第33話 四層水路の夜戦で、俺たちはまた普通じゃない引きを当ててしまう
北水路三番保守区は、名前の時点でもう嫌な予感しかしなかった。
実際、行ってみるともっと嫌だった。
四層水路のさらに外れ。
膝まで来る冷水。
古い水門。
視界の悪い霧。
「普通の探索者が来る場所じゃないわね」
エルフィーが小さく言う。
「だから保守区なんだろ」
俺が返した直後、水面の下で何かが走った。
【危機察知が発動しました】
【前方、水中、左右壁面に敵性反応】
「伏せろ!」
次の瞬間、水中から灰外套の連中が飛び出した。
しかも今回は水棲魔物まで混ざっている。狙いは保守区の金庫だ。こっちと完全に同じ目的で来ていたらしい。
「ほんとに面倒!」
クロハが悪態をつきながら、壁面を蹴って一人の首筋へ刃を当てる。
セラは後方で浄化光を広げ、水棲魔物の突進を鈍らせた。エルフィーは狭い足場でもいつも通り速い。水面の反射を無視して、正確に急所だけを切っていく。
俺は水門脇の制御盤へ飛び込んだ。
金庫はこの先だ。
でも正面突破より、水位を変えた方が早い。
【保守弁の開放が可能です】
「やってみる!」
錆びた把手を引くと、水門の流れが一気に変わった。
灰外套の二人が足を取られ、エルフィーの間合いへ流れる。
「いい判断!」
その一言と同時に、二人とも沈んだ。
残った魔物をセラの光で押さえ、クロハが金庫の鍵穴へ旧路工具を差し込む。
「十秒」
「早いな」
「褒めても手は速くならない」
十秒後、金庫は開いた。
中にあったのは、金貨でも遺物でもなく、薄い板状の符だった。
水に濡れても消えない古い刻印。
【外環経路符を取得しました】
来た。
帰るための鍵のひとつだ。
ただ、それを手にした瞬間、水門の奥でさらに重い足音が鳴った。
守りの本命が起きる音だった。




