第32話 クロハが俺たちを試す夜、ようやく本気の事情説明が始まった
その夜、帰路環第二片が消えた。
焦った。
本気で焦った。
でも同時に、犯人の見当もついていた。
「……クロハ」
仮拠点の棚は荒れていない。
扉も壊れていない。
外から盗られたんじゃない。内側を知ってる人間が、綺麗に持っていった。
俺は単独で屋根を走った。
こういう時、本当は一人で動くなと言われる側だ。
でも、今回は先に話したい相手がいた。
クロハは、いつもの屋上水塔の上にいた。
「持ち逃げか」
俺が言うと、彼女は月明かりの中で肩をすくめた。
「半分だけ」
「半分?」
「試した」
意味が分からない。
いや、たぶん分かりたくない種類のやつだ。
「何をだよ」
「ユウトが、帰る方法を前にした時に、どこまで他人を置いていく人か」
その言葉で、少しだけ息が詰まった。
クロハは軽口の顔をしていなかった。
「兄貴分も、門の話が見えたあたりから周りが減った。怖がって離れるやつ、利用しようと寄るやつ、先に持っていこうとするやつ」
彼女は布包みを持ったまま続ける。
「だから見たかった。あんたが“帰れるなら他は後でもいい”って顔をする人かどうか」
少しだけ腹が立った。
でも、それ以上に分かってしまう。
俺だって、もし逆の立場なら疑うかもしれない。
「帰りたいよ」
俺は正直に言った。
「地球に戻る方法があるなら、そりゃ欲しい。でも、それで皆を切るなら、今ここまで一緒に来た意味がない」
クロハは黙る。
「お前の兄貴分だって、俺にとってはもうただの他人じゃない。探す理由になってる」
「……ずるい言い方するね」
「素だよ」
少しの沈黙のあと、彼女は布包みを投げて寄こした。
帰路環第二片がちゃんと中にある。
「合格」
「テストやめろ」
「考えとく」
そして、ようやくクロハは本気の事情を話した。
ハザマは門を開いて逃げたかったわけじゃない。
帰れない人間を残したまま、一人で行くつもりもなかった。
だから必要な鍵を集めながら、同時に“戻れない側の人間も助ける方法”を探していたらしい。
それを聞いた時、俺の帰り方の意味も少しだけ変わった気がした。




