第35話 帰れない人たちの記録を見たら、俺の帰り方の意味も少し変わった
水門奥の保守庫には、もう一つだけ大きな収穫があった。
記録棚だ。
水に濡れにくい石筒に、古い記録紙が巻かれている。
最初は保守報告かと思った。
でも違った。
『渡界者受入記録』
『帰還不能者保護名簿』
俺は思わず手を止めた。
渡界者。
俺みたいな存在だ。
ページをめくると、昔ここへ来たらしい人たちの記録が並んでいた。
元鍛冶師。
元兵士。
元商人。
病で帰還断念。
世界適応のため定住選択。
門故障につき待機中。
最後の記録は、途中から急に途切れていた。
「……こんなにいたのか」
俺が呟くと、セラが隣で静かに紙を支える。
「ユウトさんだけじゃなかったんですね」
「当たり前だけどな」
でも、頭では分かっていても、実際に名簿で突きつけられると重みが違う。
帰れた人もいただろう。
帰れなかった人もいた。
その途中で、この世界に根を下ろした人もいる。
エルフィーが一冊の薄い記録を拾う。
『帰還待機者の共同住区、第四層北隔離立坑へ移管』
北隔離立坑。
初めて出る場所だ。
でも、その文字列を見た瞬間、クロハが顔を上げた。
「兄貴分が最後に追ってた場所、たぶんそれ」
ハザマは帰路の鍵だけじゃなく、そこへ移された人たちの記録まで追っていたのかもしれない。
俺は記録紙を巻き直しながら、胸の中が少しだけ変わるのを感じた。
今までは“俺が帰る方法”が中心だった。
でも違う。
もし門があるなら、それは俺一人の問題じゃない。
帰れないまま記録ごと消された人たちも、その先にぶら下がっている。
だから、たぶん。
俺が帰るとしても、帰り方はもう最初に想像していたものとは同じじゃない。




