第31話 旧王都式の封印は、教会より先にギルドの上の方が嫌がっていた
監理塔の記録を持ち帰った翌日、ギルドの空気が変わった。
呼び出された会議室には副支部長だけじゃなく、見慣れない男がいた。
三十代後半くらい。
整った服。
笑っているのに、目だけが薄く冷たい。
「都市保管監査官のローデンです」
名前からしてろくでもなさそうだった。
「旧設備の私的調査は本来、都市上層の承認が必要です。取得した記録はすべてこちらへ」
いきなりそれだ。
副支部長の顔を見ると、明らかに不本意そうだった。つまり上から押しつけられている。
「どの範囲までを旧設備と言っているんですか」
俺が聞くと、ローデンは微笑んだ。
「あなた方が見つけたもの全部、と考えてください」
雑すぎる。
しかも、その言い方には保全より先に回収の意図がある。事故を防ぎたい人間の言い方じゃない。情報を閉じたい人間の言い方だ。
そこへ、少し遅れてリシェル監察官が入ってきた。
「教会としても、回収一辺倒には反対です」
ローデンの眉がわずかに動く。
「ほう」
「資料を読む人間まで消す形で封じれば、また別の事故になります」
完全な味方ではない。
でも少なくとも、彼女は“全部よこせ”だけの立場じゃなかった。
結局、その場では原本一部の提出と、複写の保有が認められた。
かなり危ない綱渡りだが、ゼロよりはましだ。
会議後、ローデンはすれ違いざまに小声で言った。
「若い探索者が、都市の都合より帰り道を優先するのは理解できます」
そこで一拍置く。
「ただ、門は個人の願いで開くには重すぎる」
脅しというより、牽制だった。
要するに上の方も知っているのだ。
帰還門が何かを。
それでも今まで隠してきたのは、きっと隠す利益があったからだ。
教会より先に、ギルドと都市の上層が嫌がっている。
それが分かっただけでも十分大きい。
大きいけど、面倒の規模も一段増えた。




