第36話 成人済みの俺たち、ここで改めて危ない契約をちゃんと決める
保守庫から戻った夜、俺たちはもう一度だけ会議を開いた。
今度は地図より先に、契約書が机に乗る。
「……契約書?」
俺が聞くと、セラがうなずいた。
「はい。危ない場所へ行く前に、取り決めを文書化します」
「急にちゃんとしてるな」
「急にじゃありません。ここまで口約束で来た方がおかしいんです」
その通りだった。
しかも今回は、帰路環、都市上層、灰外套、北隔離立坑と、危険の質が一段上がっている。
エルフィーが紙を指で弾く。
「私たちは全員成人済みで、自分の判断でここにいる。だからこそ、責任の線も曖昧にしない」
見習いとか新人とか言われることは多い。
でも、確かに俺たちはもう子どもじゃない。
セラも、エルフィーも、クロハも、俺も、自分の足でこの場所を選んでいる大人だ。
契約内容は単純だった。
深路標の情報は無断で売らない。
帰路環関連の取得物は共同管理。
誰かが単独で門を開こうとしない。
撤退判断はリーダー一任ではなく、最低二人以上で確定。
「俺の暴走防止条項、ちゃんと入ってるな」
「当然」
エルフィーとセラが同時に言った。
クロハは少し迷ってから、最後の署名欄を見た。
「外部協力者って書いてある」
「正式加入が照れる人向けの逃げ道です」
セラが真顔で返す。
クロハは吹き出した。
「なにそれ」
「嫌なら《深路標・準構成員》でもいいわよ」
エルフィーのその一言に、クロハはしばらく紙を見て、それから小さく笑って署名した。
「じゃあ、今日は外部協力者で。たぶんそのうち諦める」
変な契約だった。
でも、俺はこういうのが嫌いじゃない。
危ない場所へ行く前に、逃げ道じゃなく責任をはっきりさせる。
それができるのは、たぶんちゃんと大人のパーティだからだ。




