第37話 クロハの兄貴分は死んでなくて、でもかなり厄介な場所にいた
北隔離立坑の名が出た翌朝、保守庫の記録紙をもう一度調べ直した。
そして見つけた。
最後の余白に、別筆で一行だけ書き足された文字。
『北隔離立坑第三層留置区 生存者一 保守鍵保持』
生存者一。
しかも保守鍵保持。
クロハが紙を奪うように見て、しばらく何も言えなくなった。
「これ……兄貴分の可能性、高い」
「名前は?」
「消されてる。でも、保守鍵を持ってそこまで行く人なんて、そういない」
つまりハザマは死んでいないかもしれない。
その代わり、かなり厄介な場所に閉じ込められている可能性が高い。
北隔離立坑。
名前からしてろくでもない。
しかも“留置区”なんて、設備名の時点で嫌な匂いしかしない。
「帰還待機者を隔離していた場所、かもしれませんね」
セラが静かに言う。
「門に近い人間をまとめて置いていたなら、情報ごと封じるには都合がいい」
エルフィーも頷いた。
「都市上層が嫌がる理由としては十分だわ」
そこへさらに追い打ちみたいに、帰路環第二片と経路符が共鳴した。
【次位接続地点:北隔離立坑】
【現在の権限では開通不可】
開通不可。
つまり道はあるが、まだ足りない。
残る条件は、帰路環本体の接続と監理印の安定化。
クロハが紙を握る手に力を込める。
「行くしかないね」
「行く」
俺は即答した。
俺の帰り道にも繋がる。
それに、ここまで来て“生存者一”を見なかったことにはできない。
クロハの兄貴分は死んでいない。
たぶん。
でも、その“たぶん”は十分すぎる理由だった。




