞くね?」


「不思議ですか? 釣った魚を売ったりするのですか?」


「いや、食べるためだよ」


「え? 魚なんて市場にたくさん売ってるじゃないですか?」


「ふっふっふ……ネリエルはわかってないな?」


「わかってない?」


「そうだ。魚はね? 釣りたてが一番美味しいんだ」


……多分。


 正直、海釣りについてはよくわからないから半信半疑だ。


「そうなのですか?!」


「ええっと……まあな! 川で釣った時も一度やみつきになったし多分美味しい」


「……多分?」


「うん。多分」


 伝統的な調理方法に塩で魚を閉じ込めて水を抜き保存したものなんかはかなり美味しかったから一概に釣りたてが一番美味いとは言い難いからなんとも言えない。


 けれど海鮮の生食は何よりも比較し難い美味さを誇ると本には記されていた。


 川魚では禁忌とされていた生で食べるという行為。


 生食に挑戦してみたけど確かにとても美味かった。


 しかしそれと同時にリスクはかなり高かったのは事実……


 度々お腹が痛くなったり食べても食べても体の力が抜けていく不可解な現象の理由について探ったりと大変だった……


 それから試行錯誤を重ねて体の中を焼けば治るって事に気づいたけど……不思議だよなぁ。


 何が原因だったんだろ。


 あんがいちっこい何かが体の中を食い荒らしていたりしてな。


「多分……なのですね?」


「うん。昨日みたいに美味しいって保証はできないよ?」


 ネリエルは、またさっきみたいに俺の横にしゃがみ込んで海を見つめた。


 しばらくさざめく波の音を聞きながらネリエルは笑顔で言うのだ。


「釣ったら私にも食べさせてくれませんか?」


「え?」 


「だめ……ですか?」


「いや、いいけど……あんまりおすすめはできないよ?」


「それは……どうして? 王女……だからですか?」


「王女かどうかはどうでもいいよ」


「ど、どうでも?!」


「あ、でも釣った魚に毒があったりしたら俺、暗殺未遂になるのかな?」


「……え?」


「な?! 貴様ネリエル様に万が一があったら承知はしないぞ?!」


 アリスが咄嗟に腰に帯びた剣を引き抜こうとするので「いやいや待て待て! もしもの話しだよ?!」


 その時だった。


 俺がアリスへと弁明する余地もなくピクピクと反応する釣り竿。


「来た!!」


 俺は即座に竿を引く


「かかった!」


 ぐいぐいと引き寄せられてしなる釣り竿。


「すごい!!」


 目を輝かせるネリエルを他所に糸を巻き取り引き寄せていく。


 しかし巻こうにも巻けない程の力強さに圧倒された。


「これ……やばい?!」


「がんばって!!」 


 横からネリエルの声援が聞こえる。


 瞬間、波しぶきと同時に魚が水面から飛び上がった。


「でっか?!」


「おっきい!」


「ほぉ……」


 まて、川魚と比べて全然大きさ違う。


 しかも一瞬だったけど間違いない。


 図鑑で見たことがある奴だ。


 それにさっき通りかかった市場でも売っていた……


 つまり、美味しい魚に違いない。


 太い楕円な形。


 背は紺色で腹は白く尾びれがとがっているあのシルエット……名前はなんだったかな……


 確か、カルリエって魚の名だった。


 そうだカルリエだ。


 そして巻き取れない糸を精一杯に巻いてようやく釣り上げる事に成功した。


「よっしゃ!!」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。