第29話 第四層の管理塔は、帰る方法より先に迷宮都市の嘘を見せてきた
四層は、三層までとは空気が違った。
広い。
静か。
それでいて、どこか人の手がまだ残っている感じがする。
「迷宮というより施設ね」
エルフィーの感想が一番しっくり来た。
旧保守路と正規通路が時々近づくのも分かる。もともと全部まとめて管理されていたのを、後から“冒険者向けの迷宮”として切り分けたような構造だ。
第四層監理塔は、水路の先に立っていた。
高い石塔。
半ば崩れているが、内部の導光管はまだ一部生きている。
入った瞬間、俺の視界に複数の線が走る。
【保守中枢への接続反応】
【帰路環端末との共鳴率が上昇しています】
塔の中央には、円盤状の古い制御台があった。
帰路環第二片を近づけると、盤面の刻印が薄く光る。
「完全に正解じゃない」
クロハが呟く。
制御台の脇に残されていた記録板を読むと、もっと嫌なことが分かった。
『外環搬送路、都市上層命令により閉鎖』
『帰還門運用権限、監理部より剥奪』
『以後、門関連記録は封庫移送』
都市上層命令。
つまり、事故や自然崩落で消えたんじゃない。
誰かが意図的に“帰るための設備”を奪って隠した。
「やっぱりそういう話なのね」
エルフィーが低く言う。
「帰還門そのものより、管理権を握る方が価値があるって判断した大人がいた」
俺は盤面の縁をなぞる。
指先の感触だけで分かる。
ここには昔、もっと大きな円環がはまっていた。
今の断片だけじゃ足りない。
でも足りないからこそ、何を集めればいいかも見えてくる。
塔の最上階には、さらに古い観測窓があった。
そこから見えた四層の配置は、今まで俺が知っていた迷宮の印象をひっくり返した。
道がランダムなんじゃない。
管理塔を中心に、外環、搬送、水路、封鎖区画がきっちり分かれている。
迷宮都市は混沌の上に立っているんじゃない。
最初から整理された設備の上で、わざと一部だけを“混沌に見せて”いた。
帰る方法より先に見せられたのは、迷宮都市そのものの嘘だった。




